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【レビュー】パイオニア「SC-LX59」:音楽からドルビーアトモスまで高レベルに再生可能なAVアンプ

公開日 2015/12/09 14:50 山之内 正
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今までのAVアンプのイメージを一変させる音

まずはステレオ音源でSC-LX59のアンプ性能を確認した。BDプレーヤーのアナログ出力とHDMI出力、さらにUSBメモリー再生によるハイレゾ音源など、複数のメディアと再生スタイルでの検証から浮かび上がってきたのは、情報量やダイナミックレンジなど、アンプにとって肝心な基本性能に余裕があることで、A-70Aなど、同社のプリメインアンプの系譜につながる質感の高さがそなわっていることに感心させられた。ベースやピアノなど、振動源が重い楽器でも音の立ち上がりが遅れず、リズムやテンポの動きにもたつきがない。その優れた応答のおかげで、ヴォーカルや旋律楽器が引っかかりなくスムーズに伸びて、全体として開放的なサウンドを生む。ピアノ独奏やジャズヴォーカルを聴きながら、心地よさと同時に爽快感を味わうことができた。

S/Nのさらなる向上を実現する「低ESRカスタムコンデンサー」など、オーディオ専用の高品位パーツを搭載している

AVアンプの低音は量感と引き換えに動きが鈍いと感じている人には、ぜひ本機を含むSCシリーズの音を聴いてみることをお薦めする。それまで抱いてきたAVアンプのイメージが一変するはずだ。

筆者の記憶では、ダイレクト エナジーHDアンプを導入する以前のパイオニアのアンプは、ピュアオーディオ機とAVアンプの間の音の違いが比較的大きく、すぐに聴き分けられるほどはっきりした質感の違いを聴き取ることができた。その後、AVアンプの旗艦機にクラスDアンプを導入し、素子の変更や周辺回路の吟味を重ねるなかで、AVアンプの音質が着実に向上し、プリメインアンプとの差が急速に縮まっていく。そして、A-70がクラスDアンプを導入して以降、この数年は両者の違いが非常に小さくなり、音楽を聴くときにAVアンプかステレオアンプか、ほとんど意識することなく楽しめるようになってきた。


ドルビーアトモスも圧倒的な空間の広がり感を描き出す

ステレオ再生で感心させられた開放感と俊敏な応答性能は、映画の音響とも見事な相性の良さを示す。ドルビーアトモスの音源では、音場空間の絶対的な広さとともに、どの方向に注目しても密度が下がることなく、音が連続的に浸透していく感覚を実感することができた。音場に隙があると空間の広がりがぎこちなく感じ、大きさが伝わりにくいのだが、SC-LX59はその齟齬を感じさせない。さまざまなエフェクトの音色と動きを精密に再現するため、音響設計の意図が伝わりやすいことにも注目すべきだろう。『トランセンデンス』の瞬時に変化する空間描写、移動する効果音の精密な動きなど、聴きどころは枚挙にいとまがない。


通常の7.1ch再生でも見通しの良さと躍動感が両立し、場面ごとの緊張や動きをきめ細かく鳴らし分ける。『チャッピー』は一音一音がクリアに分離し、低音が刻むビートが緩まず、映像の細かいカット割が生むスピード感と見事にリンク。エフェクトの音色を正確に再現することで、作り物っぽい軽さではなく、実在感の高い生々しい音を繰り出してくる点にも感心させられた。今回組み合わせたELACもそうだが、音の立ち上がりが素直なスピーカーとの相性はとてもよく、低音から高音まで、動きのあるサウンドを引き出すことができた。

『ゼロ・グラビティ』では、ダイレクト エナジーHDアンプの長所の一つである全チャンネル同時出力のゆとりが伝わってくる。作品の導入では、ライアンが宇宙空間に放り出される場面を一つの頂点に、すべてのチャンネルを駆使して効果音と音楽が大きく回転する。そのシーケンスをかなりの大音量で再生しても、音圧感が天井を打ったり、飽和することがない。SC-LX59は9ch同軸同時出力で720Wという驚くべき性能を有しているが、視聴室の防音環境で実際に聴いてみると、その数値が伊達ではないことがよくわかる。そして、組み合わせるスピーカーのインピーダンスが4Ωと低めの場合でも、設定変更することなく、安心してドライブできることにも注目しておきたい。

   ◇   


シンプルなステレオ再生からオブジェクトベースの多チャンネル再生まで、一台のAVアンプがカバーする音源の種類はピュアオーディオとは比較にならないほど変化に富んでいる。その高い要求を満たすうえで、ダイレクト エナジーHDアンプは実に大きな役割を担っていることが、今回の試聴から浮かび上がってきた。中身を十分に追い込んだクラスDアンプは、確実な音質上の利点があり、多様なデジタル音源で真価を発揮するという好例だ。

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