PRスムーズな操作性と昔ながらの音質を両立
Shanlingが魅せる“真空管の温かみ”と“デジタル”の融合! ハイエンドDAP「M8T」レビュー
前提としてどのモードもハイエンド機に求められるクオリティを余裕でクリア。
その上で特に心惹かれたのはトライオードモードの音だ。低域の絶妙なプッシュや肉感、高域の艶やかさといった、真空管に期待されるであろう要素を期待通りに届けてくれる。若干ナロウレンジ傾向ではあるがそのおかげで、背景ボケを活かしたポートレイト写真のように、中心帯域の存在感やそこでの表現を際立たせてくれるのも嬉しい。
ネイト・スミスのソロドラムス作品「Big/Little Five」を聴くと、ヘッドを叩き込まれた胴の中で空気の圧が高まる、その様子まで想像させるような、バスドラムの太く豊かで力強い響きが感動的だ。超低域が整理されてその上の低域が強まることで、太さや力感がプッシュされている。
音像が全体に前に来るというか、ドラムス全体を捉えるオフマイクよりも、ドラムスの各パーツに向けられたオンマイクの成分が強まるような印象も受ける。先ほどはポートレイト的な表現とも言い表したが、この楽曲ではさらに踏み込んで、ドラマーの手元に迫るクローズアップ映像的なニュアンスまでも感じられるほどだ。
では、ウルトラリニアモードは魅力が薄いのかというと、もちろんそうではない。超低域までフラットなワイドレンジさや高域側での質感のリアリティに優れるのはこちらだ。音楽全体をクリアに描き出すその様子には、画角全体を鮮明に写す、パンフォーカスの風景写真のような爽快な美しさもある。
先ほどの曲はソロドラムスだったので彼一人に焦点を合わせるトライオードモードがハマった。だがギターとベースのデュオ曲、ジュリアン・ラージ「Double Southpaw」を聴くと、こちらにはウルトラリニアモードも合う。すっきりして透明感の高い見晴らしが生まれ、響きの成分も見えやすい。名人の手元アップ映像感を味わえるトライオードで聴いても楽しい曲だが、楽曲の美しさを余すところなく楽しめるのは、全体を俯瞰的に見渡せるこちらウルトラリニアだ。
残るトランジスタモードはウルトラリニアよりさらにカチッとした感触。真空管モードと比べると硬く素っ気ないと感じるかもしれないが、一旦耳をリセットして真空管モードと比べずに聴けば、ハイエンドDAPとしてバランスのよい音調だ。あえて真空管アンプ搭載DAPを購入するユーザーにあえてトランジスタモード中心の運用をおすすめしたりはしないが、イヤホンの試聴時など、DAP側の個性を抑えて聴きたい場面もあるだろう。そんなときにはぜひ活用してほしい。
現代ハイエンド機の素養を何も欠くことなく備えた上で、真空管アンプ搭載により、単に優秀なハイエンド機という枠に収まらない魅力も備える。さらには、物価高騰の昨今におけるハイエンド機としては、何とか手を出しやすい価格に収まってくれてもいる。
普通のハイエンドDAPはもう持っているという方にとっても新鮮。初のハイエンドDAPを検討中の方にも手が届く。
このジャンルの面白い選択肢になってくれそうなニューモデルだ。
(企画協力:MUSIN)