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手元に残るフィジカルメディアとして再評価

CDプレーヤーが再ブーム!? FIIO、SHANLING、水月雨、新世代CDプレーヤーを一斉試聴!

公開日 2025/04/29 06:30 佐々木喜洋
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CDプレーヤー、まさかの復活!?

CDプレーヤーが再び注目を集めている。ストリーミング配信が主流の今、CDの時代はとうに終わったと思われていた。以前取り上げたShanling「EC Smart」も高音質とデザイン性が調和したユニークな機種だったが、さらに続々とCDプレーヤーの新機種が発売されている。少し前では考えられなかった現象だ。

この現象の背景にはいくつかの要因がある。まず若い世代が「物理メディア」を新鮮に感じていることが大きい。実際、アメリカでは2023年のRIAAの報告によると、CDの売上がダウンロードを上回った。フランスでもCD購入者の40%以上が35歳以下だというデータがある。CDをセットするあの「儀式」は、オジサン世代には懐かしく、若い世代には新しい体験なのかもしれない。

また、CDが実用的なメディアとして再評価されている側面もある。例えばライブ会場に行ってサイン入りのCDを買ったが、それをただの飾り物としか思っていなかった若者が実際にプレーヤーで再生して音を楽しむようになるケースがある。またM3(エムスリー)のようなイベントで活動する個人アーティストは、ストリーミング配信のハードルが高いため、CDで作品を制作するのが現実的な選択肢となっている。

さらに中国では経済成長によって「かつて買えなかった機材を今こそ手に入れたい」という需要もあるだろう。そして、これは東西を問わず、多くの人が感じている「デジタル疲れ」とも無関係ではない。常にオンラインで消費される音楽ではなく、物理メディアとして手元に残る音楽体験が、新たな価値を持ち始めているのだ。

このようにさまざまな要因が絡み合い、CDプレーヤーの復活という現象が生まれている。

 

ポータブル市場を沸かせる新興ブランドからの新提案

ここでは、このCD復活現象を象徴する3機種を試聴室で実際に試してみた。FIIOのポータブルCDプレーヤー「DM13 BT」、水月雨(MOONDROP)のこちらもポータブルCDプレーヤー「DISCDREAM 2 ULTRA」、そしてSHANLINGのCDリッピングドライブ&CDトランスポート「CR60」の3機種である。

上からFIIO「DM13 BT」、水月雨「DISCDREAM 2 ULTRA」、SHANLING「CR60」

いずれも昔ながらのオーディオメーカーではなく、ポータブルオーディオの世界で市場を広げてきたブランドという共通点がある。

 

FIIO「DM13 BT」 Bluetooth対応のポータブルプレーヤー

まずFIIO「DM13」はポータブルのCDプレーヤーで、いわば懐かしの「ディスクマン」が現代に蘇ったとも言える。もちろん「ディスクマン」世代には懐かしいESP電子防振機能も装備している。これは簡単にいうとバッファメモリに音を蓄え、音飛び時に補完する仕組みだ。

FIIO ポータブルCDプレーヤー「DM13 BT」(オープン、市場予想価格26,950円前後・税込)

イヤホン端子は4.4mmバランス出力と3.5mmシングルエンド出力に対応している。DACとしてはシーラスロジック製「CS43198」DACを左右独立で2基搭載、アンプ部分も低ノイズ設計のSGマイクロ製「SGM8262」を2基搭載している。その結果、バランス出力で最大660mWというかなり大きな出力を実現している。シングルエンド出力の場合には180mWとなるが、イヤホンでは十分な出力だろう。

ヘッドホン出力は4.4mmと3.5mm(同軸・光出力共用)に対応。また充電はUSB-Cで、バッテリーも内蔵しておりポータブルユースにも対応

さらに同軸・光デジタル出力も可能だ。バッテリーは最大約10時間の連続再生が可能だ。また家で使う場合には「D.MODE(デスクトップモード)」を使用してUSB給電も可能となっている。

また「DM13 BT」は新しい機能にも対応している。例えばBluetooth送信機能を搭載、aptX / aptX Low Latency / aptX HD / SBCといった高品質なBluetoothコーデックに対応して完全ワイヤレスイヤホンなどでも楽しむことができる。

手に取ってみるととても軽くて使いやすい。再生モードはギャップレス再生、お気に入り登録、リピート再生などに対応。リピート再生は全曲リピート、1曲リピート、ランダム再生がある。気が付いたのは「停止(四角い箱アイコン)」ボタンがないことだ。これは経験者世代は気になってしまうが、若い人はおそらく曲を止めて頭に戻る「停止」という概念自体を知らないだろう。液晶表示が懐かしいセグメント表示というのも良い。

再生中に手に持って振ってみたり、軽く叩いたり、歩き回ったりしたがESPのオンオフ関係なく音飛びがまったくない。これも経験者世代には驚きだ。

イヤホンで聴いてみると音質は自然で、FIIOらしい優しく聴きやすいサウンドだ。ワイドレンジで細かい音もよく抽出する。CDプレーヤーの入門用としても良いだろう。

Bluetooth送信機能があるので、手持ちのNoble Audio「FALCON MAX」と組み合わせて聴いてみた。ペアリングは戸惑うが、“Blue Out”モードにすると手近の完全ワイヤレスイヤホンと自動的に接続されるようだ。とても手軽に使用できる。

電源ボタンを短押しすることで出力の切り替え(USBやS/PDIF、Bluetooth)が可能

Noble Audioの完全ワイヤレスイヤホン「FALCON MAX」と組み合わせ!

また、S/PDIF出力して、据え置きDAコンバーター&アンプ&スピーカーとも組み合わせて試聴できるという特徴もある。不思議とデジタルでもFIIOらしい音の自然な再生感が楽しめ、聴きやすく優しい音再現でMONITOR SE ATOMの深い音場再現性が堪能できた。

S/PIDF出力から、デジタル出力して、TEACのDAC内蔵プリメインアンプ「AI-303」のS/PIDIFに入力して、据え置きCDプレーヤーとしても使用できる。スピーカーはParadigm「MONITOR SE ATOM」

さらに(多少特殊ではあるが)本体でWAVへのリッピング機能も備えている。これはPCとUSB-Cで繋いで録音ソフトなどからリアルタイム(1倍速)でファイルとして保存するという機能だ。ただし、いわゆる「外付けドライブ」としては使用できないので注意。

「USB REC」とパソコンをUSBケーブルで接続し、「リアルタイム」(1倍速)のデータ化が可能

「DM13 BT」は価格も安いのでアーティストの記念品としてCDを持っている人が容易に手が出せる機材と言えるだろう。BT機能もあるので良い完全ワイヤレスイヤホンを持っている人には向いている。

 

水月雨「DISCDREAM 2 ULTRA」-精度の高いポータブル機

水月雨(MOONDROP)「DISCDREAM 2 ULTRA」はやはりポータブルCDプレーヤーだが、懐かしのとは言えないほど以前にはなかったハイエンド機種である。

水月雨(MOONDROP)「DISCDREAM 2 ULTRA」(オープン、市場実売価格38,700円前後・税込)

本体は航空機グレードのアルミ合金をCNC加工による研磨仕上げしたもので、表面はヘアライン加工とマット仕上げがなされている。まるでハイエンドオーディオ機器のように高級感がある。

内部のCDドライブもかなり精度の高い設計がなされている。ドライブ自体の緩衝機能の他に電子防振機能も組み込まれている。特に凝っているのはオーディオ回路で、DACとしてはシーラスロジックのオーディオコーデックIC(ADCとDACを兼ね備えたIC)を2基搭載してフルバランス増幅回路を構成しているとしている。パーツはRubicon製コンデンサやNDK音響用水晶振動子など厳選しているようだ。

イヤホン端子は4.4mmバランス端子と3.5mmシングルエンド端子が装備されている。32Ωの負荷で4Vrms/222mWの有効出力だ。また独立した3.5mmアナログ・光デジタル出力端子を備えている。

ヘッドホン出力は3.5mmと4.4mmに対応。また3.5mmアナログ・光デジタル出力端子も別で搭載する。だが、検証の結果S/PDIF接続でTEACのUSB-DACでは再生ができなかった

手に取ってみると現代的なデザインと質感が素晴らしく、ガジェットとしての魅力がある製品だ。これもFIIO同様に再生中に軽く揺すっても音飛びはしない、歩いても全く音飛びがない。こちらも液晶表示はセグメント表示である。

そしてなにより音が良い。Campfire AudioのハイエンドIEM「Astrolith」で試したが、スペックシート以上に音量がとれて強いパワーが感じられる。

Campfire AudioのIEM「Astrolith」にてテスト!

音の解像力が細かくシャープで、平面型の切れ味の鋭さもよくわかるレベルだ。とてもS/Nが高くクリアでかつ力強いサウンドだ。記憶にある昔のディスクマンはこんなに音が良くなかったはずだ。

音質はミドルクラスのDAPなみか、もしかするともっと良いレベルかもしれない。価格は高いがそれに十分に見合う音質だ。デザインの良さと相まって思わず財布を取り出しそうになる程だ。イヤホンメーカーとして知られる水月雨が再生機材の開発でも優れた機材を作ることができるということも分かった。

USB AUDIOと記載されたUSB-C端子と接続することで、「USB-DAC」としても使用できる

「DISCDREAM 2 ULTRA」は本格的に音に取り組みたい人が十分に使えるポータブルCDプレーヤーである。ハイエンドイヤホンを持っている人に向いている。

 

