最先端ストリーミングを手のひらサイズの筐体に凝縮。Wattson Audio「Emerson DIGITAL」導入記
ハイエンドオーディオの最先端をコンパクトに凝縮
Wattson Audio(ワットソン・オーディオ)のネットワークトランスポート「Emerson DIGITAL」を我が家に導入して早くも半年以上が経った。音質と使い勝手がとにかく素晴らしいので、導入以来、ストリーミングを再生するのが楽しくて仕方がない。
2019年にスイスでネットワークオーディオブランドWattson Audioを設立したアレキサンドレ・ラバンシー氏は、同じスイスのハイエンドブランドCH Precisionの創業者であるフロリアン・コッシー氏とは旧知の仲で、スイスの有名なハイエンドオーディオ設計コンサルタント会社でともに仕事をしていた時期もあったという。
2024年にWattson AudioをCH Precisionが買収したことで、2人はふたたび一緒に仕事をするようになった。ハイエンドオーディオ業界の最先端で豊富な経験を積んできた2人の能力・知識・ノウハウが、我がEmerson DIGITALにもふんだんに投入されている。
独自のストリーミングエンジンを搭載
手のひらに載るとてもコンパクトなサイズのEmerson DIGITALは、重量も371gと非常に軽い。RJ-45イーサネット端子と、S/PDIF同軸・AES/EBU出力端子しか装備していない小さくて軽い筐体を一目見て、これがネットワークトランスポートだと分かる人は実際かなり少なかろう。
しかしEmerson DIGITALはこのミニマムなサイズと作りの内部にTexas Instruments社のSitaraプロセッサーを中心に構築された独自のストリーミングエンジンを搭載し、デジタルデータパスはビットパーフェクトに対応。超低ノイズ発振器を備え正確に動作する内部クロックを中心にデジタル回路を構築している。
アルミ無垢材からCNC切削加工された筐体は非常に堅牢で、シールド性能もきわめて高い。
iOS用の「Wattson Music」アプリは簡にして要を得た優れもので、操作に慣れるまで時間はほとんどかからない。Android用には「Wattson Remote」が用意されている。
新旧さまざまな音楽との出会いが広がる
ところで、「ストリーミングではすでに聴き馴染んでいる曲しか聴かない」という人は少ないだろう。なんといってもストリーミングは1億曲以上もの膨大な収録曲から定額でなんでも聴けるのだから。
私もストリーミングではアーティストやジャンル、録音年代等を問わずに、未知の曲をどんどん開拓して日々楽しんでいる。だからストリーミング再生において枢要な位置を占めるネットワークトランスポートにはS/Nや解像度といったハイファイ性能の高さだけでなく、ジャンルや録音の新旧を選ばない中庸な音質傾向も強く求めている。
その点、輸入元から試聴機を借りて聴いたEmerson DIGITALは完璧で、購入を決断するまで時間はかからなかった。
例えば戦前に活躍した「デルタ・ブルースの父」チャーリー・パットンを初めて知り以後愛聴するようになったのはEmerson DIGITALを導入して間もない頃だった。素朴なメロディを独特のだみ声でがなり立てるチャーリー・パットン。もとよりこの時代の録音に微細な間接音など期待すべくもない。野太くて濃い直接音を細めず薄めずにガツンと描けないとパットンの魅力はとても伝わらない。
もちろんベストはアナログだろう。ブルースの歴史にまったく明るくない私にもそれは分かる。しかしEmerson DIGITAL×Qobuzで聴くパットンは直接音の濃さ・熱さ・強さを筆圧高くストレートに描き、それまでブルースに関心のなかった私をグイグイ惹きつけてアルバムの最後まで夢中で聴き通させたのである。
私が「ストリーミングをきっかけにチャーリー・パットンのアナログ盤を探し始めている」事実は、ネットワークトランスポートEmerson DIGITALへの賛辞でなくてなんであろう。ソウル・デュオのサム&デイヴを「発見」し聴くようになったのもEmerson DIGITALのおかげだ。
Emerson DIGITALのおかげで「再発見」できたアーティストも多い。超高音質なハイレゾアルバムで知られる井筒香奈江が実にいい。オンマイク気味なヴォーカルが直接音だけでなく、微細きわまりないリヴァーブ成分をも伴って目の前に超絶リアルに立ち現れる。私はいち音楽愛好家としてだけでなく、オーディオ評論家としての仕事のうえでも井筒香奈江を改めてじっくり聴き込み始めている。
ヴァイオリンの深みのある音色と質感を再現
個人的に最もよく聴くジャンルであるクラシックも、例えば、ザルツブルクを拠点に世界で活躍するヴァイオリニスト、トーマス・アルベルトゥス・イルンベルガーのアルバムがどれも素晴らしい。
最上流のトランスポートがうわずらず彫りの深い表現をできるようになったのは大きかった。パーテルノストロ指揮、イスラエル室内管弦楽団『メンデルスゾーン:ヴァイオリンとピアノのための協奏曲』はイルンベルガーのヴァイオリンとトルビアネッリのフォルテピアノの掛け合いが実に躍動感豊かで、しかも各楽器の音色と質感には深みがある。
最近私は気がつくと古いDACの名機や現行の単体DACについて調べている。いまEmerson DIGITALに組み合わせているのはマランツのSACDプレーヤー「SA-10」内蔵のDACで、その高性能にはとても満足しているのだが、多種多彩な曲それぞれの音調をそれぞれに引き立てる個性的なDACが欲しくなっているのだ。
Emerson DIGITALのおかげでストリーミング再生がますます楽しくなって聴きたい曲が増えたうえに、各曲の魅力をより引き立てるべくDACも増やしたくなった私にいま最も足りないのは聴く時間である。人生って短すぎる。
