HOME > レビュー > “原盤権”を取り戻せ! テイラー・スウィフトが仕掛けたストリーミング時代の新戦略

初期6作品を再レコーディングする理由とは

“原盤権”を取り戻せ! テイラー・スウィフトが仕掛けたストリーミング時代の新戦略

公開日 2021/03/09 06:40 本間孝男
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

■新旧の「Love Story」を聴き比べ! 新録の音質クオリティは旧作よりかなり良い

今回筆者は、YouTube Music Premium(2020年末にGoogle Play Musicを吸収)のサブスクリプションと、e-onkyo musicのハイレゾ音源(FLAC 88.2kHz/24bit)を聴き比べてみた。YouTube Music PremiumのファイルフォーマットはMP3で、転送レートは320kbpsとなっている。

YouTube Musicの配信画面

YouTube Music Premiumで[Taylor Swift - Love Story]と検索をかけてみると下記の結果が表示される。
(1)Love Story (Taylor’s Version) ← 再録ヴァージョン
(2)Love Story - Fearless (International Version) ← 各国に配信された国際ヴァージョン(オリジナル版)
(3)Love Story - Fearless (Platinum Edition) ← 6曲追加の特別ヴァージョン(オリジナル版)

YouTube MusicでLove Storyを検索したところ

こちらと合わせ、
4)Love Story (Taylor’s Version) ← ハイレゾの再録ヴァージョン
も試聴した。

さて実際の試聴だが、(1)と(2)と(3)は単なるミックス違いに聴こえるほどよく似ている。個人的な見立てだが、再録「Love Story」のミックスは(3)のイントロ部分と(2)のコーラス+ヴァース部分を下敷きに作られたと思われる。ヴォーカルはオリジナルを完全再現。だが今のテイラーの声の方が魅力的だ。転調箇所やフィドルが踊るコーダーの部分は音もミックスもそっくりのイメージ。スタジオ内で披露するバンドサウンドという構成がよく生かされている。

(1)の再録ヴァージョンの音質が、旧作に比べてかなり良いことも印象的だ。(4)のハイレゾと聴き比べると、24bitのメリットや、エンディングへ向かう時の音圧の高まる部分の余裕ではハイレゾのメリットが感じられるが、YouTube Musicのストリーミングのクオリティもかなり高いと言える。



なお、今回の再録で興味を引くのが、共同プロデューサーの名前がネイサン・チャップマンではなく、同じナッシュビル出身のクリストファー・ロウになっていること。彼は2006年のデビュー・アルバム『テイラー・スウィフト』からの3枚目のシングル「アワ・ソング(Our Song)」のリミックスを担当するなど、古くからのスタジオ仲間。今後の再録プロジェクトが成功するかどうかに、オリジナル録音の参加アーティストがどれだけ戻ってくれるかというのも大きな課題かもしれない。

スウィフトは再レコーディング作品の第一弾を、デビュー・アルバムではなく、シングル「ラヴ・ストーリー」、「ユー・ビロング・ウィズ・ミー」、「ホワイト・ホース」、「フィアレス」の4曲がTOP20入りした2ndアルバム『フィアレス』からスタートすることを選択した。彼女はTwitterでこの作品を選んだ理由について、「未発表曲6曲を含めたので、私がどこから来たのか明らかにする助けになると願っています」と述べ「アーティストはその作品を本当に知っている唯一の人だということです」と付け加えている。

テーラー・スウィフトは世界でもっとも影響力のある、そして最も稼ぐアーティストとしてそのステータスを交渉の場で利用してきた。ストリーミングの時代、レーベルとアーティストの力関係が大きく変化していく流れのなかで、パワー・アーティストとしてどのようなアクションを選んでゆくのか。音楽業界の未来を占う上で、彼女の選択に大きな注目が集まっている。

前へ 1 2

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク