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ヴァイオリニスト ビルマン聡平さんと聴く! ドルビーアトモスとハイレゾによる新日本フィルの高音質配信をレポート

2021/02/02 山之内 正
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■マルチアングル&ドルビーアトモスの配信、どうすれば視聴できる?

U-NEXTのオンデマンド配信はドルビーアトモス再生とマルチアングルという2つの注目機能がある。マルチアングル映像はパソコンやスマートフォンでも再生できるが、画面が小さいという難点がある。Android TVまたはFire TV Stickを活用すれば、TVの大画面で視聴が可能だ。ドルビーアトモスは対応環境が限られ、複数台のスピーカーを構築するのは大変だが、近年はTVの下に置くサウンドバーにも対応モデルが増えてきている。


今回はオーディオ用の試聴室に設置してあるブラビア(KJ-55A9F)からU-NEXTにつなぎ、ソニーのサウンドバーHT-ST5000でドルビーアトモス音声を聴くことにした。

今回の視聴システム。SONYのBRAVIA「KJ-55A9F」とサウンドバー「ST5000」を組み合わせ。サブウーファーは右スピーカーの奥に設置してある

ST5000は55型のOLEDテレビと横幅がほぼ同じ。サブウーファーは少し大きめだが、ワイヤレス接続なので置き場所を選ばず、配線不要ですっきりセッティングできるのがありがたい。テレビのARC端子とST5000を1本のHDMIケーブルでつなぐだけなので、準備はアッという間に完了した。

ステージの演奏を収録するカメラは計7台(メイン映像、ピアノと木管・金管、指揮者、木管、弦楽器後方、下手からの俯瞰)あり、画面に表示されるサムネイルをリモコンのカーソルボタンで選び、切り替えることができる。最初は映像が切り替わるだけかと思っていたが、実は今回の収録ではカメラとマイクの位置が連動していて、音も同時に切り替わる。そこまで凝ったオーケストラの収録映像はこれまで目にしたことがない。

7つのカメラ視点からの再生を選択することができることに加えて、音声もそれぞれのカメラ位置で聴こえるようにミックスが変えられている

「木管」を選べば木管楽器が主役になって弦楽器は音量が小さめになるし、「弦楽器後方」に切り替えると普段は聴こえない内声の音が浮かび上がるという具合に、アングルごとに楽器のバランスが変わる。メイン映像はすべての楽器がバランス良く配分され、私たちが聴きなじんだ音だが、それ以外のアングルで体験する響きはとても新鮮に感じる。下手(ステージ向かって左側)の上からステージを俯瞰した映像には舞台と天井の間に浮かぶ余韻がたっぷり含まれていて、ドルビーアトモスで再生すると直接音との位置関係や響き具合の特徴が手にとるようにわかり、これも新しい発見だった。

ビルマン氏も思いがけないほどの変化に驚いていた。「客席からは聴こえない音が聴こえてきますね。私が演奏している第2ヴァイオリンやヴィオラがここまでクリアに聴こえるなんて!普段私たちがステージで聴いている音そのままですよ」

ドルビーアトモスの音声は、「自分たちがステージで聴いている音そのもの」だと語るビルマンさん

■深田 晃氏によるマイキングにも注目。オーディオマニア的聴き方もできる

今回の録音を手がけた深田晃氏はサラウンド収録にも豊富な経験を積んでいるし、自ら考案した「深田ツリー」を今回のマイクセッティングにも活用している。ステージ全体を捉えた映像でその一部を見ることができるので、マイキングに興味のある人は演奏風景だけでなく、そちらにも注目して映像を確認して欲しい。メインマイク以外にステージ上方の響きを拾うマイクが吊り下げられ、各パートの前に並ぶマイクもいつもと違う配置が目立つ。

筆者がコンサートのチケットを買うときも、正面ではなくステージ横や斜め正面の天井近くなど、一般的には不人気な座席をあえて選ぶことがある。楽器のバランスは変わってしまうが、普段は他の楽器に埋もれがちな内声や木管の第2奏者の動きなどがよく聴こえてくるし、指揮者の表情や細かい指示なども目に入る。マーラーの大編成の交響曲など、オーディオマニア的視点でも演奏を楽しみたい曲のときは、積極的にそんな席を選ぶこともあるくらいだ。

今回のマルチアングル配信をドルビーアトモスで再生しながら、そんなマニアックな聴き方を連想した。「聴き逃し配信」で繰り返し体験できるので、アングルを変えて1曲通して再生するのもお薦めだ。

コリオラン序曲、ピアノ協奏曲第4番、交響曲第7番というベートーヴェンイヤーを意識したプログラムを通じて、指揮者の熊倉 優氏が目指す音楽の方向性がよく見えてきたのも貴重な発見だった。アングルを「指揮者」に固定すると、映像を通して指揮棒の動きだけでなく、顔の表情の変化や呼吸からいろいろな情報が伝わってくる。落ち着いたテンポと緻密なダイナミクスのコントロールによって、作品自体にそなわる運動性や力強さが自然に湧き出てくる演奏。それを生み出す原動力が確実にそなわっている。

ビルマン氏は熊倉氏の指揮をこう表現する。「手の動きや表情の変化を見ていると、指揮者がどんな音楽を目指しているのか、とてもよく伝わってきます。動きに派手なところはありませんが、ベートーヴェンの音楽に対して誠実な姿勢が伝わってきました。素晴らしい指揮者だと思います」

なお、カメラアングルはリモコンの操作でいつでも切り替えられるが、アングルを替えるといったん映像と音声が途切れて最初の場面に戻ってしまう。最初から聴き直すなら問題ないが、曲の途中で自在に切り替えられれば、さらに使いやすくなると思う。

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