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ドルビービジョンで体験

70mm版に最も近い? 『2001年宇宙の旅』UHD BDを一足先に観てきた

公開日 2018/12/11 17:22 編集部:風間雄介
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「何度見れば気が済むの?」と妻には煙たがられ、仕事関連で試写があるたびに出かけていく際にも、あまりに何回も行くので編集部員に白い目で見られている(ような気がする)。でも、仕方がない。映画『2001年宇宙の旅』の魅力は、何度見ても尽きることがないのだ。

今年は作品の公開から50周年記念ということで、メモリアル上映が重なった。70mm上映も見たし、8K版も見に行った。そのあいだ、何年か前に買ったブルーレイの映像も再度確認したし、iTunesで先行配信された4K/HDR版も見た。そして今回、オーディオビジュアルファン待望となる「Ultra HD Blu-ray(UHD BD)」盤の先行上映があるというので、喜び勇んで行ってきた。

UHD BD『2001年宇宙の旅』

なおUHD BDは、当初の発売予定が11月21日だったのだが、制作上の都合で12月19日に延期されていた。もちろん予約してあるのだが、発売の1週間以上前に先行体験できたのは嬉しい限りだ。

UHD BDの価格は6,990円(税抜)。初回限定生産版はUHD BD 1枚とBD 2枚(本編・特典)の3枚組で、4K/HDR映像のほか、日本語吹き替え音声も追加収録される。UHD BDは片面2層仕様で、音声は英語がDTS-HD Master Audio(5.1ch)、日本語がドルビーデジタル(2.0chモノラル)となる。

さて、このUHD BDの制作の大元になったのは、8K版と同じく、今回新たに焼かれたという70mmフィルムだ。だが制作のはじめから、8K版制作チームと4K版制作チームは完全に分かれていた。このため実際の映像の仕上がりも、8K版と4K/HDR版とで、かなり印象が異なっていた。

なお8K版の制作においては、70mmフィルムを投映して見比べながら修復やグレーディングなどが行われたということだが、このUHD BD版については、どのように制作されたのか、特に細かな情報はワーナー・ブラザースにも入ってきていないという。

今回の視聴に使われたのは、LGの77型有機ELテレビ「LG OLED TV C8P」。ドルビービジョンに対応しているモデルで、今回の視聴もドルビービジョンで行った。なおこのテレビは、ドルビービジョン接続時にもいくつかの画質モードが選べるが、今回は暗室に適した「シネマダーク」が使われた。音については、1968年当時の音を再現した「シアトリカルオーディオ」で視聴。字幕はオフにした。なお、視聴は全編通してではなく、HDRやドルビービジョンの効果が分かりやすいシーンをかいつまんで行われたことも報告しておこう。

フィルムグレイン多め。作り物であることまでわかってしまう解像感

まず冒頭のMGMロゴ、そしてその後の宇宙空間のシーンからして、フィルムグレインがかなり盛大に乗っていることがわかる。8K版はかなりフィルムグレインが抑えられ、ほとんど見えなかったので、全く印象が異なる。この時点で、別物の映像であることがはっきりと理解できた。

猿人同士が戦うシーンでは、猿人の毛の色の黒さがそれぞれ違うことが明確に区別できる。また、空の朝焼けと岩窟の暗い部分がワンショットに混在するシーンでは、最暗部から高輝度部までを破綻無く描き切っており、HDR、そしてドルビービジョンの効果が強く感じられた。

その後、宇宙のシーンを再生すると、青白く描かれた地球がイラストであることがはっきりわかる。かなり巧妙に描かれた絵だから、ここまで「イラスト感」を感じたのは初めての経験だ。人によっては興ざめと思うかもしれないが、それほど克明にディテールまで描き出しているということだ。

ドルビービジョンの映像ということで、宇宙船の白色も単なる白ではなく、高輝度部の階調がしっかり描かれているのだが、多少マゼンタが乗っていることが気になった。また70mmフィルム上映時と比べても、少し宇宙ステーションの色乗りが良すぎるようにも感じられた。だがこのあたりはディスプレイの特性、また映像モードによっても変わってくるだろう。

