サムスンが日本に再びやってくる日

ファイル・ウェブ編集部:風間雄介
2010年05月07日
サムスンが日本での薄型テレビ事業から撤退して3年近くが経過した。当時から同社は世界での薄型テレビシェア上位に位置していたが、その後世界中を“SAMSUNG”ブランドが席巻した快進撃ぶりを見ると、経営リソースを米国や欧州、新興国など“日本以外”に振り向けたのは正しい判断だったと言わざるを得ない。現在日本で一般消費者向けに販売しているのは液晶モニターやデジタルフォトフレームなど数ジャンルにとどまっている。

当時の、サムスンの日本における薄型テレビ事業は、傍から見ていてもかなり迷走していた。カメラ量販店で同社の40V型液晶テレビが売られていたのを見たことがあるが、国内メーカーのものに比べ地上デジタルチューナーが搭載されていないなど、機能で劣る部分が多かったにもかかわらず、値付けは一番高かった(もっとも地デジを搭載しなかった、あるいはできなかった理由はほかにあったのかもしれないが)。高価格戦略によって「韓国ブランド=低品質、低価格」というイメージを覆したかったのだろうが、機能と価格のバランスが取れていなければ売れないのは当然。その後同社は直販をメインとした低価格路線に舵を切ったが、それも多くの消費者に受け入れられることはなかった。

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言うまでもなく、日本は家電大国だ。国内には世界に名だたる大メーカーがひしめき合い、日本人の好みにあわせた機能をこれでもかと盛り込んで鎬を削っている。さらに日本人の「国産ブランド」に対する愛着、忠誠心は他国に比べて非常に強いと言われる。このような市場でアジアメーカーが日本メーカーに伍していくのは、少なくとも当時は非常に困難だった。サムスンもこの難しい市場に手を焼き、結果的に世界シェアナンバーワンメーカーのテレビを日本で購入できないという事態になってしまった。

だが、今ならどうだろう。サムスンは既に販売量だけでなく、マーケティングやデザイン、技術でも日本メーカーと十分に渡り合える力を蓄えた。販売量の多さはコスト低減に結びつくのでテレビを安価に販売できるし、米国などで評価の高いデザインも武器になるだろう。

また、ここ数年で日本人のモノの選び方が徐々に変わってきたことも見逃せない。たとえばPC。以前は国内メーカーと米国メーカーばかりで占められていたのが、ネットブックの登場を契機にして、ASUSやAcerなどの台湾メーカー製品を積極的に選ぶ人が増えてきた。スマートフォンでもAndoroid搭載機器を精力的に開発している台湾HTC製のモデルが人気を集めているし、無線機器のヒットモデル、Pocket Wi-Fiは中国のHuawei製だ。アジアメーカーに対するアレルギーは、若年層を中心にして徐々に薄れてきているように思える。

もう一つ、最近のテレビがDLNAやYouTube、Picasa、Flickr、Skypeなどのウェブサービスといった、よりオープンな機能の充実に向かっていることも、海外メーカーにとっては追い風になる。国内メーカーが主導するサービスに海外メーカーが対応するのは、グループに入るのもコスト的な面でも難しいが、ウェブサービスならば世界規模で同様の機能を搭載でき、ローカライズの手間やコストが軽減できる。VUDUなどVODサービスは米国内限定のものが多いのでそう簡単ではないが、今後は日本でも、たとえば「テレビ版Yahoo! JAPAN」の動画サービスなど、メーカーを問わず利用できるウェブベースのオープンサービスが増えていくだろう。

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サムスン電子は昨年末、2020年までに売上げ高4,000億ドルを達成するという長期目標を発表した。すべての事業で世界ナンバーワンを目指すというアグレッシブな姿勢で、AV機器や携帯電話、デバイスなど現在でも強い事業分野はもとより、今後はこれまで比較的弱かったデジタルカメラ事業などでも猛烈な攻勢をかけてくるはずだ。

この4,000億ドルのうち、日本での売上げをどの程度見込んでいるのかは分からないが、前述したような環境の変化を捉え、また世界中を席巻している余勢を駆って、サムスンが再び日本でのAV機器事業に再参入するシナリオを描いていても不思議ではない。そうなれば消費者にとっては選択肢が増えるというメリットにつながるが、国内メーカーには少なからず動揺を与えることになるだろう。

サムスンはHisenseなど中国メーカーを今後の仮想敵と見なしているようだし、日本市場も先細りが見えているからこのままスルーされるのではないか、というのは楽観的に過ぎる。日本は未だに世界第2位の経済大国であり、そのマーケット規模は巨大だ。テレビだけでなく周辺機器も含め、様々な家電製品が日本人に受け入れられたら、数兆円規模のビジネスに育てることも夢ではない。

サムスンが捲土重来を期して再び日本に参入してきたとき、日本メーカーはどうやって立ち向かうのか。すでに進めていることとは思うが、生き残りのためにあらゆるシナリオを想定し、今から真剣に対策をシミュレートしておく必要がある。

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