TOPPING「DX9 Discrete」& iFi audio「iDSD Valkyrie」。20万円台の注目DAC内蔵ヘッドホンアンプを徹底テスト!
20万円から30万円前後の価格帯は、設計思想が音に表れる製品が増えてくる領域だ。ここは単なる高性能にとどまらない個性の強いDAC内蔵ヘッドホンアンプを見つけることができる。今回は技術的にも性格的にも「尖った」DAC内蔵ヘッドホンアンプを2機種選び、じっくり試聴してみた。
斬新なディスクリート1bit DACを搭載したTOPPING(トッピング)の「DX9 Discrete」と、究極のトランスポータブルを体現するiFi audio(アイファイオーディオ)「iDSD Valkyrie」だ。
独自のディスクリート設計技術で魅せる「DX9 Discrete」
まずTOPPING「DX9 Discrete」は、2026年1月30日に国内発売された据え置きタイプのDAC内蔵型ヘッドホンアンプだ。価格は228,690円(税込)。
TOPPINGは測定性能が高くコスパに優れたメーカーとして定評があるが、DX9 Discreteは一体型のDAC内蔵型ヘッドホンアンプのトップモデルとなる。
本機はDiscreteの名の通りに、ディスクリート方式のDACとディスクリート方式のアンプが特徴であり、どちらもTOPPINGの独自技術を採用している。天板に透明パネルを配し、整然と並ぶ回路が透けて見える独特のデザインからは、自社技術に対するTOPPINGの強い自負が伺える。
まず「DACのディスクリート設計」の核となるのが「PSRM(Phase-Switching Reference Modulator)技術」だ。
PSRMはディスクリート方式のデルタシグマ形式DACだが、ユニークな設計がなされている。普通このタイプは1bit信号を処理できれば良いため、1チャンネルにつき1組のローパスフィルタ(再構成フィルタ)で構成されるのが一般的だ。しかし、PSRMでは1つのチャンネルに16組もの独自の再構成フィルタが組み合わされている。
なぜ16組もあるかというと、それらの信号を少しずつタイミング(位相)をずらして出力してから平均化することで、コンポーネントの個体差やエラーを分散して相殺、精度を高めているのだ。結果として広い帯域でSN比を向上させることができる。
また、デルタシグマ形式DACでありがちなFPGAを必要としないというメリットもある。この点は開発者に直接確認したが、この方式により必要な性能を実現しているのでFPGAを必要としていないということだ。
次に「アンプのディスクリート設計」の核となるのは「NFCA(Nested Feedback Composite Amplifier)」というTOPPINGの独自設計だ。
NFCAとはNFB(負帰還)を多段式に組み合わせることで、極めて高いSN比と低歪みを実現する設計のことだ。従来のオーディオ業界では過度なNFBの使用はSNを向上させても音の生々しさが失われるというトレードオフをよく指摘されてきた。しかし近年では設計手法の向上やパーツの品質向上などでそれを克服する手法が増えてきている。NFCAもその一つである。
DX9 Discreteではディスクリート方式のアンプモジュールを6個(6チャンネル分)搭載している。これはバランス(4チャンネル)とアンバランス(2チャンネル)を分離するためだ。それによりバランスとアンバランスで最適のフィードバックをかけることができるので、NFCAの効率を上げて音質を向上させることが可能だ。
iFiらしい先鋭技術満載のトランスポータブル機「iDSD Valkyrie」
iFi audioの「iDSD Valkyrie」は2025年発売の製品だが、今年2月にブラックバージョンが登場している。実売価格は297,000円前後だ。
iDSD Valkyrieはバッテリーが内蔵されたDAC内蔵型ヘッドホンアンプである。通勤通学に持ち運ぶには大きいが、家の中であちこち可搬するには便利な、いわゆる「トランスポータブル」タイプの製品だ。デザイン性にも優れ、北欧神話上のワルキューレ(ヴァルキリー)の駆る天馬をイメージしている。
DACはiFi得意のバーブラウンDAC技術をクアッド(4基)搭載している。DACをデュアル、クアッドと増やしていくと信号強度の上昇に比べてノイズの上昇が抑えられるため、全体のSNを向上させることができる。比較的小型のバッテリー搭載モデルながら、ピーク時には5,700mWもの出力を出すことができる。
またiDSD ValkyrieではJVCケンウッドが誇るK2テクノロジーが搭載され、「K2」モードと「K2HD」モードの2つを提供している。K2テクノロジーは、デジタル化の際に失われがちな情報を補間して再構成、オリジナル・マスターにより近い状態の音質を再現するという技術である。「K2」モードでは元の解像度を保持したまま復元し、「K2HD」モードでは192kHz/24bitにアップスケールしてから復元するとしている。
このほかにも「XBass II」「XPresence」「XSpace」など、DSPではなくアナログ処理を行う機能も搭載され、高感度IEMの使用で有効な「iEMatch」機能も搭載、iFi audio独自機能「全部入り」の多機能アンプである。
また今回は使用しなかったが、xMEMSの有線MEMSドライバーのIEMに対応した機能も搭載している。
SHANLINGのトランスポートを活用しQobuzで試聴
両機を試聴室にて聴き比べてみた。上流はSHANLING(シャンリン)「SMT1.3」を使用。両者の条件を揃えるためにUSBで接続した。
