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HD動画も再生可能

ポータブルメディアプレーヤー“第3の選択肢”を探せ − COWON「V5」の実力とは

公開日 2010/04/23 10:00 高橋 敦
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■FLACも再生可能 − 対応音声ファイルも映像と同じく非常に多彩

続いてV5の、オーディオプレーヤーとしての実力に迫ってみよう。

まず動画と同じく音声でも対応ファイルは非常に幅広い。MP3やWMA、WAVへの対応は当然のことながら、Ogg Vorbis、FLAC、APE(Monkey's Audio)、WavPackの再生も行える。

APEとWavPackはマニア筋に定評あるロスレス圧縮形式だ。PCでの音楽ファイル管理に早くから取り組んでいる方だと、これらの形式を利用している場合もあるだろう。携帯プレーヤーでの対応例は少ないので本機は希少な存在だ。

FLACは最近、高音質音楽配信での採用例が増えてメジャー感を増しているロスレス形式だが、iPodとウォークマンはFLACの再生が行えない。本機もさすがに96kHz/24bitファイルの再生までには対応しないが、CDからのリッピングをFLACに統一している、またはこれから統一したいという意向を持っているユーザーには魅力的だろう。

右側面にボリュームスイッチを備える

音楽を再生しながらファイルブラウズを行い、目当ての楽曲を探し出すことも可能

■音質プリセットは35種類を用意、BBEやSTEも組み合わせて使用可能

二つ目のポイントとして挙げたいのは音質調整機能の充実だ。5バンドイコライザー、エンハンスやサラウンド処理を実現するBBE、ステレオ音場処理やリバーブ処理を実現するSTEを組み合わせて利用できる「JetEffect 3.0」を搭載している。

音質プリセットは35種類を用意。写真のように自分で設定値を調整することもできる

調整項目が非常に多岐に渡るため、ユーザー設定をいきなり使いこなすのは難しい。まずはプリセットを試していくのがよいだろう。プリセットは35個も用意されているので満足できるものを見つけ出せると思う。ただし、プリセットの内容を表示・変更できないのはやや残念だ。プリセットの数値を下敷きにしてユーザー設定を作成できれば、さらに好みの音に手早くたどり着けると思う。

ここで操作性についても言及しておこう。これについては改善の余地が残されている。本体横向きの両手持ちを前提に、画面の左右両側にボタンが配置されており、片手持ちでの操作は難しい。

また、楽曲へのアクセスは本機に転送したファイルのフォルダ階層をたどるファイルブラウザで行う。ミュージシャンの名前やジャンルなどのタグ情報を利用したブラウズを行えないのは少々残念だが、ファイル転送をドラッグ&ドロップで行えたり、PCで作成したフォルダ階層をそのまま利用できるのは便利だ。

タッチパネルは抵抗膜式で、指の腹で押しても反応しないこともある。ツメの先でつつくようにするとスムーズに操作できるだろう。若い女性でネイルアートなどに凝っている方は、iPod touchなどの静電容量方式だと操作しにくい。こういう方でも手軽に操作できるのは、抵抗膜式の利点とも言える。いずれにせよ操作性については慣れの問題も大きく、使い込めば使い込むだけ美点も多く感じられるようになるだろう。

■骨太の低音がサウンドの特長 − JetEffectの使いこなしが鍵を握る

では最後に、本機の音質についてテストした結果を報告する。付属イヤホンは一般的な(カナル型ではない)もので、音質的にはこのタイプの付属品としては標準的というレベルにとどまる。本体の音質をチェックするには少々力不足なので、以降のチェックは、筆者が聴き慣れているイヤホンおよびヘッドホンで行った。


BBEやSEの効果も事細かに調整することができる
まずはJetEffectを「ノーマル」にして試聴。骨太の低音が特長のイヤホンの持ち味を生かしつつ、低域を心持ち膨らます。ウッドベースは芯の強さを残しつつ肉厚を増すといった印象だ。緩い膨らみ方ではなく弾力もあり、心地よい重みと弾みを生んでいる。

ピアノの右手やシンバルは柔らかな音色で、耳に痛い成分は控えられる。ボーカルもしなやかに歌い、自然に届いてくる。中高域は落ち着きのある感触だ。ボリューム感のある低域に支えられ、安心して聴ける音場である。

次はプリセット「Jazz」を選択。するとベースはゴリッとした感触を増し、シンバルは明るさを増した。音場のコントラストがより鮮やかになった印象だ。高域の明るさは増しているのだが、耳に痛い鋭さはやはり感じられない。ここは本機の素の音色の特性なのだろう。

他のジャンルの曲とも組み合わせてみたが、おおよそ何にでも相性が良い好プリセットだ。他にはプリセット「Rock」も過剰な加工がなく使いやすかった。

逆に強烈なのは「BBE Mach3Bass」「X-Bass」という2つの低音重視プリセットだ。特に後者は、ベーシストだけが眼前に迫ってきて、その後ろにボーカルや他の楽器が並んでいるという光景になる。明らかに適正なバランスではないのだが、ここまで徹底してデフォルメされるといっそ気持ちがいい。あるいは地下鉄など特に騒音の多い環境、低音が控えめなイヤホンとの組み合わせでは、これが適正になる場合もあるだろう。

音質面ではJetEffectの使いこなしが満足度を左右するといっても過言ではないだろう。率直に言うと、JetEffectを一通り聴き比べてから、素の音に近いと思われる「Normal」プリセットに戻したら物足りなく感じた。

■iPodやウォークマンと比べた際の強みを実感できた

操作性にやや特徴がある個性的な製品ではあるものの、動画も含めて再生対応ファイル形式が豊富であることやJetEffectの高い効果など、iPodやウォークマンと比較した際の強みも確かに感じることができた。

動画についてはHDファイルを高画質に長時間再生したい方、音声についてはiTunesなどを用いずに音楽ファイルを自分でフォルダ管理していて、ファイル形式はFLACやAPE、WavPackを利用しているような方には、特にマッチする製品だ。ポータブルメディアプレーヤーでも個性を表現したい、という方はぜひ一度店頭で触ってみて欲しい。

(高橋 敦)

【執筆者プロフィール】
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。

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