AirPods Pro 3 レビュー。音質・ノイキャン・ライブ翻訳など新機能の実力をライバルや前機種と比較検証
※最終更新:2025年11月28日
アップルから「AirPods Pro 3」が発売された。これは、ただ単に完全ワイヤレスイヤホンの新機種が登場したということにとどまらない、大きな事件である。
なにしろ、AirPodsの売上は年間3兆円程度とも見積もられている。これだけの売上があるオーディオビジュアル機器メーカーは限られるし、それをイヤホンとヘッドホンだけで実現している会社はほかに存在しない。いかにAirPodsが巨大なビジネスであるか、この数字からおわかりいただけるだろう。
AirPodsシリーズの中心モデルは、いうまでもなくAirPods Proだ。そして、その3世代目にあたる最新モデルが、今回発売されたAirPods Pro 3である。この新モデルがどんな性能を備え、どういった使い勝手であるかは、業界に与える影響という観点からも、非常に重要だ。
劇的進化を遂げた待望の新モデル、AirPods Pro 3を徹底レビュー
結論からいうと、AirPods Pro 3は非常に性能が高い商品で、様々なところが進化した。音質は圧倒的に良くなり、アクティブノイズキャンセリング機能も、大きくその効果を向上させた。それにあわせてイヤホンの本体形状も変わったし、ケースも一見同じように見えて、実は微妙にサイズが変わり、機能面でも進化を遂げている。
加えて、心拍数モニターといった新たな機能も加わった。アクティブノイズキャンセリングが大きく進化し、音質も向上した。またiOS 26からは、日本語の「ライブ翻訳」機能も使えるようになった。
AirPods Proシリーズが、これまで継続的に新たな機能を追加してきたことにも、改めて注目したい。
これまでに様々な機能が追加され、AirPods Proができることは非常に多くなった。補聴器がわりに使えるようにもなった。長らく噂されてきたライブ翻訳機能もついに実用化し、日本語対応も年内に行われた。スタジオ品質のマイク機能も加わっている。
そして、AirPodsへ段階的に新機能を追加する方針は、おそらく今後も継続されるだろう。AirPods Pro 3はこれからも機能が増強され、進化を続けるはずだ。今回は発売日に購入した本機の機能や性能について、新機能のライブ翻訳の使いってなども含め、一ヶ月以上じっくり使い込んだレビューをお届けする。
なお当サイトには、山本敦氏によるAirPods Pro 3の先行レビューも掲載している。こちらもあわせて参照して欲しい。
一見変わっていないように見えて中身は劇的に進化した
まずは製品の外観からだ。イヤホン本体の形状は、これまでのAirPods Pro 2と似ているようだが、見比べるとかなり違う。といっても、装着している人とすれ違った際、どちらかを言い当てる自信はない。
内部構造を示した図を見ると、ドライバーはイヤーチップの近くに置かれており、その後ろをぐるりと回るように空気が通る「マルチポートの音響アーキテクチャ」を備えている。この構造によって、空気の流れを正確にコントロールし、耳に音を届けられるのだという。
イヤーチップはまったく新しいものに置き換わっている。これまでのイヤーチップは傘状に近かったが、AirPods Pro 3のイヤーチップは裾がすぼまった。素材も変わり、シリコン製のシェルにフォーム材を結合させたものを採用している。触ってみても「もちもち」としていて、これまでより若干厚く、柔らかくなった印象だ。
ケースも、よく見ると細部が変わっている。前面のLEDはふだんは隠され、光ったときだけ見える仕様になった。背面の物理ボタンもなくなった。スピーカーも内蔵され、「探す」アプリから音を鳴らすことも、これまで同様に行える。ストラップホールも備えている。
ケース内部には、次世代のUWB技術を搭載している。これにより、高精度に位置を知らせる「正確な場所を見つける」機能を使える距離が、AirPods Pro 2比で約1.5倍に伸びている。地味な進化だが、紛失したときに役立つ。
AirPods Pro 3は、AirPodsシリーズとして初めて、IP57等級の防塵性能と耐汗耐水性能を実現した。イヤホン本体だけでなくケースもIP57等級の性能を備えているのが特徴で、たとえばケースごとプールに落としてしまっても問題ない。
水辺やアウトドアでも安心して使用できる。もちろん汗をかいたり雨が降ったりしたときにも、防水・防塵だから不安はない。

心拍センサーを搭載。スマートウォッチ無しでワークアウトが可能に
そして、新たに搭載された心拍数センサーにも注目だ。不可視光を毎秒256回放つLEDと、加速度センサーからの情報を統合して心拍数を計測する。これによってワークアウトでの消費カロリーなどを正確に知ることができる。
心拍数センサーはApple Watchがあれば不要なのでは、とも思うし、実際に毎日Apple Watchを装着している方にとってはメリットは少ない。ただし腕時計を着ける習慣がない方も多いし、そもそもApple Watchを持っていない方も多い。
AirPods Pro 3さえあれば、Apple Watchやほかのスマートウォッチ、あるいはフィットネストラッカー無しでも、ワークアウトの正確なデータを記録できる。これを歓迎する方も多いだろう。
筆者はふだんからApple Watchを使っているが、今回、AirPods Pro 3の心拍センサーが便利だと思ったのは、屋内でワークアウトを行ったときだった。個々人の生活スタイルにもよるだろうが、私は家に帰ったら時計を外してリラックスしたい。そういう状況でも、AirPods Pro 3を着けてワークアウトを開始し、正確な心拍数を計測できる。これは思ったより便利だった。
一方で、屋外で軽くランニングをしてみたところ、耳の中に押し込むイヤホンなので当然だが、足が接地する際のショックが頭内に重く響く。もちろんジャンプするような運動とも相性が良くない。AirPods Pro 3の心拍センサー機能は、たとえばサイクリングなど、接地音がうるさくない運動と相性が良い。
イヤホン単体での再生時間は延びたがケースも合わせた合計では減った
イヤホン本体のバッテリー持続時間については、様々なモードや機能を使った場合で異なる。ノイキャンON時で最大8時間。ただし空間オーディオとヘッドトラッキングを有効にした場合は最大7.5時間となる。
また心拍数センサーを使用した場合は最大6.5時間の再生時間と、心拍数センサーがやはりある程度バッテリーを消費することがわかる。
ケースも併用すると、アクティブノイズキャンセリングを有効にした場合、最大24時間の再生時間となっている。つまりケースを満充電にしておけば、イヤホンを2回ぶん充電できることになる。AirPods Pro 2は、ケース併用/ノイキャンONで、最大30時間の再生が行えた。
イヤホン単体でのバッテリー持続時間は増えているが、ケースもあわせた場合は逆に減っている。つまりはケース内のバッテリー容量が少ないということになる。
実際にAirPods Pro 3を1ヶ月以上使ってみると、すでに何度か、ケースのバッテリー残量が空になることを経験した。AirPods Pro 2を使っていた3年間で、こういったことはほとんどなかった。
つまりAirPods Pro 3で、イヤホンとケースと合わせた実使用時間が30時間から24時間に減ったことは、実使用でも体感できる、ネガティブな要素だ。数少ないAirPods Pro 3の残念なポイントだ。
イヤーチップを変えてよりしっかり装着できるようになった
AirPods Pro 3の装着感はどうだろうか。すでに触れたように、AirPods Pro 3ではイヤーチップが新しくなった。サイズもXXSが加わり、XXS/XS/S/M/Lの5種類から選択可能になった。
これまでAirPods Pro 2では、Lサイズのイヤーチップを使っていた。だがAirPods Pro 3では、Mサイズがジャストサイズで、装着テストでもしっかり密閉しているという評価になった。
装着時のフィット感はより強固になったが、そのかわり耳の穴のなかの圧迫感は強まった。装着時の開放感だけで比べると、明らかに初代AirPods ProやAirPods Pro 2のほうが良い。
