6万円からの小粋なフランス・スピーカー。トライアングル「Boreaシリーズ」、極上のボーカルを味わう
近年、エントリークラスのスピーカーが激戦を繰り広げている。価格帯で言えば、ペアで5万円程度から10万円台程度のスピーカーたちだ。これらは、新たなエントラントを取り込み、オーディオ市場の裾野を広げる重要な役割を持っている。
コロナ禍以降、在宅時間の拡大によるリビングオーディオの広がりとともに、メーカー各社から優れたスピーカーが続々と登場している印象だが、その中でも、大きな存在感を示すシリーズの一つがTRIANGLE(トライアングル)の “Boreaシリーズ” である。
画期的なサウンドとエレガントなルックス
トライアングルは、ルノー・ド・ヴェルニェットによって、1980年にフランスはパリで創業されたメーカーだ。インテリア・デザイナーであったオーディオファイルのルノーは、ウーファーキャビネットと分離された、ピラミッド形状の筐体を持った2筐体構成によるモジュール構造の独創的なスピーカー「1180」を設計。画期的なサウンドとエレガントなルックスで瞬く間に注目を集めた。
その後も、スピーカーだけではなくデザイン性の高いアンプシリーズも手掛けるほか、トールボーイ型でホーンローデッド・トゥイーターを持つ同社の代表的なスピーカー “Magellanシリーズ” を展開するなど、多彩なスピーカー作りを重ねてきた歴史を持つ。
そして、2010年代に入ると、いち早くオールインワン・タイプのアクティブ型スピーカーの開発に着手するなど、創業者の情熱を継承しながらも、現代のリスニングスタイルに適応した、サウンドとインテリア性に優れた製品を展開。Boreaは、まさにそんな同社の顔とも言える主力ラインアップなのである。
ペーパーコーンの持つ自然で耳あたり良い表現
Boreaシリーズ最大の特徴は、シルクドーム・トゥイーターに加えて、ミッドウーファーやウーファーの振動板に天然セルロースのペーパーコーンを使用していることだ。ペーパーの持つ自然で耳当たりの良い表現と、長年のノウハウに基づいた透明間の高い音色設計によって、魅力溢れる歌声表現を実現することが最大の美点だと筆者は感じる。
また、キャビネットもオーソドックスな形状でありながらも、内部には、剛性を高めるブレーシングはもちろんのこと、弾力性に富むEVAフォームを適所に配置するなど、エントリークラスといえども細やかな制振対策が施されている。
そして、外観の質感の高さも注目のポイントだ。デザイン性を重んじるトライアングルならではの思想によって、エントリー価格帯であるにも関わらずチープさのない仕上がりに感心させられるのだ。
前方はもちろん後方から見てもネジが見えない仕上げはもちろんのこと、バッフル面を縁取るかのように構成された上下左右と後方のパネル面は、化粧シートながらも美しい仕上がりとなっているほか、背面に設置されたターミナルプレートがグロス仕上げになっていたりと、スピーカートータルで上品な佇まいが巧みに実現されていることを実感する。
センターにぽっかりと浮かび上がるボーカルが快い
シリーズ中で最も小さなスピーカーが「Borea BR02」だ。25mm径シルクドーム・トゥイーターと130mm径天然セルロース紙振動板採用のミッドレンジ/ウーファーによる2ウェイ・ブックシェルフ機となる。トゥイーターはシリーズ共通で、縦方向に配置されたフェイズプラグが印象的。ミッドレンジ/ウーファーと同じく、ユニットのフレーム部分はシリコンのような素材で覆われており、それも音質に寄与しているものと推察される。
コンパクトな筐体を活かすべく、マランツのネットワークCDレシーバー「M-CR612」と接続してみると、一聴して心地よいサウンドが展開した。ソフトドームとペーパーコーンならではの耳触り良い質感が印象的で、音楽が心地よく展開する。ボーカルソースは小型ブックシェルフらしく、センターにぽっかりと浮かび上がる姿が快い。CR612の音色のキャラクターも一体となり、量感を豊かに出す低音や、柔らかさ、そして、滑らかな表現が引き出されている。
オーケストラではホール演奏ならではの空間表現の広さやがしっかりと出ているほか、ティンパニの低音のボリューム感が十分ながらもハーモニーが濁らない描写が秀逸だ。ジャズのピアノトリオでも、取り立ててディテールを突き詰めて描く方向ではないものの、三者の存在がしっかりと解像されるとともに、伸びやかなウッドベースの余韻に加えて、決して硬くなったり尖ったりしない耳当たりの良い高域表現が、音楽を快適に進行する。
よりシャープな輪郭で立ち上がるフロア型モデル
続いて、フロア・スタンディング型の「Borea BR08」を試聴する。25mm径シルクドーム・トゥイーターはBR02と共通で、160mm径天然セルロース・ペーパーコーン搭載のミッドウーファー、そして、160mm径グラスファイバー製ウーファーによる3ウェイ構成となる。試聴するプレーヤーとアンプには、マランツのフルサイズ・ネットワークプリメインアンプ「MODEL 60n」を組み合わせてみた。
一聴して、実体感あふれる音が展開する。流石にプレーヤーやアンプがグレードアップしているため、先ほどの組み合わせよりも音楽のリアリティはグッと高まっている。
歌声や楽器の姿は、よりシャープな輪郭で立ち上がる。細身な佇まいのエントリークラスのフロア・スタンディング型にありがちな低音の膨らみや滲みはなく、量感豊かながらも明快な低域再現が印象的だ。
ボーカルソースは、しっかりと歌声が眼前に描き出され、主役たる存在感を静かに発揮する。ジャズのピアノトリオでも、ピアノは程よくカラフルな音色で浮かび上がり、流麗なタッチが爽快だ。ウッドベースの低域は、量感がありながらも圧迫感がなく、押し付けがましさがない。それによって、ピアノ、ベース、ドラムの3者の距離感がしっかりと描き出されるのだ
オーケストラでも各楽器の分離が明確で、例えば木管楽器と弦楽器がユニゾンで重なる部分は、一体の音像として聴かせるのではなく、それぞれの異なるアタックを持った楽器群が重なり合う様子が的確に描き出されていく。
やはり、3ウェイ化するとともにウーファー口径も大型化することで、描き出される音楽のスケール感が着実に拡大している。しかしながら、160mmウーファーということや、量感を欲張り過ぎないバスレフ設計も相まってか、リスニング空間のエアボリュームが不足して処理に困ってしまいそうなほどの低域ではなく、コントロールが容易な範囲の低域再現に収められている点も扱いやすいモデルと推察した。このような的確で適切な低音再現は、ブックシェルフ「Borea BR02」にも共通する特徴だと感じた。
ボーカルの生命力を引き出す現代的「良い音」
Boreaシリーズは、天然セルロース・ペーパーコーンを採用し、ボーカルソースの生命感や存在感、そして精彩な音色表現を楽しませる良質なエントリークラス・スピーカーである。手頃な価格と生活空間に溶け込む質の良いデザインに、音楽ソースを尊重した規範的な音色バランスと普遍的な心地よさを追求した、現代的な「良い音」を体現した存在だ。
スピーカーの振動板として最も長い歴史を持つ「ペーパーコーン」ならではのナチュラルさ、親しみやすさを、節度ある質の良い低音とともに楽しめるスピーカーなのである。エントリークラス・スピーカーの有力な候補として必聴の1台であるとお伝えしたい。とりわけ、ボーカルソースの魅力的な再現力は絶品だ。
(提供:完実電気)

