HOME > レビュー > 日本でもブレーク間近? “基礎の基礎” からわかる「映像キャリブレーション」解説

キャリブレーションの第一人者が紹介

日本でもブレーク間近? “基礎の基礎” からわかる「映像キャリブレーション」解説

2018/08/13 鴻池賢三
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
映像装置におけるキャリブレーションの内容は?

冒頭で、商店の秤を例に挙げたが、映像装置ははるかに複雑だ。より短時間で最適化するには、どの項目をどう較正するのかが肝要で、これこそがノウハウと言える。

現在、民生用映像装置で標準的な較正項目とその効果を具体的に紹介しよう。

1.色温度・グレースケールトラッキング
グレースケールトラッキングという言葉は聞き慣れないと思うが、意訳すると「暗部から明部までの色温度」と言える。

まず色温度とは、映像の基本である「白」の色味を指し、単位はK(ケルビン)。白といっても「青味を帯びた白」(色温度が高い)や「赤味を帯びた白」(色温度が低い)など様々で、この基本となる白の色味は、白以外の色(RGBを除く中間色)にも影響する。

HDTV時代の規格である「BT.709」や4K時代の規格「BT.2020」では、この色温度がD65(6504K/正確にはCIE 1931 色空間座標で、x=0.31271, y=0.32902)と規定されており、これがキャリブレーションのターゲットになる。

グレーの色温度も同様である。白とグレーは「違う色」と考えられがちだが、実は無彩色(色の無い色)であって、輝度が違うだけ。輝度が100%の時は「白」と呼ばれ、その白を基準にして、相対的に輝度が低い「グレー」は、同じ色温度(x=0.31271, y=0.32902)であるべきだ。

映像装置のキャリブレーションでは、簡易なタイプではRGBのカット(輝度30%程度)やゲイン(輝度80%程度)の2点を調整する。ISFキャリブレーションに準拠したハイエンド製品では製品輝度が5%〜100%までを10段階から20段階程度のポイントで測定し、白を構成するRGBの量(RGBそれぞれのガンマ/EOTF)を整えることになる。

まとめると、「グレースケール」は言わばカラー映像の「土台」あるいは「背骨」とも言える項目で、画作りや好みとは無縁。キャリブレーションの基本中の基本と言える。


右側のグラフは、横軸が信号上の明るさ、縦軸が画面上の明るさを示している。下段がNG例。右グラフの通り、RGBのガンマが基準(点線)に沿わずバラバラの時は、左図のように無彩色であるはずのグレースケールに色がついてしまう。カラー映像もこの影響を受ける。 一般的なテレビ製品には、色温度の「詳細」などとして、赤矢印(カット/明るさが30%程度)と緑矢印(ゲイン/明るさが80%程度)の2ポイントで調整できる。 上段は、RGBガンマを整えたOK例。
【参考動画】CalMANでグレースケールを測定する様子


2.ガンマ・EOTF
ガンマに触れると話が複雑になるので、ここでは端的に、入力(信号)と出力(画面上の輝度)の関係と考えれば充分だ。特にHDR時代ではEOTF(Electro Optical Transfer Function/電気光伝達関数)、まさに「入力と出力の関係」が定義されている。HDR10映像信号はEOTFが「ST.2084」で規定されていて、10bit=1024段階を扱うことができ、コードバリュー(CV)値64(1024段階中の64)が黒の基準(輝度ゼロ)、ほかPQカーブに沿って絶対値で規定され、例えばCV712が897nits、CV724が1,011nits、CV1,019が10,000nitsといった具合だ。

基準に沿うという意味では、HDR10の場合は理論上、信号のCV値と画面上の輝度が一致していればOKとシンプルだ。

映像装置で入力と出力の関係が基準と異なるとすれば、「画作り」の要素が大きい。暗部を沈めて明部を飛ばし気味に調整すると、音でいう「ドンシャリ」的にメリハリが効いて素人受けするが、制作者の意図とは異なってしまう。例え、黒潰れや白飛びによる階調ロスが無くとも好ましくない。

映像装置のキャリブレーションでは、簡易なタイプでは、「ガンマ」を高・中・低や、2.4, 2.2, 2.0などから選ぶことになるが、そもそも数値で表記されていても、画面と一致することは稀であり、当てにならないのが実情だ。

ISFキャリブレーションに準拠した製品では、上述の「グレースケールトラッキング」を10〜20ポイント程度で調整することにより、ガンマ・EOTFも同時に整えることができる。

ちなみに記事執筆時点で、プロジェクターでは1,000nits表示が不可能であること、OLEDではピーク輝度が1,000nitsに満たない製品が存在すること、また、作品はMaxCLLが4,000nitsなどと民生用映像機器の限界を超えるケースも多い。こういった理由から、ST.2084に沿って理論通りにキャリブレーションを行うことは不可能である。

ではどうするのか? メーカーは各モデルで画作りも含めたEOTFを設定していて、それがキャリブレーションのターゲットになる。キャリブレーションに対応しているモデルについては、メーカーがCV値と画面輝度の関係を公開し、実際、ユーザーはそうした情報がプリセット搭載されたソフトウェアを用いてキャリブレーションを行うことになる。


右列は入力(信号)と出力(画面上の輝度)の関係が適正で、制作者の意図した自然な明暗およびコントラストで表示できる例。 左列は、基準から外れた不適な例。暗部が黒潰れ、明部が白飛びするのは典型的な悪例。
3.色(色域・CMS)
上述のグレースケールトラッキングとガンマ・EOTFは、映像の基本と言える「白黒」に関わる項目だったが、これと対になる要素が「色」のキャリブレーションである。

具体的には、画面に測定対象の色を表示し、測定機で計測して、ズレがあれば補正(キャリブレーション)を行う。

いくつかの方法があるが、最も基本的なのはRGBCMY(赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエロー)の6ポイントで、それぞれの明度、色相、彩度の3軸で調整する。

HDTVではRec.709が基準。測定用のパターンは一般的に明度が70%(飽和がなく余裕がある)で、RGBCMYそれぞれに規定される色度点がターゲットになる。

ここで、測定と調整のポイントが6つで充分なのか?という疑問が湧いてくるかもしれない。メーカーがきちんと設計していることが前提で、この6つのポイントを押さえておけば、他の中間色もおおむね適正な範囲に収まると期待できる。言い換えると、少ない手数で、色表現を最適化する効率的な方法と言える。

一方、最新の映像装置では、3D-LUTによる中間色の独立調整が可能になったこと、パソコンとソフトウェアを用いたオートキャリブレーションにより、「手数」を気にせずに済むようになったことから、数十〜数百もの多ポイントで調整を行うのが現実的になり、この流れが加速しそうだ。ポイントが増えるほど測定に時間がかかるが、よりきめ細やかに、制作者の意図に沿った忠実な色表現が得られるのはメリットである。


画面にRGBCMY各色の測定用パターンを表示し、測定結果をチャートで可視化したもの。 左は、規格で定められた色度点(四角い枠がターゲット)に対し、実際の測定結果(各色の丸点)が外れている例。 キャリブレーションは、右チャートのように整えるのが理想。この場合、緑や赤の派手さが抑えられて基準に沿ったことが分かる。
【参考動画】CalMANでCMSを測定する様子


【参考動画】Y(黄)を手動でキャリブレーションする様子


ここでお気付きかもしれないが、キャリブレーションの対象は、測定が可能な「明暗」と「色」に限られることだ。

圧縮によるノイズやスケーリングによる変質、シャープネスなど、解像度面でのキャリブレーションは、映像装置が過多に人工物を作り出して付加しないよう、各種エンハンス機能をオフに設定するのが基本である。

次ページキャリブレーションに必要なものとは?

前へ 1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE