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【特別企画】魂を揺さぶるサウンドに刮目

Meze Audio初の密閉型平面駆動ヘッドホン「LIRIC」レビュー。創業者が語る開発の苦難とこだわり

公開日 2022/06/08 06:31 草野 晃輔
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■心地よく多彩な環境で楽しむことを追求して生まれた、洗練のデザイン



LIRICの開発は、試行錯誤の連続だったそうだ。その一つが、個性的で美しいプロダクトデザインである。Meze Audioでは粘土などを用いて立体的に造形を検討する手法でデザインをしていくというが、この手法は自動車のボディデザインと同じ。図面だけではわからない、人の感性に訴えかける造形を見出せるのがメリットだ。

メゼ氏によると、LIRICでは「2018年から2021年までの3年間で、方向性の異なる36パターンのデザインを作り、試行錯誤する中で多くの “これだ” というデザインがあった」そうだ。最終的には「EMPYREANの方向性で、細部を詰めることにした」というが、方向性も細部のアイデアもこの試行錯誤から見出されたのは言うまでもない。

メゼ氏が目指したLIRICのデザインは「様々なリスニング環境にフィットさせる」こと。これを実現するキーワードが、無駄を取り除く “精錬” である。全体はブラックを基調としつつ、アクセントにカッパー(銅)をあしらう。遠目にはシンプルな造形だが、よく見るとそれぞれのパーツが複雑に構成されている。決して主張はしないものの、手にする度にその魅力に惹かれていくようだ。

一見シンプルで主張の控えめなデザインながら、細部まで見ていくと質感高く複雑な造形が浮かび上がる

これをメゼ氏は1980年代 - 1990年代に全盛期だった一眼レフカメラになぞらえ、「何をするにも手元に置いておきたいが、特別でもある “現代的なアクセサリー” のような存在になった」と語る。

さらに、屋内外問わず性能を発揮できるよう素材を厳選し、ハウジングのフレームにはマグネシウム合金、ヘッドバンドにはステンレス合金、両者をつなぐ素材にはアルミニウムをそれぞれ採用した。これにより、高い剛性を持ちながら簡単にフィット感を調整でき、「体を動かしてもずれにくく、快適な圧力を確保している」という。

ヘッドパッドに付けられた十字の溝も、装着感を高める重要なデザイン

実際に装着すると、柔らかく頭頂部や側頭部にフィットし、想像以上に軽く感じる。この軽さは、接触するポイント全てで均等に重さを分配することにより実現するのだが、ヘッドホンで誰の頭にもフィットさせるのは容易ではない。

ヘッドホンは身につけるアイテムだ。仕立てのよい服の着心地がよいように、ヘッドホンも身につけて心地よくあるべきだとメゼ氏は考える。だからこそ、Meze Audioでは「心地よさを第一に考える」というフィロソフィーを掲げている。

本機を手にすると、このフィロソフィーが体現されていることがよくわかる。同社の生産拠点は、「ゆったりとした時間が流れる」というルーマニアのマラムレシュという木工が盛んな地にある。LIRICは、ここでもの作りの薫陶を受けた職人により、「手作りならではの技術」で作られるそうだ。

Meze Audioが手作りにこだわるのは、「品質を把握できるだけでなく、作り手の魂を注入できる」ため。なるほど、LIRICを手にすると、細部の仕上げの丁寧さや組み上げの精巧さから、いかに品質にこだわって作られているかがわかる。このスペックからは決してわからない品位の高さが、使うものに喜びと信頼感をもたらしてくれる。

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