ただし、ノイキャン効果を高めたり、音質を向上させたりしつつ、激しい動きでもズレないようにするには、ある程度の圧迫感はトレードオフとして仕方ないものと理解する。むしろ、これらの要素をバランス良くまとめ上げていると言えそうだ。
AirPods Pro 3はノイキャンも優秀なライバル機なみに進化した
アップルとして、AirPods Pro 3で最も前面に押し出しているのは、ノイキャン効果が進化したことのようだ。同社では初代AirPods Proと比べて最大4倍、AirPods Pro 2と比べても最大2倍のノイズを抑えられると説明している。
ノイズをきれいに消し去るには、ノイズを捉えるマイクの性能も重要になる。このためAirPods Pro 3では、新しい超低ノイズのマイクを搭載。コンピュテーショナルオーディオも進化させ、ノイズキャンセリング効果を高めた。
もちろんノイキャン効果の向上には、新たにシリコン製のシェルにフォーム材を結合させた、新しいイヤーチップによるパッシブノイズキャンセリング性能も寄与しているはずだ。
実際に使ってみると、たしかにノイキャン効果は大きく進化している。ターミナル駅のプラットフォームや、幹線道路沿いなど盛大な騒音が発生するシチュエーションで、その効果を実感する。
AirPods Pro 2で「もうちょっとノイズを抑えてくれないかな」とストレスを感じていた場所でも、AirPods Pro 3では、かなり騒音を抑えこんでくれる印象だ。
とはいえ、絶対的な消音効果で言うと、同程度のイヤホンは、ボーズ「QuietComfort Ultra Earbuds」など、ほかにも存在する。これまで弱点だったノイキャン効果が、他社の優秀なイヤホン並みに進化したと捉えるのが良いだろう。
AirPods Pro 3で好感を持ったのは、ノイズキャンセリング効果そのものは高いが、「すべてを消し去る」方向性ではないことだ。ノイキャンをオンにしても、ふつうは取り切れない低音なども除去する一方で、人の声など、注意した方がよい音については、ある程度聞こえてくる。
静かな環境でノイキャンをオンにしてみると、完全にノイズを取り去ろうとしていないことが、よりはっきりわかる。オフィス内の空調の音ですら少し聞こえてくるし、遠くの咳払いや話し声なども聞こえる。サーッという周囲の定常ノイズも、すべて消えてはいない。
音楽を再生していなければ、こうやってPCに向かってタイピングしている音も聞こえてくる。とにかくノイズを根こそぎ取ろうとするイヤホンもある中、アップルの考え方は違うようだ。
適度に周囲の音を残しつつ、消すべきノイズはしっかり消すというアップルの方向性を好ましく思うが、すべて消してくれたほうが良いという方もいるだろう。ノイキャン効果の強さや効き方にこだわりのある方は、実際に試してみて欲しい。
さらに自然になったAirPods Pro 3の外部音取り込み機能
AirPods Proシリーズは、その初代機から、当時としては画期的なほどクリアな外部音取り込み機能を備えていた。それがAirPods Pro 2になってさらに進化し、今回のAirPods Pro 3では、よりクリアになった。
とはいえ、AirPods Pro 2の時点で、かなり外部音取り込み機能のレベルは高かった。そのため、AirPods Proからのアップグレードでは、違いを感じにくいかもしれない。
一番わかりやすいのは、発声した際の、自分の声の聞こえ方だ。
AirPods Pro 2では自分の声にくぐもった感じが残るのに対し、AirPods Pro 3では、イヤホンを外した状態とほとんど違いがわからないほど自然に聞こえる。幸いなことに、AirPods Pro 3は装着時の物理的な圧迫感があるため、イヤホンを着けているかどうかわからなくなることはなさそうだが。
通話性能もAirPods Pro 2より向上している
通話性能も向上している。まずマイク性能やノイキャンの効果を確かめるため、ボイスメモにAirPods Pro 3とAirPods Pro 2を使って録音して聴き比べてみた。
すると、一聴してわかるのが、AirPods Pro 3のマイク性能の優秀さだ。声が格段に明瞭に聞こえる。AirPods Pro 2の声も自然な印象だが、どこか平板な印象であるのに対して、AirPods Pro 3では、よりはっきりと滑舌よく聞こえる。一方で周囲のノイズを消し去る性能については、あまり変わっていない。声を拾う能力が高まっているぶん、通話性能は高いといえるだろう。
