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既存製品の対応は?

クアルコム「Snapdragon Sound」でユーザー体験はどう変わる? 発表詳細を読み解く

公開日 2021/03/05 13:09 山本 敦
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米クアルコムが日本時間3月5日の早朝にオンラインイベントを開催し、同社のモバイルオーディオ向け最先端テクノロジーをパッケージにした新たなプラットフォーム「Qualcomm Snapdragon Sound」を正式発表した。独自のBluetoothオーディオコーデックであるaptX Adaptiveはいよいよ96kHz/24bit対応になる。

同社のオンラインイベントと、メディア向けに開催したラウンドテーブルの取材内容とともにQualcomm Snapdragon Soundの詳細を振り返ってみたい。

高品位なモバイルオーディオ体験の新たな指標を担う「Snapdragon Sound」

Snapdragon Soundのロゴ

Qualcomm Snapdragon Sound(以下:Snapdragon Sound)とは、スマートフォンやタブレットなどモバイル機器による音楽再生から音声通話、ゲーミングサウンドを含む広義のオーディオ体験を、無線・有線両方の再生環境において高品位化する、クアルコムによる複数のテクノロジーが構成するプラットフォームの新たな名称だ。

今後、クアルコムが台湾に新設したテストラボにおいて品質評価ガイドラインに沿ったパフォーマンスと互換性の試験を行い、基準を満たす製品にロゴを付与するプログラムがスタートする。対象となるデバイスのメーカーは獲得したSnapdragon Soundのロゴを商品パッケージやパンフレットなどのマーケティング素材にプリントしたり、モバイル機器の場合はオーディオ機器とのペアリング完了後にポップアップを画面に表示して、ユーザーに信頼性の高い製品であることをアピールできる。

このたび新しいテクノロジープラットフォームが誕生した経緯について、Qualcomm Technologies International社のVoice, Music and Wearables部門でVice President and General Managerを務めるジェームズ・チャップマン氏が、オンラインイベントの中で次のように説明している。

Qualcomm Technologies International社のジェームズ・チャップマン氏

「近年、モバイルオーディオの技術は特にワイヤレスオーディオを中心に目覚ましい進化を遂げてきた。ところが未だに音楽再生や通話の音質、音途切れにノイズ、リップシンクのズレなどクリアできていない課題も多く、高いリテラシーを持つ人以外は品質の高い製品を選びにくい、または取り扱いづらい環境がある。近年は最先端のソフトウェアが実現する機能を制御するために、より高性能なCPU/DSPがモバイルとオーディオの機器に求められている。これらを動かすために機器が積むバッテリーへの負担も肥大化している」

「特に普及が進む左右独立型ワイヤレスイヤホンならではの利便性を保ち、一方では消費電力効率を高めることも、これからのワイヤレスオーディオにとって大事なテーマであるとクアルコムは考えている。そのために開発してきたソリューション群をプラットフォーム化して、開発者とコンシューマーの双方にとって有益な役割を果たす指標としたものがSnapdragon Soundだ」(チャップマン氏)

Snapdragon Soundの技術要件に96/24対応のaptX Adaptiveが含まれる

Snapdragon Soundは、モバイルデバイス向けSoCプラットフォームとして広く知られている「Snapdragon」のブランド力を活かして、クアルコムのテクノロジーが実現する上質なオーディオ体験を一般に普及させることを狙っている。

中核を担うのは2018年に発表されたBluetoothオーディオの音質と接続の安定性、レイテンシーの品質を向上させる最新のコーデック技術aptX Adaptiveだ。近年はスマートフォン、およびワイヤレスタイプのイヤホン・ヘッドホン、スピーカーに搭載機器が増えてきたことで、アーリーアダプターを中心に認知が拡大しつつある。

加えて現在もaptX Adaptiveのサブセットとして提供されている、スマートフォンによる通話音声の高品位化を実現するコーデックである「aptX Voice」や、機器どうしの有線接続時に最大384kHz/32bitのリニアPCM、またはDSDネイティブ再生をカバーするオーディオコーデックの「Qualcomm Aqstic Audio DAC(WCD938x)」などが合流して、Snapdragon Soundの大きな枠組みのテクノロジープラットフォームが形成される。

Snapdragon Soundのメリットとして、aptX Adaptiveが扱えるオーディオ解像度が2倍になるほか、通話音声のサンプリングレートも同社が「スーパーワイドバンド対応のコーデック」と紹介するaptX Voiceにより、mSBC(16kHz)の2倍となる32kHz対応にできることが紹介された。また遅延性能については主要メーカー「Brand A」のワイヤレスイヤホンに対して、aptX Adaptiveでは約45%の改善が見込めるとした。

Snapdragon Soundでは大幅な遅延改善が見込めるなどのメリットがあると説明する

スマートフォンなどのソース機器からレシーバー側のオーディオ機器までを「End to End」に結び付け、高品位な音声を伝送するためのオーディオソリューションとして、「Snapdragon Sound対応であること」を定義するいくつかの重要な技術要素がある。詳細はクアルコムが公開した図解の通りだ。

Snapdragon Soundの技術要件

スマートフォンを中心とするモバイル端末の側には最新のフラグシップSoCである「Snapdragon 888 Mobile Platform」のほか、これに統合されるセルラー以外のWi-FiやBluetoothオーディオなどの無線通信機能のサブシステムである「Qualcomm FastConnect 6900」などが求められる。

独自のコーデックであるaptX Adaptiveは96kHz/24bitへの拡張対応を実現する。同時にこれがSnapdragon Soundの技術要件になるため、ワイヤレスオーディオ製品にはaptX Adaptiveによる96kHz/24bitの信号をデコードできる最新世代のBluetoothオーディオSoC「QCC515x/QCC514x/QCC3056」が搭載されている必要がある。

すべてのBluetoothオーディオSoCは超低消費電力設計のアクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)専用回路を備え、aptX AdaptiveのサブセットであるaptX Voiceをサポートする。完全ワイヤレスイヤホンの場合はソース機器との左右同時接続技術となる「Qualcomm TrueWireless Mirroring」を組み込むことが可能だ。ほかにもモバイル端末の内蔵カメラによるビデオ録画を、HDR動画に独自の3Dオーディオを組み合わせながら行うための新技術「Qualcomm HDR&3D Audio Record」が含まれる。

Snapdragon Soundの技術要件を満たすモバイル端末、ワイヤレスオーディオの製品は、先述のテストラボに持ち込まれた後に、厳しい基準による品質評価試験をクリアすることでロゴプログラムの認証を受けることができる。

Snapdragon Soundに対応する製品はロゴの使用が認められる

既存のスマホやオーディオ製品もSnapdragon Soundに対応できるのか

なおメディアラウンドテーブルでの取材において記者から寄せられた、Snapdragon Soundの技術要件に関する質問についてチャップマン氏は次のように答えている。

メディアラウンドテーブルにてジャーナリストの質問に答えるチャップマン氏

まずは既存のスマートフォンやワイヤレスオーディオの製品がソフトウェアアップデートによりSnapdragon Soundに対応できるのかという点について。チャップマン氏は主に2つの理由から「対応は困難」と回答している。ひとつはSnapdragon Soundの要件に対応できるハードウェアが、双方機器のチップに組み込まれている必要があるからだ。

最高96kHz/24bit対応の音質、信号が切れにくく落ちないロバスト性能や低遅延のパフォーマンスを確保しつつ、体験全体に最高のクオリティを確保しながらバランスを取るためには、双方の機器に組み込まれるチップセットのワイヤレスインターフェースに余裕が求められる。スマートフォンなどモバイル機器側のSnapdragon 888に統合されている無線通信用サブシステムの「Qualcomm FastConnect 6900」は、HDオーディオを安定して出力するための要になる。

