HOME > レビュー > これぞディナウディオ!エントリーモデル「Emit」の飛躍に驚きを禁じ得ない

【特別企画】計測システム「Jupiter」の成果を投入

これぞディナウディオ!エントリーモデル「Emit」の飛躍に驚きを禁じ得ない

2021/10/26 逆木 一
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
■最新の計測システム「Jupiter」の成果を元に生み出されたエントリークラス

デンマークのスピーカーブランドであるディナウディオは、2017年に「Jupiter」と呼ばれる巨大な計測室を完成させ、スピーカー開発で積極的に活用している。同社の最上位である「Confidence」シリーズから、「Contour i」シリーズ、「Evoke」シリーズは、いずれもJupiterの恩恵を受けて開発された。

そして今回、ディナウディオのエントリークラスにあたる「Emit」シリーズが刷新され、現行ラインアップはすべて「Jupiter以降」へのモデルチェンジが完了した。ディナウディオのたゆまぬ研究開発がエントリークラスにどれほどの進化をもたらしたのか、ブックシェルフ2モデル「Emit10」「Emit20」の試聴を通じて確かめてみたい。

DYNAUDIO「Emit10」(143,000円/ペア/税込/左)と「Emit20」は187,000円(ペア/税込/右)。この他に、フロア型の「Emit30」「Emit50」をラインアップする

まずは外観について。新Emitシリーズは上位の「Evoke」シリーズと同様、ユニットを固定するねじが表面から見えなくなり、カバーがマグネット装着になったことで固定用の穴もなくなった。前シリーズはいかにも「クラシックな」ディナウディオのスピーカーらしいデザインだったこともあり、見た目の印象は大きく変わった。

背面には溝状の加工が施されたデュアルフレアー型デザインのバスレフポートを採用。「破裂音」を発生させる乱気流を防ぎ、よりクリアで正確な低音を実現するとしている。バスレフポートに詰める、低音調整用のフォームプラグも付属する。

Emit 20の背面。バスレフポートが背面に搭載されるほか、端子はシングルワイヤ対応となっている

内容面で特記すべきなのは使用されているユニットの刷新だ。Emit10・Emit20ともに、トゥイーターには上位のEvokeシリーズで使用されている「Cerotar」トゥイーターを採用する。また、Emit10の14cmウーファー、Emit20の18cmウーファーもEvokeシリーズで使用されているものが搭載され、ユニット構成は上位機と比べても遜色ない。クロスオーバーの設計についても、リスニングテストに加えてJupiterによる計測で最適化されており、近年のディナウディオの研究開発の成果を存分に受けた形だ。

Emit10は143,000円(ペア・税込)、Emit20は187,000円(ペア・税込)という価格帯も考慮し、試聴は筆者のメインシステムではなく、より一般的な環境を想定したシステムで行った。アンプにはヤマハのUSB-DAC搭載プリメインアンプ「A-S801」を使い、ソースとしてアイ・オー・データ機器の小型オーディオサーバー/ネットワークトランスポート「Soundgenic」を組み合わせた。

ヤマハのプリメインアンプ「A-S801」に搭載されるUSB-DAC機能を利用し、Soundgenicと組み合わせて試聴
 
■これぞディナウディオ! 豊かな陰影感に満ち、清涼感と浸透力を備える

まずはEmit10から聴き始めたのだが、一聴して筆者は驚きを禁じ得なかった。というのも、あまりにも簡単に、筆者が常々「これこそディナウディオの精華」と考えている音が得られたからだ。

ここで少々昔話をしたい。

筆者がはじめて出会い、実際に購入したディナウディオのスピーカーは、当時のエントリークラスのトールボーイ「Audience122」だった。Audience122はそれまでに聴いたスピーカーとは一味違う音の浸透力や陰影感といった美点で筆者を虜にしたのだが、それらは同時に「暗い」「冷たい」「重い」といった印象と表裏一体でもあった。そして、そうしたいわば難点を表出させることなく美点を輝かせるために、若き日の筆者はますますオーディオの沼にはまり込んでいくことになるのだが、それはまた別の話

というわけで話をEmit10に戻そう。今回ヤマハの「A-S801」と組み合わせて鳴らしたEmit10は、暗いのではなく豊かな陰影感に満ち、冷たいのではなく清涼感と浸透力を備え、重いのではなくしっかりとした実体感と躍動感を両立した、まさしく筆者がディナウディオのスピーカーに求める音を、あっけなく、さも当然のように実現していた。筆者がAudience122を相手に繰り広げてきた苦労ははたして何だったのかと思うほどにあっけなく、素晴らしい音がいきなり流れ出していた。

