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【特別企画】音楽の本質を的確に引き出す

“ミュージックファースト”を貫くディナウディオ、その中核ライン「Evoke」シリーズを徹底試聴

公開日 2023/08/01 06:30 岩井 喬
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「Evoke 30」 -楽器ごとの分離も良く、密度の高い描写を見せる



そして3機種目となるのは、スマートなフロアスタンディング型のEvoke 30である。ウーファーはEvoke 10と同じ14cm口径で、ユニットそのものの仕様も同じようだ。この14cmウーファーを2発搭載し、スタガー接続とした2.5ウェイである。クロスオーバー周波数は2.3kHzでフィルターは−12dB/oct.スロープを採用。2発のウーファーのうち一方は1.2kHzで減衰させ、低域の力感と共にハイスピードで切れのあるレスポンスの良さも備えているという。底面にはX字状に張り出したベース部にアウトリガー型のスパイクを備え、安定感のある設置性を実現している。

「Evoke 30」Walnut仕上げ 616,000円

流石に筐体サイズの大きなフロアスタンディング型らしい、伸び良く安定的なサウンドで、雄大さも実感できるようになる。広がり表現を中心に空間表現力も高まり、ローエンドの重心も低く、低域方向の階調性もよりわかりやすい。楽器ごとの分離も良く、密度の高い描写を見せる。オーケストラの管弦楽器はハリ感のある鮮やかな描写であり、ローエンドの伸びもコントロール良くまとめ、音場の見通しも深い。ハーモニーは潤い良く響くが輪郭もぼやけず、各パートとも芯の太さを持つ、エナジーに満ちた臨場感溢れる表現となっている。

ジャズ音源では演奏前のカウントの空気感からリアルであり、ホーンセクションの朗らかで伸び良い響きも心地良い。ウッドベースやキックドラムのアタックは厚みを持たせつつ、適度に引き締めている。ピアノやシンバルの響きは軽やかに立ち上がり、エッジの倍音感も際立つ。ボーカルはボディの肉付きの良さと、口元のクールなフォーカス感を両立。音像は音離れ良く定位し、輪郭はウェットな艶を纏う。

ロック音源のリズム隊はファットなアタックを見せるが、制動性も高く、リリースは滲まない。エレキギターのリフはコシが太く、僅かにかけられたリヴァーブのニュアンスも掴み取れる。男性ボーカルのボトムは太く安定しており、口元の動きも滑らかに表現。シンバルの響きも涼やかだ。

ストリングスをバックに従えたTRUEの「黎明」では、分離良く定位するボーカルの若々しく存在感溢れる描写が印象的。ボトム感も持たせつつ、声のハリも良く滑らかで、ビブラートも鮮明に捉える。生き生きとした声の伸びも有機的で、ダイナミックに張り出すリズム隊の抑揚良い粘りと相まって、躍動感あるサウンドが展開。ストリングスもエナジーに溢れ、クリアに響くピアノの低域弦は重厚さも併せ持つ。楽曲の持つ雄大さとベクトルが揃っている。

「Evoke 50」 -丁寧で穏やかな描写性を伴う上質なトーンバランス



最後はシリーズのフラグシップであるEvoke 50だ。シリーズで唯一ミッドレンジを備える3ウェイ構成で、2発の18cmウーファーはEvoke 20のものとは異なり、銅製ボイスコイルによって振動系マスを高め、より深い低域再生を実現させているという。

「Evoke 50」 Blonde仕上げ 858,000円

15cmミッドレンジはContourシリーズ直系の専用設計品であるといい、厚さ0.4mmのMSPコーンやピュアアルミ製ボイスコイル&グラスファイバー製ボビン、ネオジウムマグネットを用いている。クロスオーバー周波数はトゥイーター/ミッドレンジ間を3.5kHzとし、他モデルよりも急峻な−18dB/oct.フィルターを採用。そしてもう一方のミッドレンジ/ウーファー間は430Hzで、フィルターは−12dB/oct.スロープを取り入れた。