BluetoothオーディオのSoCについても「特別なハードウェアがソフトウェアとともに組み込まれているため、Snapdragon Soundに対応するための条件としてQCC515x/QCC514x/QCC3056を組み込むことを設けた」とチャップマン氏は説明している。そして、ソフトウェアアップデートによる既存製品への対応が難しいもうひとつの理由は、テストラボにおける互換性テストを通過することがSnapdragon Sound対応の必須条件となるためだ。

クアルコムのモバイル向けSoCにはプレミアム端末向けのSnapdragon 8シリーズのほかに、ハイエンド端末向けの7シリーズ、ミドルレンジ端末向けの6シリーズ/4シリーズがある。今後Snapdragon Soundがすべてのシリーズに展開して、より多くのモバイルユーザーが良質なワイヤレスオーディオ体験を得ることもできるようになるのだろうか。

質問に対してチャップマン氏は「もちろんSnapdragonを搭載する端末で、より広く良質なオーディオ体験に触れていただくことは大切だと考えている。8シリーズ以下のSoCにも展開する際には、Snapdragon Soundが基準に置くオーディオ体験がどのレベルのSoCまで担保できるか、オーディオ機器との互換性テストも慎重に行いながら判断する必要があると考えている。ただ、このままプレミアムレンジのSnapdragon 8シリーズに体験をとどめておくつもりはない。時間をかけてていねいに環境を整えていきたい」と答えた。

また今後は要件を満たすSnapdragonのSoCを採用するポータブルオーディオプレーヤーがあれば、Snapdragon Sound対応デバイスのカテゴリに広がりが生まれるであろうし「ぜひそうなってほしい」とチャップマン氏は呼びかけた。

Xiaomiとオーディオテクニカが賛同を表明。対応製品は年内登場へ

クアルコムのチャップマン氏は、Snapdragon Soundがローンチされる背景には、普及が勢いよく進む左右独立型完全ワイヤレスイヤホンを中心に、スマートフォンとワイヤレスオーディオ製品による体験向上をアピールする好機は今だからである、と説いている。

いまSnapdragon Soundをローンチすることにより、エンターテインメントからビジネスまで広くワイヤレスオーディオの可能性を伸ばすことができるとチャップマン氏はクアルコムの狙いを説明した

音楽リスニングにおいてはAmazon Music HDに代表されるような、最高96kHz/24bitの音楽ソースを配信するHD音楽ストリーミングサービスも脚光を浴びている。また高品位な音楽・動画配信、モバイルゲーミングをスムーズに楽しむために欠かせない、5GやWi-Fi 6に代表される最先端の通信技術が普及したことも追い風になっているとチャップマン氏が続ける。

世界的に新型コロナウイルス感染症の影響が広がる中、リモートワーク環境におけるボイスコミュニケーションの必携ツールとしてBluetoothワイヤレスオーディオ機器に注目が集まっている。最大32kHzのサンプリング周波数に対応し、4GのVoLTE音声通話に迫る明瞭なハンズフリー通話品質を実現するクアルコムの新コーデック、aptX Voiceの普及にかける強い思いもチャップマン氏は明らかにしている。

クアルコムは今後、モバイル端末とワイヤレスオーディオ双方のメーカーに対して必要なハードウェアのリファレンス基板やソフトウェア開発のソリューションを、横断的に準備・提供する。チャップマン氏は「Snapdragon Soundのパートナーとなるメーカーは、プロダクトの一部開発時間を短縮して、浮いたリソースを筐体設計やデザインなどライバル他社との差別化要素に多く振り向けることができる」とプログラムに参加することのメリットを説いている。

オンラインイベントの中では、中国のXiaomi(シャオミ)がSnapdragon Soundをデバイスに採用するモバイルデバイスの初期プレミアティアパートナーになることが発表された。日本からはオーディオテクニカがSnapdragon Soundのプラットフォームソリューションに対する賛同を表明している。

初期パートナーとしてXiaomi、オーディオテクニカの名前が挙げられた

クアルコムはSnapdragon Soundに対応する製品の登場時期について、メーカーや製品名に関する名言は避けつつも「2021年内」に出てくるであろうという見通しを示した。製品のカテゴリーについてはスマートフォンやワイヤレスオーディオ機器の枠を超えて、モバイルPCやスマートウォッチ、アイウェア型のスマートグラス、ゲームコンソールやオートモーティブなどにも広がる可能性がある。チャップマン氏は、Snapdragon Soundのエコシステム戦略の詳細については、今年の後半にあらためて発表の機会を設けるとした。

クアルコムはAmazon Musicとパートナーシップを組み、Snapdragon Soundのプロモーション展開を強化する。プラットフォームの発表に合わせて、音楽サービスのAmazon Music HDには高音質楽曲を集めた特製の「The Snapdragon Sound Playlist」が公開される。

Amazon Musicとのパートナーシップにより、Amazon Music HDでSnapdragon Soundのプレイリストが公開された

プレイリストの制作に携わった米国出身のプロデューサー兼ミュージシャン、St. Panther氏も、オンライン発表会とラウンドテーブルに出席。「音楽に関連する最先端技術により、クリエイターの意図をリスナーにありのまま届けられる時代がやってきた。クリエイションの手法も大きく変わりつつある。特にワイヤレスオーディオは、多くの人々がいつでも、どこでも好きな音楽をハイクオリティに楽しめる環境を提供してくれる。Snapdragon Soundが、クリエイターとリスナーとの関係をより近づけるものになることを期待している」とコメントした。プレイリストにはPanther氏が制作したオリジナル楽曲『Real Love Take Time』のほか、Allie XとYou Me At Sixによるオリジナル楽曲などが目玉コンテンツとして追加される。

プレイリストの作成を担当したミュージシャンのSt. Panther氏

Amazon MusicのGlobal Head of Artist and Label Relationsであるアンドレ・ステープルトン氏は、Snapdragon Soundの発表に寄せて「音楽ストリーミングサービスは利便性がますます高まっている。近年は高速インターネットの普及により、利便性を保ちながら『音質』も犠牲にすることなく楽しめるAmazon Music HDのようなサービスが提供できるようになった。高品位な音楽を聴くことは、音楽リスニングの感動や喜びを再発見することにつながると信じて、私たちはハイレゾ/ロスレス配信のAmazon Music HDをスタートさせた。現在は約7,000万のロスレス楽曲、約500万のハイレゾ楽曲を配信している。過去の著名な作品もリマスタリングにより高音質なデジタルアーカイブに続々と追加している。クアルコムとのコラボレーションにより完成したSnapdragon Soundプレイリストに収録されているAmazon Musicのオリジナル高音質楽曲の体験が、将来の対応デバイスを通じて楽曲を聴いた皆様に感動をもたらすことを願っている」と語った。

Snapdragon Soundへの期待を語るAmazon Musicのアンドレ・ステープルトン氏

ほかにもハリウッドで活躍するサウンドエンジニアのジェフ・ニール氏は「スタジオで制作された96kHz/24bitのソースが劣化することなく、ワイヤレスでリスナーに届けられる時代が来ることがとても楽しみだ」とコメント。プロフェッショナル “モバイルゲーマー” のHotJukes氏は「ゲーマーはオーディオの品質に対してとてもシビア。ワイヤレスオーディオで遅延のない音声を伝送できるaptX Adaptiveにとても注目している。高品位なサウンドは音の定位感や距離感を感じられるし、 “勝負に勝つ” ためにも欠かせない要素」であるとして、Snapdragon Soundへの強い期待を語った。

サウンドエンジニアのジェフ・ニール氏

プロゲーマーのHotJukes氏

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