マランツ「LINK 10n」が持つ唯一無二のポテンシャルを体験。注目ストリーミングプリアンプを聴く!
マランツの創業70周年のタイミングに合わせて開発された新たなるフラッグシップ、10シリーズ。なかでも昨年秋に登場したプリメインアンプの「MODEL 10」とデジタルディスクプレーヤー「SACD 10」は前年度の「オーディオ銘機賞2025」にて、見事に最高栄誉の金賞の受賞を果たした。
そしてこの2モデルに続き、シリーズにラインアップされたのがここに紹介するストリーミング・プリアンプ「LINK 10n」である。
ネットワークオーディオ機能に加え、「MODEL 10」と同じプリアンプ回路を搭載。さらに「SACD 10」のDAコンバーター機能も搭載した集大成となるネットワーク対応プリアンプである。
この少し遅れて登場した最高峰は本年度の「オーディオ銘機賞2026」にてネットオーディオ大賞の受賞を果たしている。
そこで本項では審査委員である小原由夫氏が、本誌試聴室にてプリアンプとしての魅力も含めてその音を体験している。
MODEL 10のプリアンプとSACD 10のDACが融合
創業70周年を契機に、ハイエンドオーディオ市場に積極果敢に攻め込んだマランツ。その孤高のフラッグシップ機器群の中にあって、LINK 10nは非常にユニークな立ち位置にある。
「リファレンス・ストリーミング・プリアンプ」と銘打たれた本機は、MODEL 10のフルバランスプリアンプと、SACD 10のD/Aコンバーター機能、さらに独自の「HEOS」によるネットワークオーディオ対応を融合させた、今日の多種多様なプログラムソース時代だからこそ誕生し得たコンポーネントといえる。
今回その魅力に再度フォーカスすることで、唯一無二のポテンシャルを確認したい。
Marantz伝統の高音質化メソッドが息づくデザイン
シンメトリーデザインのフロントパネルに、視認性の高いフルカラーディスプレイを備えたLINK 10n。立体的なパターンが刻まれたフロントパネルと、正面や側面からネジが見えないよう考えられたエクステリアも相まって、威風堂々たる佇まいを醸し出す。

そのフロントパネルにしても最大45mmという厚みで、12mm厚のアルミトップカバー、最大15.8mm厚のサイドパネルと、決してデザイン・コンシャスではなく、しっかりとした無共振思想に則ってデザインされた筐体であることがわかる。
その内部は銅メッキ鋼板が使われたり、3層構造のボトムプレートに無垢アルミ材と銅板を組み合わせたハイブリッド型インシュレーターを奢るなど、マランツ伝統の高音質化へのメソッドが息づく。
オリジナルディスクリートDAC「Marantz Musical Mastering」
心臓部の核となるのは、同社オリジナルのディスクリートDAC「Marantz Musical Mastering」だ。
最新バージョンのそれは、DSDはもちろん、PCM信号も11.2MHz/1bitのDSDデータに変換した後、すべての処理を自社開発のアルゴリズムとパラメーターで対応するというもの。これに超低位相雑音クリスタルクロックが相まって、ジッターレスの高精度デジタル/アナログ変換プロセスを実現している。
ネットワークオーディオのプラットフォーム「HEOS」は、この豪勢な構成の心臓部とリンクすることで、シームレスかつスムーズな音楽ストリーミングサービスを存分に楽しむことができる。
独自の高速アンプモジュール・無帰還型フォノアンプも搭載
前述のアナログ部は、最新のHDAM+HDAM-SA3によるフルバランス・アナログオーディオ回路で構成される。こちらもマランツ独自の高速アンプモジュールで、すべてディスクリート構成による最新型。低ノイズと低歪みに加え、電圧帰還タイプでさらなるハイスルーレートを達成しているのがセールスポイントだ。
HDAMはフルバランスプリアンプ部にも用いられている。これはプリアンプMODEL 10と同様の回路構成で、デジタル制御の可変ゲインアンプとのコンビネーションにより、高精度な音量調整を可能とした「リニアコントロール・ボリューム」を構成する。
一方で無帰還型フォノイコライザーアンプにもHDAM+HDAM-SA3は使われている。20dBのMCヘッドアンプとの組み合わせで高品位なレコード再生が叶うわけだ。さらにヘッドフォンアンプもHDAM-SA3による電流帰還型と、実に贅沢な仕様である。
電源回路はアナログ/デジタル完全独立で、銅メッキ・シールドケースに収められたトロイダル型電源トランスを含め、不要輻射や外部からのノイズの飛込みを抑えた設計だ。
