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ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第74回

コンパクト・ハイエンドスマホに異変、「Xperia」と「Zenfone」が見せる変化とは

Gadget Gate
公開日 2023/09/14 12:15 佐野正弘
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かつて日本で高い人気を誇ってきた、コンパクトでハイエンドの性能を備えるスマートフォン。とりわけ都市部など、電車など公共交通による通勤が多い日本では、片手で使いやすいサイズ感と高い性能が、人気となるスマートフォンの条件とされていたことさえあったほどだ。

■コンパクトなハイエンドスマホの人気低迷。各メーカー戦略の変化



だが、ここ数年のうちにそうした状況は大きく変化した。コンパクトなハイエンドスマートフォンの人気は大幅に落ちており、いつの間にか他の国や地域と同様に、ハイエンドモデルには大画面を求める傾向が強まっている。大画面のスマートフォンは、それだけサイズも大きく片手では持ちづらい。にもかかわらずなぜ人気が高まっているのかというと、理由はスマートフォンで利用するコンテンツの変化にある。

サムスン電子のフラグシップ「Galaxy S23」シリーズの最上位モデル「Galaxy S23 Ultra」は、手が小さい人が片手で持つのは厳しいサイズである一方、画面サイズは6.8インチと非常に大きい

モバイル通信の進化によって、外出先でも高速大容量通信が利用できるようになったことから、スマートフォン上で利用するコンテンツも大容量通信を生かしたもの、具体的に言えば動画の人気が急速に高まった。とりわけ、5Gのサービスが開始したコロナ禍以降は、スマートフォンで動画を見るニーズが一層高まっており、スマートフォンにも持ちやすさよりも動画が見やすい大画面を重視する傾向が強まったのだ。

そのことを明確に示したのが、アップルの「iPhone 12」から「iPhone 13」のシリーズまで続いた「mini」モデルの不人気である。iPhone 12/13 miniはいずれも、画面サイズが5.42インチというコンパクトなボディながら、5Gによる通信が利用できるなど高い性能を備えることが特徴として打ち出されたが、大画面ニーズの高まりによって海外だけでなく日本でもあまり受け入れられず、不振が続いて「iPhone 14」シリーズからは姿を消している。

片手で持ちやすいコンパクトなiPhoneの「mini」シリーズは「iPhone 13」シリーズまで継続したが、世界的に不人気であったことから「iPhone 14」シリーズからは大画面化が図られている

コンパクト・ハイエンドモデルの不振を受け、従来この領域のモデルに力を入れてきたメーカーの戦略にも変化が出てきているようだ。その1つとなるのが、ソニーが9月1日に発表した「Xperia 5 V」である。

Xpeira 5シリーズといえば、同社のフラッグシップモデル「Xperia 1」シリーズの非常に高いカメラ性能などを、可能な限りコンパクトなボディに凝縮したコンパクト・ハイエンドモデルの象徴というべきモデルとして知られている。だが、その新機種となるXperia 5 Vを見ると従来にはない変化もいくつか見られる。

「Xperia 5」シリーズの最新モデル「Xperia 5 V」。コンパクトサイズで高い性能を持つ点は従来と変わっていないが、大きく変化した要素もいくつかある

その象徴がカメラだ。従来のXperia 5シリーズは、Xperia 1シリーズと同様、広角・超広角・望遠の3眼構成であったのに対し、Xperia 5 Vは望遠カメラがなくなり、広角・超広角の2眼構成となっているのだ。

もちろん広角カメラには、Xperia 1シリーズの最新機種「Xperia 1 V」で採用された、ソニーの最新イメージセンサー「Exmor T for mobile」を採用するなど、可能な限りXperia 1シリーズの性能を引き継ごうとしているのはたしかだ。だが、ソニー製スマートフォンの象徴でもあるカメラに大きな変更を加えたことは、Xperia 5シリーズの戦略に大きな変化が起きていることを明確に示しているといえよう。

前機種「Xperia 5 IV」(上)と比べたところ。Xperia 5 Vは望遠カメラがなくなり、カメラが2眼になっていることが分かる。Xperia 5シリーズの位置付けを大きく変える変化だ。ここ最近の円安によって、ハイエンドモデルの価格が高騰し、Xperia 1 Vも20万前後という非常に高額な値段となってしまっている。

そこでXperia 5 Vは、ディスプレイが小さい分、Xperia 1 Vより価格が安いことを特徴と捉え、カメラを減らすなどして従来より一層値段を引き下げることで、「ハイエンドモデルが高すぎて購入できないが、ミドルクラスでは性能的に不満」という人達の受け皿となるシリーズへと、位置付けを変えようとしているのだ。

実際メーカー各社はここ最近、ハイエンドとミドルクラスの中間というべきモデルの強化を進めている。シャープは、「AQUOS R8 Pro」の下位モデルとなる「AQUOS R8」を新たに用意しているほか、サムスン電子も「Galaxy S23」シリーズの下位モデル「Galaxy S23」に加え、その前機種「Galaxy S22」をキャンペーンで価格を引き下げて販売するなどしており、このクラスの端末の販売強化を図っている様子がうかがえる。

一方で、コンパクト・ハイエンドモデルの特徴を別の方向で生かそうとしているのが、エイスーステック・コンピューターの「Zenfone」シリーズだ。Zenfoneシリーズはこれまで様々なスタイルの機種を投入してきたが、ここ数年はコンパクト・ハイエンドであることに重点を置いたスマートフォンとなっている。

そのZenfoneシリーズが力を入れているのが、そのコンパクトさを生かしてアクションカメラのような使い方ができる点だ。実際、2022年発売の「Zenfone 9」では、カメラの1つにジンバルを内蔵し、手ブレに非常に強い仕組みを実現する「6軸ハイブリッドジンバルスタビライザー」を搭載。単体でブレの少ない動画を撮影できることをアピールしていた。

2022年発売の「Zenfone 9」は、背面カメラの1つにジンバルを内蔵。スマートフォン単体で撮影しても手ブレを大幅に抑え、コンパクトさを生かしアクションカメラのように活用できる点をアピールポイントの1つとしていた

そして9月8日に、日本で発売された新機種「Zenfone 10」では、その6軸ハイブリッドジンバルスタビライザーをさらに進化させ、新たにジャイロセンサーを使い動きを検知する「アダプティブEIS」という仕組みを追加。より手ブレを抑えることに力が注がれており、動画撮影関連の機能充実に一層重点を置くことで、生き残りを図ろうとしている様子を見て取ることができる。

2023年の新機種「Zenfone 10」は、コンパクトさはそのままに、手ブレ補正をさらに強化するなど、動画撮影に一層重点を置いている様子がうかがえる

Xperia 5 VとZenfone 10とで目指す方向性は大きく異なるが、共通しているのは、単なるコンパクト・ハイエンドモデルではもう市場で生き残れないという危機感があることだ。従来とは異なる戦略を打ち出すコンパクト・ハイエンドモデルが、今後も生き残ることができるかは、スマートフォンの進化の方向性を見据える上でも大きなポイントになってくるのではないだろうか。

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