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iPhone/iPadはMacと同じ道を辿るのか − いまアップルが立っている岐路

2010/04/27 ファイル・ウェブ編集部:風間雄介
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海外・国内を問わず、ここ最近のIT情報サイトやブログの話題はアップルに関連したものが非常に多くなっている。グーグルやマイクロソフト、ツイッターなども継続的に話題を提供し続けているが、iPadや次期iPhone、そしてiPhone OS 4.0など、主立ったトピックはアップルが独占しているような状況だ。

なぜITサイトの編集部やブロガー、ライターは、これほど熱心にアップルの動向をウォッチし、その内容について深く議論しあうのか。企業規模で言えばマイクロソフトの方が大きく、PC用OSでは遙かに多くのユーザーを抱えているにも関わらず、相対的にマイクロソフトの話題があまり取り上げられないのはなぜだろう。

もちろんそれは、アップルがこの数年で成し遂げた革新と無関係ではない。かんたんに言えば、いま一番クールなのがアップル、ということなのだろう。

iPhoneはスマートフォンに新風を送り込み、ビジネスとしても大成功を収めた。同社のセグメント別の売上げを見ると、すでにiPhoneビジネスが最大の収入源となっている。また、それをタブレット型デバイスという新たな領域に拡張したiPadの成否は、今後のIT機器の進化を占う上で非常に重要であることも確かだ。

さらに言えば、アップルのApp StoreやiTunes Storeなどのエコシステム確立の手際は実に見事だったし、電子書籍やモバイル広告などといった、これまで他社が先行していた分野にも手を伸ばすなど、確かに注目するなと言う方が無理な話かもしれない。

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アップルのこれまでの実績には敬意を払うべきだし、今後の動向も注意深く観察する必要がある。だが、ジョブズ氏の言動にメディアが耳をそばだて、その片言隻句から様々な推測や妄想が世界中を飛び交う様を見ていると、少々異様な感じを受けるのも事実だ。アップルをそれ以外のメーカーと同列に捉え、俯瞰して眺めるという視点がやや欠けているように思える。

アップルの話題ばかりが氾濫し、時にジョブズ氏が神格化さえされるのは、同社の「クローズド」な文化が大きく影響しているのではないか。

たとえば、次期iPhoneでは失態を犯してしまったが、同社の新製品や新サービスに関する秘密主義は有名だ。徹底的に情報をクローズすることでユーザーの関心を煽り、噂が噂を呼ぶ状況を作り出すことで渇望感を高める − それこそがアップルが長年磨きをかけてきたやり方であり、期待を上回る製品を発表することで、ファンはますますその革新性に心酔することになる。どことなく一部の宗教のやり方に似ているような気もするが、先に述べたメディアやブログでの熱狂的な取り上げられ方を見ていると、今でもこの手法は有効に機能しているようだ。

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この「クローズド」な文化、あるいは手法は、同社のほとんど全ての方策に共通しているが、最近になってその姿勢が独善的ではないかと指摘されることも増えてきた。

これは昔からだが、製品を発表するのは自社イベントだけで、CESなどの家電見本市に出展することはない。販路も自らアップルストアを積極出店し、国内においては最近、大手家電量販店の通販さえストップさせた。特に流通政策についてはユーザー軽視という意見も多く、今後波紋を広げる可能性も高い。

またApp Storeでのアプリ公開はアップルの事前審査が必要だが、その審査の基準が曖昧である、恣意的なのではないかという指摘も後を絶たない。アプリ開発環境でも、同社がこれまで許可していたアドビ製ソリューションを締め出す策に出て、長年の盟友であったアドビから強い非難を浴びている。またiPhoneやiPadでは、同じアドビのFLASHについても非対応の姿勢を貫き、時代遅れの技術と切り捨てている。その代替技術としてアップルが挙げているHTML5が本格的に普及するには、まだかなり時間がかかるのは明白であるにも関わらずだ。

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ここまで同社が強硬になっているのは、自らの「クローズドモデル」に対する自信の裏返しと考えるべきだろうか。そうではないはずだ。

確かにiPhoneやiPadは、現時点におけるスマートフォン/タブレット型機器の覇者であり、後述するクローズドモデルの良い部分が凝縮した機器と言える。多少の不便も仕方ないと思わせるだけの豊富なアプリケーションが揃ってもいる。

だが、後ろを振り返ってみれば、「オープンモデル」の代表的な企業であるグーグルのAndroidが猛烈な勢いで追い上げてきている。アップルがこれに危機感を覚えているのは明らかだ。アップルがAndroid搭載スマートフォンを開発したHTCを提訴したのも、グーグルに対する牽制と捉える見方が多い。

Android搭載機器はメーカーが自由に参入できるし、OSがフリーなので開発コストも削減できる。今後はAndroidをそのまま利用した安価な機器から、Xperiaのように高度な独自機能やUIを装備したものまで、様々なモデルが加速度的に増えていくだろう。

豊富な選択肢から好みの製品を選べるとあればユーザーは間違いなく増えるし、ユーザーが集まるところにはアプリも集まる。現在のアップルの優位性は、今後徐々に低下していく可能性が高い。このようなシナリオが現実味を帯びてきており、それに気づいているからこそ、アップルはますます「クローズドモデル」に固執せざるを得なくなっている。クローズドモデルのメリットに磨きをかけるためには、自社によるコントロールを強める必要があると考えているのだろう。

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クローズドモデルのメリットは色々あるが、その最たるものはハードとソフトのトータルエクスペリエンスを提供できるということだろう。アップルならではの美麗なユーザーインターフェースやアプリを、これも細部までアップルの美意識が反映されたハードで体験できる。これに大きな価値があると考えるユーザーも多い。さらにFLASHに対応しないのも、App Storeアプリのクオリティや数に優位性がある段階においては、FLASHベースのリッチなアプリケーションを締め出すのに有効な手段だ。

だがクローズドモデルに固執し、結果として大きな金脈を他に譲ったのは、かつてMacが辿った道でもある。ご承知のように、アップルは一時期を除いて、Mac OSを他社に供給してこなかった。一方のマイクロソフトはWindowsをPCメーカーにあまねく供給した。どちらが多くのユーザーを獲得したかはあらためて説明するまでもない。

現在、iPadは北米で順調に売れているし、次期iPhoneも多くのユーザーに熱狂を持って受け入れられるだろう。ただしこのまま孤立主義を貫き、クローズドモデルに自閉しているようでは、数年内にこれらの機器がMacと同じ運命を辿るように思えてならない。

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ではどうすれば良いか。iPhone OSを他メーカーに開放するというシナリオは、皆無とは言わないまでも可能性は低い。一方でiPod機能やiTunes Storeなどアップルが整備したコンテンツ販売システムは、ほとんどインフラと言っても良いほど普及しており、Androidに比べて圧倒的なアドバンテージを持っている部分だ。

まずはこの、アップルだけが持つアドバンテージで時間を稼ぎながら、クローズドモデルならではのスマートな製品開発に磨きをかける。同時にFLASHへの対応やサードパーティーがアプリを作りやすいような環境を整備し直し、アップルなりのオープンモデルの上手な消化の方法を探し出すことが重要だ。いわばクローズドモデルとオープンモデルとのハイブリッドモデルを模索することが必要になるだろう。

いずれにせよアップルが、今後も現在と同程度の影響力を維持できるかという、重大な岐路に立っていることは間違いない。

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