Astell&Kern、新フラグシップDAP「A&ultima SP4000」。約2年半越しの進化点を先行体験してきた
アユートは、同社が取り扱うAstell&Kern(アステル アンド ケルン)ブランドから、新たなフラグシップDAPに位置づける「A&ultima SP4000」(以下、SP4000)を発表した。正式発表に先駆け、同社は本モデルの先行試聴会を開催。イヤホンの新製品「XIO(ジオ)」とあわせ、サウンドをひと足先に体験することができたので、レポートをお届けしたい。

約2年半ぶりのフラグシップは、ソフト/ハード両方を大幅刷新
SP4000は、2022年に発売された「A&ultima SP3000」(以下、SP3000)を約2年半ぶりに置き換える、Astell&Kernの新しいフラグシップモデル。国内発売はまもなくの予定で、価格は69万3000円前後が見込まれるという。

同ブランドからは、5月31日に「PD10」という44万円のDAPも発売されたばかりだが、そちらはまったく新しいデザインを採用したり、ホームオーディオに組み込むためのクレードルを同梱するなど新機軸を盛り込んだ、コンセプトを異にするモデルという位置づけだ。

SP4000のトピックのひとつが、“フルAndroid OS搭載” になったこと。Astell&KernのDAPは長い間、Androidをベースにしつつ大幅なカスタマイズを加えた独自システムを搭載しており、アプリの追加には制限があった。
しかし高音質な音楽ストリーミングサービスが次々に登場し、それを利用するユーザー数も増え続けていることを受け、ついに本モデルから一般的なAndroidスマホと同じようにGoogle Playストアからアプリを追加できるようになった格好だ(ただし、あらゆるアプリの正常動作が保証されているわけではないので、念のため)。


Androidの仕様であるサンプルレート変換(SRC)もしっかり対策しており、ハイレゾ/ロスレスストリーミングサービスアプリから再生しても余分な処理を挟むことなく、ありのまま再生できる。ちなみに上述したPD10も、今後フルAndroid OSにアップデートすることを検討中だそうだ。
回路設計もSP3000から刷新されており、DAC部は旭化成エレクトロニクスの「AK4191EQ」4基、「AK4499EX」4基を備える「オクタオーディオ回路」へと進化している。
SP3000では、デジタル信号処理専門チップのAK4191EQ 2基と、デジタル/アナログ変換専門チップのAK4499EX 4基を組み合わせた「ヘキサオーディオ回路」を採用し、デジタル処理とアナログ処理を分離することで大きくノイズを抑えていた。
しかし本来、AK4191EQとAK4499EXは1対1で組み合わせるもの。SP4000は設計技術の進歩により、本来のDAC構成をポータブル機器の基板で実現している。
増幅段のオペアンプも、SP3000の2倍の数を搭載。その上、直列ではなく並列配置することで、ノイズの量やS/Nはそのままに一層パワフルな出力を実現したという。Astell&Kernでは、これを車の四輪駆動にたとえている。
ただ、このオペアンプ並列配置はバッテリー消費も激しくなるため、SP4000では設定から「High Driving Mode」をオンにすることで全力を発揮するようになっている。High Driving Modeオフの状態も単なる省電力モードというわけではなく、音のクリーンさ、歪みの小ささではこちらのほうが優れているそうだ。
このほか新たに搭載した技術として「ESA(シグナルアラインメント強化)」が試聴会で紹介された。オーディオ信号が処理される時、周波数ごとにわずかなズレが生じてしまう「群遅延」の影響を抑える技術で、サウンドの明瞭さと純度を高めるものだという。
SP4000を手に持ってみると、SP3000を上回るずっしりとした感触に少しだけたじろぐ。それもそのはず、SP4000の質量は約615gとのことで、SP3000から120g近く増量している。寸法もひと回りほど大きく、ディスプレイも5.46型から6型に広くなっている。

その分、音質はSP3000のさらに上を行っている。記者手持ちのゼンハイザー「IE 600」バランス接続で試聴したところ、上下左右に広々とした音の広がり、音楽の各パートをはっきりと追える見通しのよさ、ぼやけた感じの一切ないキリッとした音の輪郭、すべてが心地よい。
特に印象に残ったのは低域の表現力。重心はとても低く、オーケストラの低音楽器の余韻が膨らんでから引いていくまでの変化が面白いように分かる。また、生音に限らず、ロックやポップスでも低音の響きがより豊かに感じられた。
High Driving Modeをオンにすると、この低音がさらに力強く、エネルギッシュに。全体的な音の輪郭もさらに研ぎ澄まされて、聴き手との距離を詰めてくるような “圧” が感じられた。単に音圧が高いとか、メリハリを強めに効かせているのとは一味違うこの迫力、一度は体験してみる価値があると思う。

64 Audioとのコラボイヤホン「XIO」
試聴会で同時に展示されたイヤホン「XIO」は、かねてからAstell&Kernがたびたび取り組んでいる、他のイヤホンブランドと共同開発したコラボレーションモデル。
今回コラボレーションしたブランドは64 Audioで、彼らのハイブリッド型イヤホン「Volur(ボリュール)」をベースにデザインやチューニングに手を加えた形となっている。国内では今夏ごろ、60万円台での販売が見込まれるとのこと。

ドライバー構成は、低域にダイナミック型2基、中域にBA型 6基、中高域にBA型 1基、高域に64 Audio独自のオープン型BA “tia” 1基の10ドライバー/ハイブリッド。
超高域のtiaドライバーや、耳内の空気圧を調節する「apexモジュール」など、64 Audioの技術が存分に活かされている。ベースモデルのVolurが採用していた、2基のダイナミックドライバーを連結駆動することでより上質な低域を再現する「トゥルーアイソバリック」構成も受け継いでいるようだ。
筐体素材はベースモデルから大きく変わり、ブラックDLCコーティングを施したステンレス合金を採用。あらかじめ装着されているapexモジュール「M15」も筐体と同じ仕上げが施されている。左右のフェイスプレートそれぞれにAstell&Kern/64 Audioのロゴが刻まれている。

こちらも記者手持ちのHiBy「RS2」で試聴すると、十分な遮音性を持ちながら圧迫感フリーの耳内に、クッキリめのサウンドが飛び込んでくる。
やはり特徴的なのは低音で、量感はやや多め、厚みと沈み込みはたっぷり。音楽のジャンルによるかもしれないが、濃厚な低音が好みという方は満足できるのではないだろうか。