シリーズで最も大きなモデルらしく、どっしりとした落ち着きのあるサウンドを持ち、低域の余裕ある響きとともに、丁寧で穏やかな描写性を伴った、上質なトーンバランスを両立。管弦楽器や女性ボーカルの質感は艶やかで、潤いに満ちている。ローエンドは音伸びの豊かさだけでなく、制動性も高めており、余韻の滲みやふくらみを抑えた、見通しの良い空間を描き出す。

アキュフェーズのパワーアンプ「A-75」をモノラルで使用

オーケストラの旋律はしなやかな音運びで、ウェットで華やかなハーモニーが展開。楽器の芯の厚みを丁寧に捉えつつ、ディテールを流麗にトレースし、余韻の消え際までコントロール良く表現する。ジャズ音源はカウントから立体的に定位し、ホーンセクションはキレ良く躍動的に描写。ピアノは重心の低い安定感ある響きで、ハーモニクスをまろやかに聴かせる。アタックの響きも澄んでおり、余韻の階調性も非常に細かく、荒々しさを感じさせることはない。キックドラムやウッドベースの胴鳴りは力強く押し出すが、シンバルワークの輝き感が爽やかに響き、コントラスト良く両立させている。

背面端子はいずれのモデルもシングルワイヤ専用

ロック音源のリズム隊は濃密なタッチで、ディストーションギターも厚くまとめ、エッジを僅かに利かせたリフの響きも小気味よい。スネアドラムやシンバルのアタックは、ハリ感があるものの滑らかで、きつさがなく、余韻も涼やか。ボーカルも肉付きがしっかりとしており、存在感良く定位する。肉声のリアルさ、フッと浮き立つ音離れの良さも際立つ。

TOTO「I Will Remember」でもボーカルの生々しくフォーカスの良い口元の描写を実感できたが、ボトムの厚み、密度感もしっかりと伴い、実在感ある佇まいを見せる。ドラムの厚みやコーラスの立体感も印象的で、しっとりとした落ち着きあるバラードの風情を存分に堪能できた。11.2MHz音源でも楽器のリアリティと余韻のクリアな階調性を十二分に味わえたが、低重心でボディの密度の高いボーカルの瑞々しい描写性もより深化したものとなっている。息継ぎのニュアンスも自然であり、等身大の音像が目前に現れるかのような印象を受けた。



Evokeシリーズはトゥイーターなど、各モデル共通の要素を持っている一方で、サイズの異なるキャビネットに応じ、クロスオーバー周波数もモデルごとに細かく設定するなど、ミドルエントリークラスであっても妥協のないディナウディオならではの設計思想が息づいている。いずれの製品も様々なジャンルの音楽を、ストレスなくスムーズな音色で聴かせる傾向にあるが、サイズの違うモデルごとに、その置かれる環境を考慮したサウンドチューニングが行われているように感じた。

Evoke 10はポピュラーな音源に対しての相性が高く、近年のトレンドでもある低域のリッチさを最小限のスペースで実現させる、意欲的なキャラクターを持つ。Evoke 20はオーソドックスなブックシェルフ型2ウェイとして、王道的な安定感のあるバランス指向のサウンドであり、様々な音楽ジャンルとの相性も良く、組み合わせしやすいスピーカーに仕上げられている。

そしてEvoke 30はスタンドいらずのフロアスタンディング型として、日本の住宅事情に最もフィットしたサイズ感を持つ。Evoke 20の延長線上にある、余裕度と安定感、聴き疲れしない滑らかな音調を兼ね備えたモデルだ。シリーズ最高峰となるEvoke 50はプライス面、設置スペース的に余裕があるならばぜひお薦めしたいハイエンド入門となる素地を備えた製品である。専用設計のミッドレンジによって実現している、自然で密度ある中域表現は、声や楽器の持つ本質を的確に引き出す。

Evokeシリーズは高級モデルに多い解像度指向のサウンドとは一線を画す、音楽の持つエナジー、楽器のディテールの流麗さに対しての感度が高い印象である。生活環境に馴染ませつつ、ミュージックファーストを貫く、欧州ならではのコンセプトが息づいたスピーカーシステムであるといえるだろう。

(提供:DYNAUDIO JAPAN)

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