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注目海外ブランド訪問記

カジュアルオーディオブランド「ケンブリッジオーディオ」「モダン・ショート」を山之内正が訪ねる

公開日 2010/12/09 09:00 レポート/山之内 正
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ケンブリッジオーディオ
バジェット・ハイファイを追求し、大きな成功を収めた

1970年代には独自の回路設計を導入した半導体アンプを開発し、「P40」「P50」「P110」などの製品で評価を確立する。さらに、アンプにとどまらず、スピーカーシステムやFMチューナーを開発することによって、自社ブランドだけでシステムを構築できる数少ないブランドに成長した。

1980年代に入ってCDが登場すると、世界初のセパレート型CDプレーヤーとしてCD1を完成させ、その技術は、16bit・4倍オーバーサンプリングを導入したDACを積む「CD2」に受け継がれていく。この時期、Pシリーズのアンプはレコード再生時のダイナミックレンジを改善する技術を搭載し、なかでも「P35」は今日に至るまで愛用者が存在するほどのベストセラーモデルになった。

ケンブリッジのパジェットシステムコンポ「System350」(¥OPEN・予想実売価格108,000円前後)

1990年代に同社はバジェット・ハイファイの新領域に挑戦し、大きな成功を収める。初代の「Dac Magic」が発売されたのもこの時期である。1996年に導入した「クラシックステレオ」シリーズの「A300」「D300」(CDプレーヤー)などが人気を博したが、直線を生かした意匠とシンプルな操作系を採用したデザインは、今日の視点で見ても古さを感じさせない。

その後2000年代を迎えると同時に現在のラインナップにつながる「Azurシリーズ」を導入し、特に「640シリーズ」と「840シリーズ」が大きな成功を収めた。

アナグラムとの協力関係で先端のデジタル技術を実現

現在のラインナップは、最上位の「Azur840」、ミドルクラスの「Azur650」、エントリーの「Azur350」で構成される。そのほか、D/Aコンバーターの「Dac Magic」や、ユニバーサルプレーヤーの「Azur650BD」など、デジタルオーディオ、映像メディアの領域にも意欲的に製品を投入していることは注目していいだろう。ピュアオーディオからスタートしながら、守備範囲を少しずつ広げ、新しい領域の拡大に積極的に取り組んでいるのだ。

「Azur840C」に搭載されている384kHz/24bitのアップサンプリング技術はスイスのアナグラム・テクノロジーズ社の技術を採用しており、そのニュースは大きな注目を集めた。アナグラムのデジタル技術はハイエンド機器での採用例が有名だが、Azurシリーズのような普及価格モデルへの搭載は例がなかったからだ。ケンブリッジオーディオとアナグラムは技術提携の関係を結んでおり、「ハイエンド技術をもっと身近に!」という思想を共有しているのだという。

技術開発部門を代表するマシュー・ブランブルによると、アナグラムとはインターネットを介して互いに連絡を取り合うようになり、技術提携に至ったのだという。両社の技術を融合させたアップサンプリング技術は非常に興味深い内容で、実際に音質面で大きな成果を上げているので、いずれあらためて技術の詳細を紹介することにしたい。

ケンブリッジオーディオの開発部隊はすべてロンドンに集中しており、約30名の技術者を擁している。一方、英国国内には生産設備を持たず、すべてアジアで生産を行っている点に特徴がある。ピュアオーディオ機器を比較的手頃な価格で販売できるのはそこに理由があるわけだが、生産現場との情報交換や品質管理システムは厳格にコントロールされている。本社のスタッフが頻繁に現地に出かけ、現場の状況をすべて把握しているのだ。

魅力的なネットオーディオの新製品群とminxシステム

ケンブリッジオーディオの新たな挑戦として、ネットワークオーディオへの取り組みが挙げられる。その代表的な例が、日本にも導入される予定のネットワークオーディオプレーヤー「NP30」であり、iPodのデジタル出力を取り出す「iD100」である。

近々登場するだろうネットワークオーディオプレーヤー「NP30」

NP30はケンブリッジオーディオの最初のネットワークオーディオプレーヤーで、UPnP規格に準拠したサーバーから音楽ファイルを再生する機能を積み、ハイレゾリューション音源への対応も実現(WAVおよびFLAC、96kHz/24bitに対応)。さらにWi-Fi受信機能の内蔵、インターネットラジオとストリーミングサービスのサポートなど、コンパクトな筐体ながら、デジタルメディアをフルにサポートする多機能機に仕上がっている。iPhone用アプリを利用した直感的な操作も可能にしている。専用アプリが実際に動作している様子も見てきたが、既存の同様なソフトに比べてビジュアルが美しく、使い勝手もかなり期待できそうだ。

マシュー・ブランブルにネットワークオーディオのの可能性について尋ねてみると、「CDを上回るクオリティを実現できる可能性があると思います。特にジッターレス伝送には大きな可能性があり、音が良くなる理由があります」という答えが返ってきた。


マイクロシステム「minx」と筆者
日本のエンジニアと同様、デジタル伝送のジッター低減にはケンブリッジオーディオの技術者も強い関心を抱いているようだ。同社はBDとSACDに対応したユニバーサルプレーヤーを開発しており、HDMI伝送の音質改善にも真剣に取り組んでいる。

前述のiD100、NP30に加え、今後同社から登場する新製品のなかには、ユニークなコンセプトのスピーカーシステムが含まれている。「minx(ミンクス)」と呼ばれるサテライトスピーカーとサブウーファーを組み合わせたシステムだが、最大の特徴はサテライトスピーカーのユニット構造にある。平面振動板をアクチュエーターで駆動するNXT社の技術を投入し、独自に開発したBMRと呼ばれるユニットを積んでいるのだ。指向性が非常に広く、音圧にも余裕があるため、ステレオとホームシアターの両方の用途をカバーできる可能性を秘めている。再生音はダイナミックな鳴りっぷりの良さと優れたバランスが両立し、サイズを忘れさせるエネルギー感を堪能することができた。

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