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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 【第236回】

“数十年” 使えるヘッドホン誕生! 約3万円で買える基準機、ソニー「MDR-M1ST」レビュー

2019/08/24 高橋 敦
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逆にMDR-CD900STとの強い共通点として挙げておきたいのは、音との距離感の近さ。音像もMDR-1AM2と比べ全体にやや大柄で、一歩前で聴いているような印象となる。これは、音楽制作のモニターシステムにおけるヘッドホンの役割に合わせた音作りだろう。

例えばミュージシャンが演奏時のモニターとして使う際には、特に近い音が好まれがちだという。エンジニアの場合も、全体のバランスを確認しながらの作業で俯瞰的な把握が必要なら、そこは主にはモニタースピーカーの出番となるだろう。対してモニターヘッドホンが特に活躍するのは、録音やミックスにおいて楽器個々の音に一点集中して処理する必要がある時。例えばピッチ補正の微調整といった場合。そういった場面では、そのひとつの音をマクロ接写的に見られるような、近い距離感の聴こえ方が求められる。

MDR-CD900STと同じくMDR-M1STも、そういったニーズに応えてこの距離感にチューニングされているのだろう。とはいえ、音抜けやキレにも優れているため、大柄で近い音像がその場に余計に滞留してしまうことはない。なので音が混雑して窮屈になることもなく、空間表現も十分確保されている。リスニング用としても全く問題ない。

オーディオファンにとっても今後長らくのリファレンスになり得る名機

というわけで改めてMDR-M1STのサウンドをまとめると、三大ポイントはこれだ!
◇MDR-1AM2から継承の巧みな低音表現!
◇MDR-CD900STに通じる接写的な距離感!
◇それらに加えて素晴らしく心地よいナチュラルさ!


音楽ファンのリスニング向けとしても問題ない汎用性を備えつつ、モニター機ならではの聴こえ方も備えている。そのモニター機ならでの部分は、リスニングユーザーにとって新鮮な魅力にもなり得るだろう。

また感度やインピーダンスは、現代的に作ったら自然とそうなっただけかもしれないが、CD900STよりもかなり高感度&低インピーダンス。一般的なポータブルプレーヤーとの組み合わせでも余裕で音量を確保でき、ポータブル使用も十分に現実的だ。

そして、サウンドや使い勝手の面で普通におすすめできることに加えて、このモデルにはもうひとつ大きな魅力がある。前述のように、プロの道具としての十年単位での継続、補修パーツ供給が見込まれているのだ。

コンシューマー向けのオーディオアイテムだと、例外もあるにはあるが、多くのモデルは長くて数年、短ければ一年で後継モデルが登場して型落ちになったりする。

対してMDR-M1STは、MDR-CD900STがそれを実証しているように、容易に古びることなく圧倒的に長く付き合っていけるモデルになってくれるはず。それは長期的なコストパフォーマンスという観点での優位にもなるし、今後に他のヘッドホンを検討する際にも、長らく揺るがないリファレンスとしての役割を期待できる。

そういった「不変」にして「普遍」のヘッドホンを一台確保しておくことは、オーディオ趣味において実に有意義なことではないだろうか。MDR-M1STならばその役割を見事に果たしてくれることだろう。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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