リッピングも再生も。ユニークな機能のSHANLING「CR60」

SHANLING「CR60」はデスクトップの据え置き機材だが、見かけ以上に中にユニークな機能を有した機材だ。

SHANLING CDトランスポート/リッピングマシン「CR60」(オープン、市場実売価格は44,550円前後・税込)

端的に説明すると、CR60はCDトランスポート機能とCDリッピング機能をスイッチで切り替え可能なオーディオ機材である。つまりプレーヤーではなくトランスポートなので、アナログ出力はなく、デジタル出力のみである。

「CR60」の背面端子。デジタル出力のみで、アナログ出力はもたない。リッパーとトランスポートは左のスイッチで切り替え可能。トランスポートとしては、USB-DACなどに接続して再生できる。なお、いわゆる「外付けドライブ」としては使用できない

CDトランスポート機能としてはS/PDIFや光デジタルなど一般的な出力の他に、USBデジタル出力が搭載されていることがユニークだ。これにより出力先にUSB-DAC機能内蔵のDAPやアクティブスピーカーをUSBケーブルで接続することができる。

また、CR60のリッピング機能は一般的なPCに接続するCDドライブではない。

Androidアプリを利用してスマートフォンやDAPにUSB経由で直接接続してリッピングができる。アプリを介してリッピングする際には「Eddict Player」アプリを使用する。この場合にはCDDBのようなデータベースからタグ(曲名やジャンルなど)付けが可能だ。アプリを介さずにPCに接続してリッピングすることも可能だが機能が制限される。

専用アプリ「Eddict Player」でリッピングしているところ。アルバムタイトル等も自動で付与してくれる

SHANLINGの他のCD製品同様に独自のOSが内蔵されていて、前面には小さな1.14インチのカラー液晶が装備されている。画面横に機能ボタンが搭載されている。

また背面をみるとUSB端子がたくさん並んでいて、USB-A、USB-B、USB-Cのすべての種類のUSB端子が勢揃いしているのが面白い。出力先は通常は自動に判別されるが、ボタンを使用して手動でも切り替えが可能だ。電源はDCでもUSBでも給電可能だ。今回の電源はiFI Audio「iPower 9V」を使用した。筐体は見かけよりも重く、かなり本格的なCD機材と感じられる。

S/PDIFで接続してパラダイムのスピーカーシステムでツェッペリンを聴くと、「ブラックドッグ」ではこれぞロックという感じの力強い生き生きとしたサウンドが楽しめた。「天国への階段」ではペイジのギター位置がわかるようなほど定位感と立体感に優れている。ギター音の歯切れもよく、若き日のプラントのハイトーンボイスも生き生きと楽しめた。トランスポートモードのデジタル信号の品質はかなり良いと感じた。以前購入したインディーズバンドの特典CDRを再生してみたが問題なく再生ができた。

「CR60」からUSBで出力して、TEACの「AI-303」のUSB入力に接続。

リッピング機能は今回評価用に借りている水月雨の高音質Androidスマートフォン「MIAD01」に「Eddict Player」アプリをインストールして試してみた。CR60の背面スイッチをリッピングモードに切り替え、USB-CケーブルでCR60と接続する。すると画面にアルバムタイトルの候補一覧が出てくる。これは懐かしのCDDBで選ぶような感覚だ。曲名の一覧を取り出すことができ、リッピングが開始される。もちろん時間がかかり、我々には面倒な待機時間と思えたが、若い世代にはこうしたリッピングという動作が新鮮に感じられるだろう。

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iOS/Androidに対応する専用アプリ「Eddict Player」でリッピング可能

CR60を使用すれば、サイン入りCDとスマホを手に持って途方に暮れているユーザーが音を聴いてかつ再生もできる。CR60は古風なCDと現代的なDAPのギャップを埋めて、それを結ぶことができる機材とも言える。

 

当時に比べて音質も向上。CDの魅力を再発見

今回試聴する前には、正直いまどきCDかと思ったが、実際試してみると自分にとっても新たな発見があった。

昔の記憶と比べて、音質の向上が特に印象的だった。これはイヤホンの進化もあるが、プレーヤー本体の音作りも大きく進化している。また、ポータブル機種で音飛びがほとんどないことにも驚いた。かつては音飛びが避けられないことが多かったが、メモリ価格の低下やバッファ技術の進化もあり、現在の機種は安定性が格段に向上している。

ただし「DM13」や「CR60」のCDリッピング機能がやはりPC慣れした世代にはわかりにくいので、普通にCDドライブの機能を有して、EACなどのリッピングソフトを久しぶりに立ち上げられるものが欲しいとは感じた。

冒頭でCDは若者には新鮮なのだと少し上から目線で書いたが、実際に使用してみて音質の良さや音飛びのなさはかえって我々のようなオジサン世代にとって新鮮な驚きだった。また、セグメント液晶表示のレトロ感も魅力的だ。様々な世代が、それぞれの視点からCDプレーヤーの魅力を再発見できる時代が来ていると言えるだろう。

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