実際に通話してみても、通話相手は明らかにAirPods Pro 3の方がはっきりと声が聞こえて話しやすいという感想だった。通話性能も聴き比べてはっきりわかるレベルで進化していると言える。
風切り音をどれだけ抑制できるかについても、ここで触れておこう。まず扇風機を使って一定の風量のもとで試すと、AirPods Pro 2より、さらに風切り音が低減していることがわかる。
次にうちわで扇いで不規則な風を与えてみると、風切り音はもちろん聞こえるのだが、高域のノイズがAirPods Pro 2に比べて抑えられていることに気づいた。とはいっても劇的な進化ではなく、風切り音を完璧に防ぐことはできない。
音質はとにかくクリア。中高域も低域もはっきりくっきり表現
さて、いよいよ音質のチェックだ。
まずはじめに結論から言ってしまうと、AirPods Pro 3の音質は、非常に良い。
それがどの程度のレベルかを示すために、前モデルのAirPods Pro 2はもちろん、音質の良さに定評があるテクニクス「EAH-TZ100」との比較もまじえて紹介していこう。なお、音質比較の対象にはソニー「WF-1000XM5」やボーズ「QuietComfort Ultra Earbuds」などもある。それらも実際に長時間聴いているが、その中で最も音質が高水準なモデルとして、TZ100と直接比べている。
一音一音がクリアであると同時に、サウンド全体にメリハリがあり、楽曲の盛り上がりがダイナミックに伝わってくる。音楽の微細な表現を表現する力が高く、楽曲制作で使われるアクティブスピーカーのサウンドキャラクターに近い。
AirPods Pro 2と聴き比べると、これまで使っていたAirPods Pro 2の音がいかに平板で貧相だったのか、あらためて認識させられた。あまりにAirPods Pro 3との違いが大きすぎ、比べることにあまり意味がないと感じるほどだ。
それを説明するために、ほとんどのイヤホンにとって再現が難しい、大滝詠一「A LONG VACATION」の冒頭曲「君は天然色」を再生してみよう。
曲の冒頭付近、ピアノの「ポーン」という音が流れてきたときの、高い実在感に驚く。残響音も含めて、これほどリアリティある音がワイヤレスイヤホンから出てくることはあまりない。
音の分離の良さも特筆したい点だ。これがわかりやすいのは、ドルビーアトモスの藤井風「LOVE LIKE THIS」冒頭部分だ。
この曲のイントロには、シンセサイザーの音が左右をスピーディーに動き回る、ちょっと酔ってしまいそうなミキシングが施されている。
これはAirPods Pro 2で再生すると、左右の音源移動にイヤホン側の音響表現が追いつかず、定位がぼやけて、かなり気持ち悪い音になる。なおテクニクス「EAH-TZ100」を使ってLDAC接続で聴いたときも、同様のことが起きる。
しかしAirPods Pro 3でドルビーアトモス音源を聴くと、それぞれの音がしっかり分離され、音の出どころが明確だ。
そのため左右を動き回る音だけでなく、静止した音も鳴っていることが、よりわかりやすくなる。だから聴く側は、空間を把握しやすくなる。これによって、よりリアルに音場の広がりが感じられ、リスニング体験が大きく向上するのだ。
中高域だけではない。低域の解像感もバツグンだ。タイトで引き締まった、それでいて豊かな低域を再生できる。
同じドルビーアトモス音源「LOVE LIKE THIS」の低域に注意を向けてみると、通常のイヤホンとは異なり、ベースとドラムがゴチャっと一体になることがない。それぞれの音が綺麗にほどけ、分離されて再生される。
これによって、細かく刻まれるベースラインなど楽器それぞれのディテールを、驚くほどはっきりと追うことができる。
音の分離の良さはドルビーアトモスと好相性。アトモス人気に火が点くかも
この分離の良さは、ドルビーアトモスそのものの特性と、それを再現するAirPods Pro 3の能力の合わせ技によるものだ。
