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第92回アカデミー音響編集賞の実力はいかに

『フォードvsフェラーリ』の“クルマの音”はどれくらいリアル? カーマニアのAV評論家に聞いた

2020/05/02 構成:ファイルウェブ編集部
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フォードvsフェラーリ』のUltra HD Blu-rayが5月2日に発売する。2019年は『パラサイト』や『ジョーカー』をはじめ、多くの名作映画が公開された年だったが、そんななか、第92回アカデミー賞の音響編集賞を受賞したのが本作だ。

『フォードvsフェラーリ』4K UHD  6,000円+税 (発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン)

音響編集賞受賞作ともなれば、オーディオ&ビジュアルファン的にも注目すべきタイトルだろう。と、ここで一つの疑問が浮かんだ。音響にこだわっているとのことだが、クルマのサウンドはどれくらいリアルなのか、というものだ。

スポーツカーにおいてはエンジンなどの音も魅力の一つであり、カーマニアはエンジン音でどの車種かも判別できるというのはよく聞く話。言わばオーディオやAVとは別基軸で “耳の肥えたマニア” が多いジャンルだが、そういったマニア視点でも音響的に優れているのだろうか。

ファイルウェブでは多くの評論家の方々のお世話になっているが、この疑問をぶつけてみるのに、これ以上にないほど最適な方がひとりいる。オーディオ・AV評論家であり、自身もカーマニア、そしてフェラーリオーナーの土方久明氏だ。

土方氏の愛車「348Challenge」

ーー土方さんは『フォードvsフェラーリ』をご覧になりましたか?

土方:もちろん劇場で観ましたよ! 往年の名車がこれでもかというほど登場したりとマニア的にもたまらないですけど、映画としても非常に優れた作品でした!

ストーリーは実話に基づいていて、当時のフォードは巨人メーカーながら、大衆車が主力商品でスポーツカーは人気がなかったんです。その状況を打破するために、ル・マン24時間レース常勝のフェラーリを買収しようとするんですが、話がまとまる直前で流れてしまう。

そこで、フォードは伝説のレーシングカーと呼ばれる「GT40」を開発して、ル・マン24時間レースで絶対王者のフェラーリを倒すべく挑戦するんです。言ってみれば、優等生だけど目立たない良い子ちゃんが、クラスで目立っている不良グループに喧嘩を売るようなもの。まあ、フォードはただの良い子ちゃんではなく、超お金持ちの良い子ちゃんなんですけどね(笑)。

それも単純なフォードとフェラーリの対決構図なわけではなく、フォード内部からも横槍が降ってきたり、厄介な天の声が降り注いできたりと、クリスチャン・ベイルが演じる生粋のレース屋の主人公と大企業フォードが対立していたりするんです。マッド・デイモンも良い味を出しているし、クワイエット・プレイスという映画で評価を上げた、ノア・ジュープが息子のピーター役を努めてて、抜群の演技力でヒューマンドラマ的な場面でも視聴者を飽きさせない。だから単なる娯楽映画に収まらない面白さがありましたね。

ーー映画的にはとても高評価だったわけですね。今回は5.1.2chのドルビーアトモス環境を用意しましたので、アカデミー音響編集賞のクルマのサウンドはどれくらいリアルなのか、じっくり伺いたいと思います!

テレビはソニーの“ブラビア”「KJ-65X8550H」、AVアンプにはデノンの「AVR-X2600H」を使用して、5.1.2chアトモスの4K環境を構築した

『フォードvsフェラーリ』の車の音はどれくらいリアル?

ーー開幕からレースシーンですが、どうですか?

土方:開始一分でもう最高ですよね(笑)。このシーンとは違いますが、作中で登場するフォードGT40のエンジンはV8で、地を這うような図太い音、それに対してフェラーリはV12で甲高い音がするのです。調べた限りは、実写のエンジン音を採用したか分かりませんでしたが、それでもエンジン音の違いはしっかり出していました。

実際のレーシングカーの音って、体感したことがない人がイメージするであろう音の100倍くらいの爆音なんですよ。そういうところも含めて徹底的にリアリティを追求しているので、例えば同じスポーツカーを使うアクション映画で僕が大好きな『ワイルドスピード』よりも派手かもしれない。

でも爆音だけではなくて、例えば車内に充満するエンジンのノイズ音であったり、シフトチェンジみたいな細かい音までリアルに作り込まれているので、実際のマシンに乗っている感が半端ではないですね!

あと、僕はカートのレースでシリーズチャンプを獲ったり、レース関係者に知り合いが多くてサーキットにも出向いていたこともあるので、レーサーの感覚も多少はわかるんですが、例えば、他の車が200キロ超えのスピードで真横を過ぎ去る時の音の前後の移動感なんて、もう本物そっくりなんです! サーキット場の場面で聞こえる音も現場さながらですし、サラウンドが相当綿密にデザインされていることが分かりますよ。

ーーカーマニア、そしてレーサーのどちらの観点から見てもリアルなサウンドなんですね。

土方:もちろん車以外の音響もとてもよく出来ています。個人的に感動したのが、序盤のフォード会長であるフォード2世が工場で演説するシーン。フォード2世の声に少しタイム間の遅いエコーがかかることで、フォードの工場がいかに大きいのか、フォードという会社がいかに強大なのかが見てる側に一発で伝わってくるんです。

一方で、シリアスなシーンなどでは、小レベルの音の再現性もしっかりと出しています。オーディオ的に考えるならダイナミックレンジが高い。フェラーリ会長のエンツォ・フェラーリとフォード重役の交渉シーンなどは、静かな室内の中でセリフは明瞭に聞こえるので緊張感が一層伝わってきますね。

ちなみにこのチャプターではフェラーリのファクトリーも登場しますけど、そこには「P3/4」というフォードGT40のライバル車や250系の伝説のフェラーリがずらっと並んでで、それらが本物だとしたら合計100億円くらいすると思います。監督は「出てくる車は全部本物で、レプリカ作るより実機走らせる方が手っ取り早い」とインタビューで語っているんですが、P3/4始め全部の車が本物だとしたら、とんでもない事です。

ーーそれって用意できるものなんですか!?

土方:実際、こういう映画に使われたとなると価値が一気に上がりますので、ビンテージカーのコレクターが所有する車を貸し出すケース自体は結構あるんです。そういう意味では全部実機というのも不可能ではないですが、いずれにしても大変なことですよね(笑)。

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