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“特別な存在” サージェントの魅力も解説

『サージェント・ペパーズ』50周年記念盤は何がどう変わったのか? ハイレゾやBDなど全曲徹底解説

2017/05/26 大橋伸太郎
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第一章 「サージェント…」成り立ちと音楽上の意義

いよいよ本日5月26日、ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』発売50周年を記念したスペシャル記念エディション(公式サイト)が発売される。

『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年記念 2CD版

『アンソロジー』に始まるアップルのザ・ビートルズ関連のアーカイブは休みなく続いているが、仕立て直しのリプロダクトである『レット・イット・ビー ネイキッド』や『イエローサブマリン〜ソングトラック』は別として、バンドが現役時代にリリースした12作(注1)のオリジナルレギュラーアルバムの一枚が単独でアーカイブされたのは、今回の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が初である。

ザ・ビートルズは1963年にアルバムデビューし、1970年に解散したので「○×発売50周年」の題材なら毎年のようにあるわけだ。だが、記念すべきデビューアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』の時も、初の全曲オリジナル、主演映画公開が彼らを一躍全世界のアイドルに押し上げた『ア・ハード・デイズ・ナイト』も、日本で最も人気の高い不滅のバラードの宝庫『ラバー・ソウル』の時も、「発売50周年記念盤」はなかった。

サージェント・ペパーズはなぜ “別格” なのか

最初にして唯一の8トラック録音作『アビイ・ロード』や、数奇な運命を辿った『レット・イット・ビー』が16mmフィルム → 4Kデジタルスキャンの映画BDセットで発売されることは今後あるかもしれないが。なぜ『サージェント…』が別格なのか…。そこから考えてみよう。

『サージェント…』はペパー軍曹(巡査部長かも)率いる架空のバンドの一夜のショーを再現した音楽劇だ。ふとした会話からのポールの思いつきでアルバムの構想がスタートした。現代社会の事件や世相に題材を得たアクチュアルな曲(「シーズ・リーヴィング・ホーム」「グッド・モーニング・グッド・モーニング」)からミュージックホールの音楽を模したノスタルジックな「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」、前作の「ラブ・ユー・トゥー」に比べ、より本格的なインド音楽の「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」と曲想は様々だが、それらの奥にも「同時代感覚」が通奏低音的に鳴り響いていることが特徴だ。

曲間のブランクがほとんどなくクロスフェードも使いメドレー形式で演奏、タイトル曲のリプライズでペパーバンドが一旦退場、バンドの正体であるザ・ビートルズが姿を現し現代の不安や孤独を生々しく歌うシリアスなバラード「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」で全巻の幕。ジョージが学んだウパニシャッド哲学や当時世界を席巻していた実存主義の影響も感じられる。

本作は1966年12月6日にEMI第2スタジオで録音開始(「ホエン・アイム・シックスティーフォー」)(注2)、翌年4月3日当時の常識で考えられなかった約4カ月を費やして録音終了した。収録700時間は「プリーズ・プリーズ・ミー」のそれの実に318倍。4トラック(もちろんアナログ)録音。同月21日にノイズと会話の断片を入れて編集作業終了、同年6月1日に英国で発売された。

1970年代まで本作は「トータルアルバム」先駆作と表現された。現在はむしろ「メタ音楽劇」としてクローズアップされることが多い。

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