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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 【第236回】

“数十年” 使えるヘッドホン誕生! 約3万円で買える基準機、ソニー「MDR-M1ST」レビュー

2019/08/24 高橋 敦
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MDR-1Aシリーズと共通し、900STからは進化となる機構面のポイントとしては「着脱式ケーブルの採用」も大きい。業務機なので基本的には、耐久性と補修性の向上が主な目的だ。ケーブルにおいて最も破損しやすい付け根部分を、スクリューロック式の頑丈な着脱機構に置き換えることで耐久性をアップ。そして着脱式なのでケーブルのどこかが破損した場合にも迅速に交換可能!というわけだ。

耐久性高そうなスクリューロック機構

標準付属ケーブルはスタジオユースに合わせた6.35mmプラグで長さ2.5mという仕様

もちろん、いわゆる「リケーブル」が可能になることの意義も大きい。業務用途であっても例えば、使いどころによっては標準付属ケーブルの2.5mという長さでは取り回しが不便で、もっと短いケーブルに交換したくなる場合もあるだろう。

オーディオファンとしてはケーブル交換による音質調整、バランス駆動対応などが可能になることは嬉しいはずだ。そしてこの部分の端子、MDR-1Aシリーズと同じく3.5mm/4極端子でピンアサインも共通。1A用に提供されているリケーブル製品はおおよそ流用可能だろう。

MDR-1AM2標準付属ケーブルも普通に挿さって使用可能

逆にM1STのケーブルは1AM2にはしっかり入らず音が出ない

スクリューロック式であることは、カスタマイズ要素としても面白いかもしれない。このロック機構を巧く用いれば、例えばハウジングと一体化するようなBluetoothレシーバーを合体増設することもできたりしないだろうか。

後述するが、このMDR-M1STは何十年も製造供給し続ける前提で開発されたモデル。となればカスタマイズのプラットフォームとしても有望なのではと思う。Bluetoothレシーバーは無理だとしても、サードパーティー製イヤーパッドなど各種カスタマイズパーツの充実も期待したい。

何十年単位の継続を前提とした設計

MDR-M1STは、数年でモデルチェンジされがちなコンシューマー製品とは異なり、MDR-CD900STと同じく今後何十年も変わらぬ定番として製造し続けていけるような設計になっている。「何十年も製造供給続ける前提で開発されたモデル」なのだ。

例えば振動板素材の選択。ソニーのコンシューマー向け現行ハイエンド機だと、MDR-1AM2とMDR-Z7M2はアルミニウムコートLCP振動板を採用。超ハイエンドのMDR-Z1Rは加えてドーム部に薄膜マグネシウムを採用。それらは振動板としてより理想に近い物性を備えているわけだが……

MDR-M1STは特段そのように特徴的な振動板素材の使用は謳っておらず、一般的なPET系樹脂素材を用いているようだ。特殊性のある素材や構造は、素材の長期的な入手性、一般的な設備で製造可能かなどの面で、この製品のコンセプトにそぐわないと判断されたためだろう。

これは振動板に限る話ではない。MDR-M1STは全体に、現代的ではあるが先進的ではありすぎない、無理のない設計で完成されている。そういった意味では、プロユースに向けた製品であるからこそ、技術面では現行ソニーヘッドホンの中でも特にオーソドックスなモデルと言えるかもしれない。

一方でその製造は、久々のハイエンドコンデンサマイク「C-100」でも話題となった、ソニーのプロ音響製品の製造を担当するソニー・太陽株式会社が担当している。MDR-M1STは、“オーソドックな設計を最高の熟練工が完璧な精度で組み上げる”という、実に贅沢な製品と言える。

その新世代スタジオモニターサウンドとは?

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