驚いたのは、月着陸船が宇宙空間を漂い、月に向かうシーン。大きく月が表示されるのだが、そこで描かれたクレーターがあまりに鮮明で、衝撃を受けた。

一方で、月で発見されたモノリスに近づくシーン。投光器から眩しいほどの光が放たれ、それが宇宙船に反射する様がくっきり描かれるのは、さすがHDR、ドルビービジョンというところだが、一方で黒が浮いている部分も多く、そこにノイズもかなり盛大に乗っていた。

もう一点、先ほどマゼンタが乗り気味と書いたが、月着陸船については、少し青みが強く感じられた。やはり全体的に彩度が高い印象なのだ。ただしこれは繰り返しになるが、テレビセットや映像モードによっても変わってくる部分だ。

だが、この彩度の高さが違和感なく、なおかつ有効に感じられたシーンも多い。月の基地に着陸するシーンの赤、ボーマン船長などの宇宙服などは、もともと、かなりこってりした色が乗っているのだが、先日見た8K版では、少し色乗りが浅めで、物足りなく感じた。それに対して今回のUHD BD版では、色乗りがよく、よりフィルムライクな映像が体験できる。

(C)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

さらに作品を通しての白眉は、HAL9000の内部に潜入するシーンだ。全体が赤色の光で照らされた内部を、赤色の宇宙服を着たボーマン博士が漂うのだが、全体を鮮やかな赤で埋め尽くしながら、細かな赤の描き分けまで行う表現力は見事のひと言だ。

「ありのまま」を映し出すUHD BD版

先ほど書いた「フィルムグレインが多い」という感想も、シーンが進んでいくにつれて少しずつ変わっていった。カットによってはフィルムグレインがほとんど見えないシーンもあるのだ。たとえばHAL9000に「これまで間違えたことはないのか?」と2人の船員が問いかけるシーンなどは、ノイズがほとんどなく、パキッとした映像だ。

(C)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

黒浮きの問題についても同様だ。明らかに黒が浮いているな、と思うカットがある一方、漆黒の闇が表現できているカットもある。恐らく、それぞれのカットのもとの状態、情報量にあわせて、フィルムグレインの量や黒レベルまで調整しているのだろう。

今のデジタル技術を使えば、フィルムグレインは抑えようと思ったら抑えられる。出すなら出す、出さないなら出さないというように揃えた方が、全体的な統一感も得られる。こういった考えから8K版は、フィルムグレインが少ないシーンを基準にして、多いシーンの粒子感を抑えたのだろうと予想できる。

一方で今回のUHD BD版は、よく言えば「ありのままの姿」を見せてくれる。フォーカスがビシッと決まった、ものすごく綺麗なカットがあったと思ったら、そのすぐ後に「あれ、ここボケボケじゃ?」と感じるシーンがあったりする。

この感想は、70mmフィルム上映を見たときのものと全く同じだ。フィルム上映は、投写機など上映時の条件に左右される部分も多いだろうが、やはりカットごとにクオリティの差があることは、はっきりと感じられた。あの体験をパッケージでも再現しようということなのだろう。

一つの作品を違和感なく見通すという意味では、グレインがカットによって乗ったり乗らなかったりすると、統一感に欠けることは事実だ。だが、あえてそういった画作りを行っているのは、素材をなるべくありのままに見せようという強い意志の表れと感じた。



70mm上映が日本で行われたと言っても、応募が殺到したこともあって、参加できた方は一握りに過ぎない。また上映が行われたのは東京だけだ。

それに70mmフィルムは、フリッカーはあるし、傷はあるしで、現代的な基準における高画質さとはほど遠い。

今回のUHD BD版は、そういった傷やフリッカーなどの基本的な修復はしっかり行いつつ、過度な修正は控えて、なるべくオリジナルに忠実な映像を作ろうとしたのだろう。

個人的には、70mmフィルムの雰囲気をより忠実に再現しているのは、8K版より今回の4K/HDRのUHD BD版の方だと感じた。作品のファンなら絶対に手に入れるべき一本だ。

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