SMT1.3は大型液晶で操作できるネットワークトランスポートである。トロイダルトランスが内蔵されているので、大きく重い。ストリーミングソースとしてはApple MusicやAmazon Musicなどもタッチ操作で手軽に使えるというのがポイントだろう。今回はメインとしてQobuzを使用した。
まず両者の音をヘッドホンとイヤホンで試してみた。ヘッドホンで使用したのはSENDY AUDIO(センディーオーディオ)「Egret」で、超薄型振動板を採用した最新の平面磁界型ヘッドホンだ。
イヤホンで使用したのはqdc「White Tiger」で、ESTとマルチBAドライバーを組み合わせた高性能イヤモニだ。両方とも4.4mmで比較した。
「iDSD Valkyrie」- ウェットな色気、官能的なサウンド
まずiDSD Valkyrieだが、実際に机に並べてみると、DX9 Discreteとはかなり大きさの違いがある。正直、この企画大丈夫かと一瞬思ったが、実際に出音を聴いてその心配は解消した。サイズに似合わないような優れた音で、ハイエンド機を感じさせるような濃密なサウンドだ。
ウッドベースの音は引き締まり、過度な膨らみがなく気持ちよく弾むように聴こえる。サイズの割には音を引き締めて制御する力が極めて高い。
中高域は綺麗に伸びていき、高音域のベルの音もきれいに歪みなく美しく響く。特に高音の響きなどに美音が乗っている感があり、SN感が良い解像力の高さと、艶のある心地よい音のバランスが良い。ジャズヴォーカル、Kate Wadeyの「Round Midnight」カバーでは、声に色艶があるとともに、声が掠れていく微妙なニュアンスもよく聴き取れる。
「K2」機能をオンにすると、より透明感が高くなるとともに、音の濃さや厚みといった感覚的な部分が向上、「K2HD」にすると同じ感覚がさらに高く向上する。
全体にSN感は良いが乾いているわけではなく、ウェットな色気や艶、官能的なサウンドの魅力がある点はUKブランドの底力を感じた。
イヤホンで聴いてみると、iDSD Valkyrieはポータブルのハイパワー機ゆえか、高感度イヤモニでは若干ホワイトノイズ感がある。ただし少ない方で、iEMatch機能で十分低減可能だろう。
iDSD Valkyrieはトランスポータブル機の側面があるので、Bluetoothを使ってバッテリーだけで使用してみた。ワイヤレス接続の音も素晴らしく、USB接続に比べれば多少は劣るにせよ、大きなロスを感じさせない優れたサウンドで聴くことができた。
iFi audioは伝統的にBluetoothの再生品質が優秀だが、iDSD Valkyrieはその集大成のように良好だ。持ち歩くには少々大きいが、家の中で手軽に持ち運んで、Bluetoothとイヤホンで手軽に聴くという目的ではかなり使い勝手が良いだろう。
「DX9 Discrete」 - 広い空間と雄大さ、端正なサウンド
次にDX9 Discreteを聴いてみた。こちらは据え置き機らしく余裕のあるサウンドで、広い空間が感じられる雄大なサウンドだ。解像感もiDSD Valkyrieより高く、より歪み感も少ない。サウンドは端正で濁りが少なく、音楽が正しく聴こえている感が高い。
こう書くといわゆるモニター的かと思われるかも知れないが、音色は乾いて無機的な感じではなく、適度に温かみが乗っていてリスニングにも向いている。iDSD Valkyrieのような艶っぽい個性的な音ではないが、心地よい温かさを感じる。
Kate Wadeyの「Round Midnight」カバーではウッドベースが良く引き締まるとともに、声に温かみがあって聴きやすい。音楽の構造や構成がわかりやすいモニター的な反面で、適度な温かみがあってリスニング的にも使えるサウンドだ。さらに平面型らしいスピード感をより高く引き出していて躍動感も高い。SN感の良さとスピード感の高さを両立しているのはNFCAらしい美点だ。
イヤホンで聴いてみると、DX9 Discreteでは据え置きの割には高感度イヤモニを使用してもノイズが少なく、ほとんどホワイトノイズは聴こえない。音質も高性能マルチBAモデルの良さをよく引き出している。
DX9 Discreteは、どんなヘッドホンやイヤホンを鳴らしても最高に鳴らしきることのできる、ヘッドホンアンプらしいヘッドホンアンプとも言えるだろう。
技術の極みと音楽の楽しみを味わえる
DX9 DiscreteとiDSD Valkyrieは、どちらも強烈な個性を持ちながら、明確に異なる魅力を見せてくれた。
DX9 Discreteは、独自のPSRMディスクリートDACと6ch NFCAアンプにより、高い透明度/解像力/コントロール性を武器に、どんなヘッドホンやイヤホンでも「正しく、心地よく」鳴らしきる性能がある本格派だ。コンパクトモデル「DX5 II」あたりでTOPPINGに興味を持ったユーザーのステップアップとしても注目度が高い。
一方、iDSD Valkyrieはトランスポータブルという自由度の高さと、クアッドDAC+K2/K2HDによる濃密で艶やかなサウンドが最大の魅力だ。アナログ的な情感とデジタル処理の巧みさが融合した、UKブランドらしい「音楽を楽しくする」1台と言える。Bluetoothやバッテリー駆動も実用的で、家の中を自由に動きながらハイエンドサウンドを楽しみたい人に強くおすすめしたい。
DX9 DiscreteとiDSD Valkyrieは、それぞれのメーカーの設計思想が音に表れたような、技術の極みと音楽の楽しみを存分に体現した、実に面白いDAC製品と言える。