iPhoneの「ミュージック」の「ドルビーアトモス」をオフにしてロスレス再生にすると、音の広がりや分離感が若干損なわれ、少しくぐもった音になってしまうことからも、ドルビーアトモスの効果が大きいことがわかる。
AirPods Pro 3のサウンドは、とにかく一音一音が明瞭だ。それはオブジェクトオーディオで空間を再現する際、多くの音源の出どころをしっかり表現するのに欠かせない能力といえる。これまでドルビーアトモス音源をイヤホンで聴いて失望したことがある方は、ぜひAirPods Pro 3で聴き直してみてほしい。
もちろんドルビーアトモスにも、良くできた音源とそうでないものがあるが、良質なコンテンツでは、ステレオよりも広大なサウンドステージに、数多くの音がしっかり定位し、移動する感覚が味わえる。解像感と音の広がりが両立した、ある一面だけを切り取ったらステレオを超えるサウンド体験が得られるはずだ。
AirPods Pro 3はロスレス音源でも音質の高さが感じられる
続いてEAH-TZ100との比較だ。EAH-TZ100はAndroidスマホ「Pixel 7」と、主にLDACで接続。AirPods Pro 3はiPhoneとAACで接続した。音源はApple Musicのロスレス楽曲をストリーミング再生した。
まずは女性ボーカルを聴いてみた。ダイアナ・クラール「IN MY LIFE」で、声の質感をしっかり表現できているかを主にチェックした。
この曲でも、AirPods Pro 3の音で印象的だったのは、冒頭のピアノの響きがクリアであることだ。LDACで接続したEAH-TZ100より音が澄み、なおかつ伸びが良いことに驚かされる。
声の質感をしっかり描き出す能力も、「ほんとにAACで接続しているの?」と思わず声が出るほどハイレベルだ。
AirPods Pro 3では、スピーカーで聴き慣れた、彼女の声のハスキーさがしっかり伝わってくる。少し声は軽めだが、実在感がある。声をすっと抜くところの息づかいなども見事に表現する。
いっぽうEAH-TZ100のLDAC接続では、声の重心が少し低めになり、ハスキーさの表現は少し抑えられる。曲全体の雰囲気も落ち着いた印象になる。この表現も、それはそれで良い。どちらが良いかは好みの範疇だと感じる。
これまで、4万円以下クラスの完全ワイヤレスイヤホンでは、テクニクス「EAH-TZ100」が、最も音の良い製品の一つだと思っていた。
だがEAH-TZ100とAirPods Pro 3を、同じAACコーデックで揃えて聴いてみると、サウンドキャラクターが全く異なることを前提としたうえで、少なくとも解像感や分離については、AirPods Pro 3に軍配が上がる。
とはいえ何度も言及しているように、EAH-TZ100はLDAC接続が使える。AndroidスマートフォンとLDACで接続したEAH-TZ100と、iPhoneとAACで接続したAirPods Pro 3の音を比べると、音のキャラクターが異なるので、どちらを上と評価するかは好み次第という印象だ。
音の響きがナチュラルで、ウォームな音が楽しめるEAH-TZ100と、とにかく音が明瞭で分離がよいAirPods Pro 3、どちらも魅力的だ。そのときの気分や楽曲によって使い分けるのも良いだろう。
明瞭な音には新世代アダプティブイコライゼーションが寄与しているはず
それにしても、何度も繰り返すが、このサウンドをAACで実現しているのは本当にすごい。
アップルでは、特別設計のドライバーとアンプがH2チップと連係していること、新しいマルチポートの音響アーキテクチャによって、空気の流れをより正確に耳に届けられるようになったことなどが高音質化につながったと紹介している。
ただし、このレベルの音質向上は、イヤホン本体内の音響構造だけでは説明がつかない。耳の形状や装着状態に合わせて音の特徴をカスタマイズする「次世代のアダプティブイコライゼーション」が大きく高音質化に寄与しているものと想像される。
ところで、アップルの開発陣は、AirPods Pro 3の開発にあたって、ヘッドホンで音楽を聴いたときのような音場感を目指したらしい。
