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【特別企画】創業時のフィロソフィーを継承

真空管にノスタルジーは求めない。有機的な説得力に満ちたエアータイト、最新サウンドを聴く

公開日 2021/11/23 07:10 小原由夫
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世界的な知名度を誇る真空管アンプブランド・エアータイト。同ブランドは1986年の創設から今年で35周年を迎えた。創業以来の一貫しているポリシーは「大量生産しない」「作りたいものを作る」「他品種の少量生産」。そしてここから導き出されるサウンドは、いまや45カ国以上に及ぶオーディオファンの心を捉えている。世界共通ともいえる普遍の魅力はどこにあるのか? それを探るべく、小原由夫氏が改めてエアータイトのフルシステムを体験する。

■“オーディオ界のレジェンド”が創業、日本が誇る真空管ブランド

大阪府高槻市に拠点を置くエイ・アンド・エム社「エアータイト」が創業35周年を迎えた。同社はラックスマン役員であった三浦 篤氏と、同僚であった石黒正美氏が興したブランドだ。社名のエイ・アンド・エムは、両者のイニシャルを取ったもの。残念ながら石黒氏は他界しているが、三浦氏はご健在で会長職に就かれ、2016年12月に米国オーディオ専門誌「アブソリュート・サウンド」にて、世界のハイエンドオーディオの殿堂に選出されている。

私が抱いているエアータイトの魅力とは、ノスタルジックな考え方に基づく真空管アンプ像を追い求めているのではないことだ。オーソドックスな回路をベースとしながら、決してヴィンテージ然としていない回路設計のトポロジーやデザインセンスが感じられる点は素晴らしい。

また、品質の安定性や長寿命という点も高く評価したい。熟練した職員がひとつひとつ手作業で加工と組立を行ない、プリント基板などを極力使わずにスタッドに部品のリード線を直接絡げてハンダ付けするというていねいな配線作業を行なっているのである。

エアータイトのモノラルパワーアンプ「ATM-2211J」(2,640,000円/ペア/税込)。メタリックで堅牢なシャーシでひとめでエアータイトと分かるデザインの美しさも特徴

デザインやパネルフィニッシュも、一目でエアータイト製品と分かるアイデンティティを有している。アルミやスチール、純銅、真鍮を用いた堅牢なモノコック構造シャーシとガンメタル系のカラリングは、持つ喜び、触れる楽しみを宿しており、それは外部だけでなく、内部の部品レイアウトやワイヤリングに至るまで、実に美しく仕上げられている。

日本が誇る、日本の工房的オーディオを代表する管球アンプブランド。それがエアータイトだ。

■211を採用する最新パワーアンプを中心に、フルシステムを堪能

今回の試聴で準備した製品は、フォノイコライザー内蔵プリアンプ「ATC-5」、モノラル型パワーアンプ「ATM-2211J」、MC昇圧トランス「ATH-3s」という内容だ。いずれも新しいデザインチームが結成された2015年以降の開発製品。この陣容でLPやCDをじっくり聴いてみたい。

試聴の前に、各々のモデルの特徴を簡潔に紹介していこう。17年に誕生した「ATC-5」は、2段NF-CR型イコライザー回路を内蔵。ラインアンプ部は「12AT7」を用いたオーソドックスな2段構成になっている。ボリュームには、アルプス社の黄銅削り出しケースを使用した金メッキ多接点ワイヤブラシタイプが奢られた。

フォノイコライザー内蔵のステレオコントロールアンプ「ATC-5」(880,000円/税込)。初代機「ATC-1」以来約30年のブラッシュアップを実現したモデル

パワーアンプ「ATM-2211J」は、エアータイトにとって2世代目となる211アンプで20年の発売。直熱3極送信管211をシングルで駆動しながら、最適化した励振部と1000Vのプレート電圧、固定バイアス方式にて32Wをひねり出すことに成功。

「ATM-2211J」は、2001 年に発売されたATM-211以来、約20年ぶりに刷新された211シングルモノラルパワーアンプ。エアータイトが次世代に向けて発信する注目モデル

一般的な管球アンプの出力トランスの2次側からオーバーオールのNFBをかけることは避け、より困難な出力管のプレートから初段に向けて多量のローカルNFBをかけることに挑戦し、より奥行き感が増し、高いい空間再現性を獲得した。その出力トランスは、橋本電気製の大型タイプで、特注のチョークコイルと最良のコンビネーションを発揮。電源トランスも高圧用/低圧用と分別した2個使いである。バイアス電流を監視するIPモニター/バイアスメーターは縦振りの大型エッジワイズタイプだ。

昇圧トランス「ATH-3s」は、Hi-μコアを用いた高昇圧比40倍(32dB)というスペック。シャーシのモノコック構造はもちろん、純銅をレーザーカットしたトランス保持板やアルミの肉厚フロントパネルで構成されている。また、入出力のグランドリフトスイッチを備え、フローティングバランス等、接続環境に応じた使い分けも可能になっている。

MCカートリッジ昇圧トランス 「ATH-3s」(198,000円/税込)。多種多様のケーブルに対応するため、新たに入力、出力に独立のグランドリフトスイッチが装備された

■重厚で壮大なスケール感曖昧な表現を一切見せない

まずはレコード再生から。プレーヤーにテクニクス「SL-1000R」と、MCカートリッジにフェーズメーション「PP-2000」を組み合わせた。メル・トゥーメのヴォーカルは、柔らかくてしなやかで、いかにもヴェルベット・ヴォイスと称されたトゥーメらしい質感で再現された。弾力のあるベースや、瑞々しいピアノの響きもいい。もちろんハムノイズは皆無。

スピーカーにはB&Wの「803 D3」を組み合わせて試聴

マゼール指揮/クリーブランド管の「レスピーギ/ローマの松」では、第1楽章のきらびやかなオーケストレーションや、第2楽章の荘厳な響きが立体的かつスケール感豊かに表現され、思わず聴き入った。ローエンドの力強さや重心の低さから、「ATM-2211J」の駆動力の高さを感じる。

CDはアキュフェーズの「DP-750」を使用。上原ひろみのピアノソロの再生では、トランジェントとスピード感が要求されるが、並みの真空管アンプならば曖昧かつ鈍い表現に陥りがちなところを、そんな表情を少しも見せないのがエアータイトだ。むしろ機敏で鋭く、素早いパッセージを鮮烈に紡いでいく。そこにはヴィンテージ臭さやレトロな佇まいは微塵もなく、実にカラフルで躍動的な演奏に感じられたのである。

パトリシア・バーバーのSACDでも、彼女のアクセントのニュアンスや発音のクセを明瞭に描写。伴奏のガッドギターのアルペジオも生々しい響きだ。この音は、いい意味でデジタルの向こうを張った有機的な説得力に満ちていると感じたぐらいなのだ。

改めてこうしてエアータイトのフルシステムで音楽を聴き、同社製品のソノリティの高さに触れると共に、創業時からのフィロソフィーが反映された良質なプロダクツをいつまでも輩出し続けてほしいと願う次第である。

(提供:エイ・アンド・エム)

本記事は『季刊・Audio Accessory vol.182』からの転載です

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