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キャリブレーションの第一人者が紹介

日本でもブレーク間近? “基礎の基礎” からわかる「映像キャリブレーション」解説

公開日 2018/08/13 07:00 鴻池賢三
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プロの現場や世界のマニアでは常識と言える「映像キャリブレーション」。日本でも本格的なキャリブレーションに対応したプロジェクターやテレビが徐々に増えており、2018年の秋にはブレークの予感大だ。この記事では、まだなじみが少ないであろう「映像キャリブレーション」について、基礎から分かりやすく解説する。キャリブレーションそのものや、対応製品への理解が深まれば幸いである。

そもそもキャリブレーションとは?

キャリブレーション(Calibration)とは、日本語の「較正」にあたる言葉で、測定機などの精度を正しい状態に整える作業を指す。身近な例としては、商店の秤を想像すると理解しやすい。正確に計量できなければ公平な取引はできないし、少なくとも「0」(ゼロ)が合っていなければ、客は不信感を抱くだろう。つまり、キャリブレーションとは特別なモノではなく、単純に「基準を守る」ものと考えれば良い。

では、映像装置におけるキャリブレーションとはどういったものだろうか?

入力した映像信号(明暗や色)が、その通り画面に表示されているかを確認し、ズレていれば正すという、これまた単純な話である。

ポストプロダクション工程でのカラーグレーディング(色調整)などプロの領域では、原則として、基準に沿ってキャリブレーションされたモニター、言い換えると、みんなが「正しい秤」を使って作業することで、「均質」を保証することができる。

ここで聞こえて来そうな疑問は、「一般的な映像装置は、入力した映像信号がそのまま表示されていないのか?」ということである。

答えはかんたん。電器店のテレビ売り場に数十並んだ映像をざっと見渡すと、同じコンテンツを表示しながらも、少なく無い色味の違いに気づくはずだ。手近に試すなら、数人で集まってスマホで同じ写真を表示する、あるいはLINEやYouTubeアプリのアイコンを見比べても、色の違いに気付くはずだ。この時点で「どれが正しいか」は分からないが、「違い」が存在することが理解できれば、キャリブレーションに興味が湧くはずだ。

ズレが生じる主な要因は以下の通り:
●メーカーの画作り
 プロが用いる映像装置は測定器的な役割を果たすため、基準に沿ってキャリブレーションされている必要がある。
 一方、家庭では、視聴場所の明るさや照明の色などもバラバラなので、視覚の順応機能(自動補正)が働き、テレビが規格通りに映像を映し出すと、相対的に見え方が変わってしまい、制作者の意図から外れてしまったり、見映えしない映像になってしまう場合がある。こうした環境による影響を補正する画作りは決して悪ではなく、むしろ家庭用テレビには必要だ。
 また、他社製品よりも見映えをよくするために「味付け」競争があるのも事実。具体的には、色温度(映像の基本になる色味)を高め青味の強い映像にすると明るく爽やかに、ガンマ/EOTF(明暗の表現)を調整してコントラストが強くメリハリを、赤、緑、青などの「色」を強調することで、鮮やかに見せることができる。
 家庭用の映像装置は「味付け」が含まれている可能性があると心得よう。


●バラツキ
 近年の映像装置は、おおむね「シネマ」や「映画」といった映像モードを選択すると、メーカーの画作りを最小限にし、規格に近い表示を行う製品が多い。
 しかしながら、コストが限定的な製品の場合、構成する部品にはいくらかバラツキがある。また出荷前にはキャリブレーションが行われるが、こちらもコストが関係するので、精度には限界がある。
 家庭用の映像装置には「バラツキ」があると心得よう。

●経時変化(劣化)
 光源は消耗品で、使用すると劣化する。輝度低下に加え、色味も変化する。
 その度合は光源の種類によって異なるが、使っているうちに「経時変化」が生じていると心得よう。


ここで念押ししたいのは、キャリブレーションとはあくまでも「土台を整える」作業であり、メーカーの画作りや、ユーザー好みの調整と相反するものでは無いということだ。

家を建てることに例えると、地面を平らにならすのが「キャリブレーション」で、建物の形や色など好みで選ぶのが「調整」と考えると良いだろう。「キャリブレーション」は、施主の自由を制限するものではないのだ。

逆に土台が整っていなければ、どんなに良い設計やデザインの建築物も、意図通りに建たないこともご理解頂けるだろう。


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