LINK 10nを2種類のパワーアンプと組み合わせて試聴
今回このLINK 10nに組み合わせたパワーアンプは、アキュフェーズ P-7500とトライオード TRZ-P300Wという、最新のハイパワー半導体アンプと、伝統的な直熱三極管のA級パラシングル機の2機種。仕様も性格もまったく異なる相方によってLINK 10nがどういう表情を見せるか探ってみたわけだ。
スピーカーはB&W 802 D4を使用し、Qobuzのストリーミングにて試聴。
P-7500との組み合わせ:舌を巻く抜群のSN感と、ていねいで美しい描写力
まずはアキュフェーズ。抜群のS/Nのよさに舌を巻く。
静謐なステレオイメージの中に、アカペラで歌うサマラ・ジョイのヴォーカル音像がポッと浮かぶ。ナチュラルなリヴァーブがその歌声に付帯するのもよくわかる。
ホーン楽器4人の立ち位置が克明なのはもちろん、リズムセクションが繰り出すビートがくっきりと迫り出してくる。ヴォーカル/フロント4管/リズムセクションの音のレイヤーが実にクリアに見える。
バイバ・スクリデの独奏によるショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲は、テーマメロディーのていねいな描写がとにかく美しい。その音像定位は、毅然とした強い意志を持っているのが明確だ。悲哀的なヴァイオリンの旋律をオーケストラが包み込むようにサポートする様子が伝わる。重厚だが、柔軟な振る舞いの合奏だ。
TRZ-P300Wとの組み合わせ:細やかな質感とともにより情緒的な再現性を生む
トライオードではどうだろう。
ヴァイオリンの音色は芳しきムードで、テクスチャーが細やか。健気な表情が漂う実に凛々しい姿の音像フォルムだ。いわば、より情緒的な再現といえよう。
一方でアキュフェーズほどのパワーや駆動力は難しく、ウーファーの制動が若干緩やかにはなるが、それを補って余りある、憂いを帯びたヴァイオリンの表情が堪らない。
サマラ・ジョイでは色艶や肉付きがよく、音像フォルムはいくぶんふくよかで、質感として弾力が感じられる。管楽器4人の立ち位置も明瞭だが、その音色には温度感がある。
リズムセクションはローエンドまでビートが伸びた感じではないが、たいそう小気味よい。
愛用するパワーアンプとスピーカーで新システムを組む際の‟最有力候補”となる製品
最早ディスクメディアは聴かなくなったというオーディオファイルは、今日日決して少なくないだろう。
しかし、サウンドクオリティやパフォーマンスに妥協したくないという人にとって、プリアンプ込みで新たにシステムプランを謀る場合、LINK 10nはその最有力候補となろう。
製品情報・スペック
ストリーミング・プリアンプ:Marantz「LINK 10n」
スペック
- 出力電圧:2.0V(アンバランス)、4.0V(バランス)
- 再生周波数範囲:2Hz-96kHz(PCM)、2Hz-100kHz(DSD)
- 再生周波数特性:2Hz-50kHz(-3dB)
- SN比:113dB(PCM・可聴帯域)、116dB(DSD・可聴帯域)
- ダイナミックレンジ:112dB(可聴帯域)
- 消費電力:55W
- 待機電力:0.3W以下
- 外形寸法:440W×192H×472Dmm
- 質量:33.0kg
PREAMP OUTオーディオ特性
- 定格出力電圧/出力インピーダンス:3.16V/140Ω(BALANCED)、1.58V/30Ω(UNBALANCED)
- ヘッドホン定格出力:130mW(負荷32Ω、1kHz、T.H.D.0.7%)
- 歪み率(THD+N):0.001%(20Hz-20kHz)
- 周波数特性(CD、1W、8Ω):5Hz-100kHz(+0dB/-3dB)
- SN比(IHF-A、8Ω):76dB(0.5mV入力・PHONO MC)、88dB(5mV入力・PHONO MM)、122dB(4V入力、定格出力・BALANCED)、122dB(2V入力、定格出力・LINE)
- 入力感度/入力インピーダンス: 400μV/33Ω(PHONO MC Low)、400μV/100Ω(PHONO MC Mid)、400μV/390Ω(PHONO MC High)、3.6mV/39kΩ(PHONO MM)、700mV/33kΩ(BALANCED)、350mV/47kΩ(LINE)
- PHONO最大許容入力(1kHz):8mV(MC)、80mV(MM)
取り扱い:(株)ディーアンドエムホールディングス
※本記事は『オーディオアクセサリー 199号』からの転載です。
