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音像の裏が見えるかのような立体的な表現力

AUDIO NOTE「Departure」レビュー。最先端SPも軽々駆動する、究極のEL34プッシュプルアンプ

公開日 2019/01/29 09:58 石原 俊
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分解能とエネルギー感を超高レベルで両立させる

試聴はオーディオ・ノートの代理店で、ハイエンド・ショップとしても著名な「SIS」で行った。プリアンプはオーディオ・ノートの「G-70」を、スピーカーはYG Acousticの「Sonja2.2」を用いた。

基本的にはEL34プッシュプルらしい素直な音である。しかしながら単に素直なだけではなく、オーディオ・ノートの製品らしいエレガントさがある。エネルギーバランスはやや細身なピラミッド型だ。真空管や出力トランスが想起させる帯域制限感は皆無。ハイエンド・スピーカーの代表格ともいえるYGを使っていることもあるのだが、周波数特性が極めてワイドレンジで、音場が広く、空間には一点の曇りもない。それでいて音像は薄くなく、一種のコクのようなものがあって、広くて清潔な空間の中を伸びやかに駆け巡る。この伸びやかさは、スピーカーの逆起電力を打ち消す出力トランスの「ご利益」であろう。

試聴はオーディオ・ノート製品の国内正規取り扱い販売店である(株)エス・アイ・エスにて実施。同店の営業時間は12:00~20:00で、定休日は日曜日、祝日。場所は〒113-0022 東京都文京区千駄木5-42-5で、問い合わせ先はTEL:03-3824-1139まで

音楽的にはヴィンテージ機的な楽曲・演奏への介入は希薄である。さりとて演奏の瑕疵を冷酷無残に暴き出すような無粋な振る舞いを積極的にするほうではなく、ミュージシャンの背中をそっと押しているような音楽の佇まいも確認できた。

ジャズは頭脳明晰なマッチョマン。分解能とエネルギー感が超高レベルで両立している。真空管アンプでは両者がトレードオフの関係にあるのが普通なのだが、本機はそうではない。ブラス楽器が大音量で鳴っていても、リズムセクションの動きを楽々と耳で追いかけることができる。

ヴォーカルは広大な音場にキュッと引き締まった音像が浮かび上がる。声の質感はあくまでも清楚で、脂っこさやオシロイ臭さのようなものはまったく感じられないのだが、これはスピーカーが変わると180度変化するかもしれない。それはともかく、音像の裏が見えるかのような立体的な表現には舌を巻いた。

クラシックはN響/ヤルヴィの「展覧会の絵」を聴いたのだが、通常の再生では聴き取ることができないディテールを連発したのには心底驚いた。また、解像度は極めて高く、管打楽器奏者の顔が見えるようなイリュージョンすら感じた。

現代最先端の高性能スピーカーを軽々とドライブ可能な本機は、究極のEL34プッシュプル機だといっても過言ではない。

(石原 俊)


<Specification>●基本構成:EL34 プッシュプル●定格出力:32W+32W @1kHz、1.5%THD●周波数特性:8Hz~100kHz (+0dB -2dB @ 1W) ●入力/インピーダンス:RCA、XLR(アンバランス)/約70kΩ●出力インピーダンス:4Ω、8Ω●残留ノイズ:0.5mV未満●真空管:EL34×4、12BH7×2、6072×2●消費電力:180W●外形寸法:438W×210H×383Dmm(突起部含まず)●質量:26.5kg●取り扱い:(株)オーディオ・ノート



※本記事は「季刊analog」62号所収記事を転載したものです。本誌の詳細および購入はこちらから。

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