そう聞いて、AirPods MaxやSonos Aceなどとの聴き比べも、念のため行ってみた。当たり前のようだが、解像感はともかく、音の余韻を含めた表現力、音場表現、開放感などはヘッドホンの方が何枚も上手だった。
だがAirPods Pro 2から比べると、AirPods Pro 3は、これらのヘッドホンに接近した印象であることも確かだ。特にドルビーアトモス音源の魅力をイヤホンでしっかり感じられるようになったことは意義が大きい。
アップル製品との高次元な連携が使えるのはAirPodsシリーズならでは
言うまでもないが、AirPodsはアップル純正のイヤホンだ。このため、iPhoneやiPad、Mac、Apple Watchなどとシームレスな連携が行える。アップル製品を数多く所有している人にとっては、離れられない心地よさがある。
まず、一度Apple Accountと紐付けてしまえば、同じアカウントでログインしているほかのデバイスとも自動的にペアリングされる。たとえばデバイスを買い換えたりしてもいちいちペアリングし直す必要がなく、大変便利だ。
またデバイス間をまたいだ使用も洗練されている。たとえばMacと接続している際、iPhoneを手に持って動画を見始めると、そちらにAirPodsの音声が切り替わるといった具合だ。これは自分の意図通りに動かないこともあり、その場合は手動で選択し直す必要もあるが、多くの場合はスムーズにデバイスが切り替わる。
そのほか、左右のイヤホンやケース、それぞれ個別のバッテリー残量がiPhoneのウィジェットに表示できたり、残量が少なくなったり充電完了したりするとiPhoneに通知が来るなど、かゆいところに手が届く工夫が行われている。
ヒアリングエイド機能も進化。聴力補助が最大10時間使用できるように
AirPods Pro 3ではヒアリングエイド機能もさらに進化した。耳鼻科に行かなくても、静かな環境があれば自分の聴力を測定できる。また、その結果を受けて、聴力を補助する機能も備えている。
聴力補助機能では、単に周りの音を大きくするだけでなく、周囲の雑音を抑えながら、向き合っている相手の声を大きくする「会話を強調」機能などが使えるのがAirPodsならではだ。
なおAirPods Pro 3の聴力補助機能は、AirPods Pro 2に比べ、使える時間が67%伸び、最大10時間使えるようになったという。日中のほとんどの時間装着していてもバッテリーが持続するということだ。
なお筆者の聴力はまだ正常だが、AirPods Pro 3には、聴力を維持するため「大きな音を低減」する機能も備わっている。
高齢化が進む現代社会において、聴力をしっかり保つこと、あるいは補助することは重要かつ切実なテーマだ。AirPods Pro 3は、そういった問題を解決する強力な助けになる。聴力が減退した親族や友人・知人などにプレゼントしても喜ばれるだろう。
ついに日本語対応したAirPodsのライブ翻訳機能を試した
iOS 26.1から、AirPodsの「ライブ翻訳」機能が日本語に対応した。これは、相手が話す外国語を日本語など別の言語に訳し、それが音声としてAirPodsから聞こえてくる機能だ。
実際に使ってみたので、かんたんに使い方を解説するとともに、使ってみたインプレッションを紹介しよう。
まず必要なのは、Apple Intelligenceに対応したiPhone(iPhone 15 Pro以降)と、ライブ翻訳に対応したAirPodsだ。記事執筆段階で、AirPods Pro 3とAirPods Pro 2、AirPods 4がこのライブ翻訳機能に対応している。
ライブ翻訳を使うには、iPhoneの「翻訳」アプリを使用する。あらかじめ翻訳アプリから、使いたい言語のデータをダウンロードしておく必要がある。
データをダウンロードしたら、翻訳アプリから「ライブ」を選ぶ。すると相手の言語と自分の言語を選択できる。選び終わったら翻訳を開始する。
なお、一度データをダウンロードして設定を済ませておけば、以降は、左右両方のAirPods Pro 3のステム部分を長押しすることでライブ翻訳を開始することができる。その都度アプリを立ち上げる必要がないのは便利だ。
さっそく試してみた。英語のネイティブ話者が周囲にいなかったため、少し日本語訛りのある英語話者と会話してみた。すると、かなり的確に文意を掴み、日本語として聞こえてくる。
だが、相手が話し終わってから翻訳が聞こえてくるまでのタイムラグはどうしても発生する。
とはいえこのタイムラグは、英語と日本語の文構造が異なることが要因として大きいと考えられる。英語などでは動詞が前の方に来るのに対して、日本語は文の末尾に来ることが多い。文の意味が決定するタイミングが異なるため、正確に訳すことを意識すると、どうしてもタイムラグが大きくなりがちだ。
ライブ翻訳自体はスピーディーに動作するので、「翻訳を挟むのですこしテンポを落として話して」などと伝えれば、会話を成立させるのは難しくない。
ありがたいのは、クラウドで処理するのではなく、あらかじめダウンロードした言語のデータを活用し、iPhoneのデバイス内で翻訳処理するため、通信環境が必要ないことだ。単純に通信環境が悪いところで使えるメリットもあるし、海外旅行などでモバイル通信データ量を消費しないのも嬉しい。

ただそのぶん、翻訳精度はある程度限定される。たとえば最新の固有名詞や、特殊な名詞などは適切に訳されない。
一方で、複数の話者が同じ方向から早口で話す、といったシチュエーションになると、ライブ翻訳の実用性はかなり落ちる。たとえばアップルの発表会動画を再生し、ライブ翻訳に訳させてみると、日本語に変換されるまでのタイムラグが長くなりすぎ、固有名詞も正しく訳されないので、何を喋っているのか、ほとんど意味が取れない。
まだ完璧な機能ではないが、記事執筆時点でライブ翻訳はまだベータ版という位置づけで、伸びしろは大きそうだ。日常会話程度レベルであれば、すでに実用レベルに達している。外国語のリスニングに不安がある方は、ぜひ一度使って試してみて欲しい。将来的に翻訳機能がさらに進化することは確実と思われるので、今後の動向にも期待したい。
高い完成度、全方位に死角無し。アップグレードをおすすめしたい
しっかりAirPods Pro 3を使い込んだ結果を、レビューとしてお届けした。機能、使い勝手、装着感、そして音質と、すべてが非常にハイレベルだ。若干気になったのは、ケース内のバッテリー容量が少ないことくらいだ。
買うべきか、それともそうではないか、どちらかと聞かれたら、すでにAirPodsシリーズを使っていて、アップグレードしたいと思っている方には、文句なしに買うべき、と言いたい。AirPods Pro 2で満足しているのなら、すぐに買い換えるべきとは言わないが、初代AirPods Proからの差は大きいし、無印AirPodsを使っている方も、多彩な機能に驚くはず。AirPodsが初めてという方でも、iPhoneをメインに使っている方であれば、その音質や機能の高さから、AirPods Pro 3を購入して後悔するケースは少ないと考える。
逆に購入すべきと断言できないケースは、メインのスマホがAndroidの場合だ。WindowsやAndroidをメインに使っている人は、AirPods Pro 3の持つ能力のほんの一部しか活用できない。強いて言うなら、これがAirPodsシリーズの最大の弱点だ。また、ソニーやテクニクス、ボーズの製品などはAndroidの高音質コーデックが使えるし、ほかにも同価格帯に個性豊かなライバル機がひしめいている。これらと慎重に比較したい。
さてAirPods Pro 3は、心拍センサーが追加されたこと、ヒアリングエイド機能が進化されたこと、アップル製品同士の連携、ドルビーアトモスの正式対応など、アップルならではの機能が搭載されているのも特徴だ。
上述したようにiOS 26.1から日本語のライブ翻訳機能も実用化し、単なる音楽再生機器という用途を飛び越え、様々な目的に使えるデバイスであることが、より明確になった。
さらに、iPhoneのカメラのシャッターをAirPodsで切ったり、複数のアップル製品同士をまたいで操作できたりなど、iPhoneやiPad、Macを使っている方にはとても嬉しい機能が盛りだくさんだ。
しばらくのあいだ、AirPods Pro 3が完全ワイヤレスイヤホンのベンチマークとなる日々が続きそうだ。そして、その壁は無慈悲に思えるほど高い。