Emit 10の設置イメージ

Corrinne Mayのアルバム『Safe in a Crazy World』収録の「Angel in Disguise」では、冒頭のピアノが頭上を突き抜けていくような空間表現とともに、ボーカルの存在も際立つ。この透明感と潤いを併せ持つ、いうなれば「みずみずしさ」に満ちた声の表現は、まさにディナウディオのスピーカーが得意とするものだ。空間を緻密に埋める情報量の豊かさといった、純粋なスピーカーとしての性能の高さも感じられる。ピアノや女性ボーカルはじゅうぶんにのびやかだが、きついところは皆無であり、耳当たりの良さは特筆できる。

toeのアルバム『songs, ideas we forgot』収録の「Leave word」では、各楽器が強烈に主張しつつも混濁することがない分解能の良さが確認できる。特にtoeの楽曲で重要な役割を果たすドラムの描写が素晴らしく、乱れ舞う連打が滲むことなく、実体感をもって空間に放たれる。一瞬の静寂の後に各楽器が炸裂する瞬間を聴けば、ダイナミックレンジにも余裕がある。熱さの中に物憂げな情感が潜むtoeの楽曲に陰影感豊かなディナウディオのスピーカーは抜群の相性だと筆者は信じて疑わないが、Emit10を聴いてその感覚はますます強くなった。

■「Audience52」との比較では、音楽の躍動感にさらなる潤いが

ここで試しに、筆者がメインシステムのサラウンドバックスピーカーとして使っている、ディナウディオの3世代前のエントリークラス「Audience52」とEmit10を比較してみた。

3世代前のエントリーモデル「Audience52」(左)と「Emit20」(右)

Emit10は単純な低域の量感を除き、ほぼあらゆる点でAudience52を上回っている。中高域の伸びやかさや透明感はもちろんだが、ディテールの描写力や分解能、空間表現力といった現代のスピーカーに求められる能力には隔世の感がある。なによりEmit10は「鳴らしやすさ」が感じられ、同条件でも音楽が軽やかに躍動する。

ちなみに上で紹介した2曲は、筆者がAudience122と出会った際に試聴曲として持ち込んでいた曲でもある。Emit10にはディナウディオのスピーカーとしての変わらぬ魅力と、現代のスピーカーとしての確かな進化を感じられた。

■Emit20では低域の量感がさらに豊かに。映画再生にはこちらをオススメ

Emit20の音調は限りなくEmit10と同等だが、ウーファーサイズの差から来る低音の量感にはやはり明確な違いがある。それでいて不明瞭な、重いだけの低音ではなく、ダンピングが効いて躍動感もある。また、確かに低音は増える一方で、中高域、とりわけボーカルの明瞭さへの悪影響は感じられない。Emit10と比べて一長一短というわけではなく、純粋に低域方向にレンジを伸ばして再生能力を向上させたイメージだ。

「Emit20」は「Emit10」よりウーファー径が大きく、キャビネットサイズも一回り大きくなる

なお、映像用途にステレオで使った場合、特に強烈な低音がふんだんに使われている近年の映画では、Emit10とEmit20の低音再生能力の違いは一般的な音量でも大きな差となって表れる。普通に音楽を聴くぶんにはEmit10でも低音の不足を感じることはまずないと思われるが、映像再生のメインスピーカーとして使う場合はEmit20をおすすめしたい。

今回登場した新「Emit」シリーズは、シリーズ名こそ先代から引き継ぐものの、まったく別物といっていい進化を遂げている。内容の著しい充実に伴い、ブックシェルフ2モデルについては前モデルから価格が上昇したが、絶対的なクオリティの向上はそれを補って余りあるものだ。ディナウディオのエントリークラスのスピーカーは、「Audience」シリーズ、「DM」シリーズ、「Emit」シリーズと進化を重ねてきたが、新Emitシリーズが果たした飛躍は過去最大と言っていいのではあるまいか。

筆者が「ディナウディオの美点」と感じている要素が、必ずしもすべてのオーディオファンにとって美点たり得るとは思っていない。それでも、単に「音が良い」を越えて「音楽に浸る」体験を求めている人にとって、Emit10とEmit20は真にこの上ないディナウディオのスピーカーとの出会いとなるだろう。

(提供:DYNAUDIO JAPAN)

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク