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まさにディランの「My Way」

ボブ・ディラン8年ぶりのオリジナル作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』レビュー。作品の背景も徹底解説!

2020/07/08 本間孝男
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■『ラフ&ロウディ・ウェイズ』全曲ミニレビュー

1. アイ・コンテイン・マルチチュード(I Contain Multitudes)
アルバムのオープニングを飾るのは第2弾として先行発売された「I Contain Multitudes」。曲名はアメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの詩集『草の葉』に登場する一節から。まさにディランの「My Way」と言っていい作品。ヴァースの部分では自分自身を、アンネ・フランクやインディアナ・ジョーンズ、”あのイギリスの悪党ローリング・ストーンズ ”と並べて歌っている。

2.偽預言者(False Prophet)
出典は定かではないが、マタイによる福音書7章15-20節に「羊の衣を纏った強欲な狼である偽預言者に気を付けろ」とある。楽曲は黒人ロックンロール・シンガー、Billy “The Kid” Emersonのブルース・ナンバー「If Lovin' Is Believing」が原型。録音に参加したネヴァー・エンディング・ツアー・バンドのメンバーのタフなグルーヴが聴ける好ナンバー。

3.マイ・オウン・ヴァージョン・オブ・ユー(My Own Version of You)
「遺体安置所や修道院を訪れて、必要なボディパーツを探す。手足、肝臓、脳、心臓、私は誰かを生き返らせる、それが私がやりたいこと。私は、あなたの私のバージョンを作りたい」「レオン・ラッセルやリベラーチェのようにピアノを弾いて上げる」とも歌う。デイランの永遠の願いかもしれない。

4.あなたに我が身を(I've Made Up My Mind to Give Myself to You)
ゆったりとしたワルツのリズムに乗って「旅行に連れて行って、何か理解できないものを見せて」と遠くへ旅立ちを歌う。

5.ブラック・ライダー(Black Rider)
全員黒の服を着ているブラック・ライダーへ心の葛藤を淡々と歌う。

6.グッバイ・ジミー・リード(Goodbye Jimmy Reed)
偉大な先達ブルースマンへの敬意をこめて歌う。ディランの吹くブルースハーモニカも聴きどころ。

7.マザー・オブ・ミューズ(Mother of Muses)
音楽の神ミューズの母に淡々と尋ねる。世紀の流れの中にディランが感じたことを。「プレスリーが歌う道を切り開いたのは誰」「マーティン・ルーサー・キングの進むために道を切り開いたのは」。

8.クロッシング・ザ・ルビコン(Crossing the Rubicon)
「俺は十字架に祈り、若い娘たちにキスをしてルビコン川を渡った」と歌う。タイトルからくるイメージとはちょっと違うが肩の力の抜けたブルースが心地よい。

9.キーウェスト(フィロソファー・パイレート)(Key West (Philosopher Pirate))
「最も卑劣な殺人」に続く9分半を超える大作。「哲学者の海賊」という副題がついている。キーウェストは魔法の地と3番までのヴァースで歌われる。

10.最も卑劣な殺人
17分におよぶ大作。タイトルの「Murder Most Foul」はシェークスピアのハムレットの中のフレーズから取られている。訥々と紡がれるディランのヴォーカルは、晩年の大傑作として語られることは確実な作品。

【本間孝男】
長年日本コロムビアで洋楽ディレクターを担当し、セックス・ピストルズの歴史的名盤に『勝手にしやがれ』という邦題を付けた。現在はハイレゾ配信事情をはじめ、世界の音楽産業に関する記事を執筆する。

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