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Auracastを導入した世界初「放送用 音声送り返し装置」も

<NHK TECH EXPO>放送局独自データを学習したLLM導入のスイッチングシステム

公開日 2025/05/26 20:55 編集部:長濱行太朗
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NHKは、放送・視聴者サービスを支える開発技術の取り組みを紹介する「NHK TECH EXPO 2025」(NHKテックエクスポ2025)を5月26日から28日の期間で開催する。展示会への入場は無料、事前予約なしで参加できる。本稿では、メディア向けの見学会で取材できた展示ブースを中心に紹介していく。

「電子メモツール」の展示では、放送制作現場において番組スタッフと出演者の情報共有の際に使用された「カンペ」をデジタル化して共有することが可能になる技術を紹介している。本技術は、メディア技術局 システムテクノロジーセンターと名古屋放送局が合同で開発。

「電子メモツール」の展示

従来まで、手書きのメモ紙を撮影現場で見せたり、ニュースセンターではメモ紙をカメラで撮影して、その画面を共有する手法を「カンペ」として用いていた。それを本ブースで紹介している「電子メモツール」に変更することでは、ペーパーレス化によるコスト削減、「カンペ」を制作する準備期間の短縮、制作スタッフ間での情報共有のしやすさに繋がると説明する。

従来の「カンペ」のテキストをデジタルで作成できるシステムであり、コスト削減や制作速度の改善に繋がるという
スポーツ中継をはじめ、選挙開票速報などで運用実績がある

併せて、従来の手書きの「カンペ」と比較して、書いてある内容の視認性、作成・編集作業の効率、伝達内容の表現も各段に向上するとアピール。また、「カンペ」の順番の変更や内容の追加・削除、複数の担当者による作成作業の分担・サポートも容易になるという。現在、番組台本データからの自動作成機能も開発中とのこと。

タブレットやディスプレイにカンペ内容が表示できるため視認性も著しく高めている
従来のカンペは事前に手書きで作成しており、番組内容によっては1000枚を超える文言を紙で作らないといけないという

メディア技術局 コンテンツテクノロジーセンターが開発する「ネットワークカメラ映像伝送BOX」では、災害などで迅速な撮影が求められる際に、持ち運びやすいキャリーケース型の映像伝送ボックスを展示。持ち運びしやすいだけでなく、設置が容易な点も特徴であり、通信手段や電源を喪失した環境においても、ロボットカメラを設置した撮影に対応できるという。

キャリーケース型の「ネットワークカメラ映像伝送BOX」
電源供給用のバッテリーボックス

災害などで定点撮影用に使用するカメラをロボットカメラ/PTZカメラ/IPカメラから選択でき、電源もAC電源/太陽光発電+大容量バッテリー/取材カメラ用バッテリーから選ぶことができるなど、幅広い撮影手段をカバーしている。映像伝送のネットワーク回線も衛星通信回線/LTE回線/光回線を使用できる。

災害時に定点用として使用されるロボットカメラを使用することができる
ロボットカメラのほかに、PTZカメラや簡易型IPカメラの選択も可能

NHKで運用中のモニタリングシステムへとダイレクトに映像伝送することも可能であるため、現在のニュース制作系統とも親和性が高いことも本技術を取り入れるメリットのひとつだとした。本システムの初期プロトタイプ「与那国空港カメラ」では、衛星通信回線を用いた映像伝送も検証しており、クラウドサービスによる信号監視も継続的に実施中とのこと。

与那国空港カメラで稼働中であり、会場でカメラ操作もできる

アナウンサー・送出担当の働き方改善、正確な選挙報道に貢献する技術として、「テレビ開票速報 自動読み上げシステム」も展示。本技術はメディア技術局 システムテクノロジーセンターが開発を手掛けている。テレビ開票速報向けの機能として、「選挙ディスプレイ作画装置(FACE)」と「投票数自動読み上げ装置」を連携させて送出可能としたことが大きな特徴だ。

「テレビ開票速報 自動読み上げシステム」
「選挙ディスプレイ作画装置(FACE)」と連携している

例えば、従来まで深夜帯のテレビ開票速報時には、実際にアナウンサーが原稿を読み上げ、送出担当者もリアルタイムで作業を行わなければいけなかったが、自動読み上げシステムに切り替えることで、アナウンサーや送出担当者の負担軽減、さらに開票速報データを迅速かつ正確に読み上げることが可能になる。

本システムは、選挙候補者の氏名、党名、投票数に関連する各桁の数字を事前に録音しておくことで、よりスムーズで自然な読み上げに繋がると解説していた。2024年の衆議院選挙に続き、2025年の参議院選挙の開票速報でも自動読み上げシステムを導入予定とのこと。演出担当者と連携を深めることで、さまざまな選挙用画面の読み上げに対応できるよう改修も図っているという。

立候補者の氏名や党名、票数、議席数、「比例代表で当選」といった文言の読み上げに対応する

生放送のトーク番組をAIによって最適にカメラスイッチングができる「AI自動スイッチングシステム『SWARTA』」の技術展示も公開。本システムはメディア技術局 コンテンツテクノロジーセンターとメディア総局 メディアイノベーションセンターが開発する。

「大規模言語モデル(LLM)」を採用した「AI自動スイッチングシステム『SWARTA』」

NHK放送技術研究所(技研)が「開発を進めている「大規模言語モデル(LLM)」によって、撮影カメラに写っているモノや被写体の内容と出演者の発話内容の一致度を判定し、データをスコア化して算出することで、そのスコアが最も高いカメラを自動で選択したスイッチングすることができるシステムだ。

「SWARTA」ではLLMを用いて関連性の高さをスコア化し、リアルタイムで自動カメラスイッチングが可能

本システムを活用することで、スイッチャーを管理する担当者を置かずとも、リアルタイムでトーク内容と関連性が高い映像を映すことができる。カメラの内容のスコア化もAIによって瞬時に判定可能なため、トーク内容が変わっても、その流れを追従したスイッチングに対応できるという。

「SWARTA」はスイッチャーの経験則や考えを基にしたルールベースのアルゴリズムを作成して、スコアを算出しているため、高精度なスイッチングが可能であることもアピールする。『第75回NHK紅白歌合戦ウラトークチャンネル』で採用実績があり、今後の導入にも注目を集めている。

展示では4台のカメラの映像が出演者の会話によって自動で切り替わっていくケースを紹介していた
番組内でカレーの話が出てくると、カレーを定点撮影していたカメラの映像に自然と切り替わった

NHKテクノロジーズからは「Bluetooth Auracast 放送用音声送り返し装置」を展示。Bluetooth Auracast規格を「放送用・音声送り返し装置」に導入したのは世界初の事例だという。

「Bluetooth Auracast 放送用音声送り返し装置」の展示。開発中のアプリも公開していた

音声モニタリングのワイヤレス規格としてBluetooth Auracastを用いることで、従来のBluetoothよりも低遅延である33ms以下での伝送、1つの音声送信から複数のデバイスに配信するマルチデバイス、約100mの広い伝搬距離を実現しているなど、多数の特徴を備えている。また、同時にスマホ・タブレットで受信内容を確認できるコントロールアプリも開発中とのこと。

低遅延をアピールしており、リップシンクテストも展示ブースを行っていた

利用者が無線免許を取得する必要ないため誰でも使用することができ、Bluetooth対応のイヤホン・ヘッドホンであればすぐに使用できる汎用性の高さもメリット。2026年度に米国や欧州で技適承認予定であり、OBS規定で使用する場合でも申請の必要がなくなるという。

Bluetooth Auracast対応の送信機

2026年に打ち上げを予定している、JAXAが中心となって開発を進めている「火星衛星探査計画(MMX)」に搭載されたカメラなども展示。「MMX」は世界初の火星衛星サンプルリターン計画で14種類のミッション機器を搭載しており、NHKは2式のSHVカメラ(スーパーハイビジョン)を開発し、火星やフォボスの地表などを高品位な映像で撮影できるよう計画している。

「MMX」に搭載された2式のカメラ。「MSC」が8K撮影、「SSC」が4K撮影に対応する

2式の宇宙用SHVカメラは8Kモデルと4Kモデルを用意。撮影した画像の確認やSHVカメラの状態を表示する地上系システム(PI-QL装置)も同ブースに展示されていた。また併せて、最新のCG動画で探査機の動き、ARコンテンツで実物大の探査機を体感できるとした。現在、着実に認証テストをクリアしていっているという。

PI-QL装置でSHVカメラからの映像を確認できる
SHVカメラでどのような映像を撮影するかCGで公開していた

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