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ブリスオーディオが送る究極のポータブル再生システム

<ヘッドフォン祭>250万円「冨嶽」超速報レビュー。「歯切れ良くパンチあるサウンド」

公開日 2024/04/27 19:09 佐々木喜洋
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専用アンプとイヤホンが一体になった究極システム「冨嶽 -FUGAKU-」



ブリスオーディオが超弩級のポータブルオーディオシステムを登場させた。その名は「冨嶽 -FUGAKU-」、国内最高峰の意味を込めて命名された製品だ。

イヤホンと専用ポータブルアンプによる再生システム「冨嶽」が初お披露目!

「FUGAKU」は専用イヤホンと専用アンプが一体となった究極のポータブルオーディオシステムだ。価格はオープンだが、参考価格は2,500,000円(税込)という前例のない価格となる。8月の出荷開始を予定している。

本日のヘッドフォン祭に先立ちプレス向けの試聴会が開催された。製品情報についてはブリスオーディオの製品ページとフジヤエービックのインビュー動画、および試聴の際のQ&Aを元にしている。

開発担当の黒川さん(左)と佐々木さん(右)

ブリスオーディオはハイエンドのケーブルメーカーとして知られているが、アンプ等を制作するようになった理由は、「音の入り口から出口までを完結して設計したい」という想いからとのことだ。これまでにポータブルアンプである「TSURANAGI」、そしてその進化系の「TSURANAGI-V2」を製作してきたが、さらに究極な製品としてフラグシップモデルである一体型の「FUGAKU」を誕生させた。「FUGAKU」では新規開発スタッフの参入によりイヤホンも含めた一体化が可能となり、システムとしてこれまでにない斬新なアプローチが行われている。

専用イヤホン部分は8つのドライバーを5ウェイ構成で搭載。超高域はxMEMS社製MEMSスピーカー1基、高域はKnowles社製BAドライバー2基、中域はKnowles社製BAドライバー2基、中低域はSonion社製BAドライバー1基、そして低域は8mm口径のダイナミックドライバー2基が採用されている。

8ドライバー5ウェイのユニットを搭載。耳掛け式でワイヤーは柔らかく耳の形に合わせてフィットできる

超高域はMEMSスピーカーの採用により100kHzを超える帯域特性を実現している。MEMSドライバーとはICのようにシリコンのダイから切り出す新しいシリコンタイプのドライバーで、チップに高い電圧をかけることで、その一部を動かすことで空気を動かして音を出すことができる技術だ。

開発では当初はESTを採用しようとしていたようだが、それをMEMSに変えたということだ。MEMSスピーカーは昇圧が必要となるが、昇圧アンプはxMEMSが提供するaptosではなく、電力の余裕を活かしてオリジナル回路を搭載している。これによってより高い性能が得られるという。

イヤホンのハウジングはPVDブラックコーティングの純チタン製筐体で、音導管一体設計がなされている。BAドライパーはシングルエンドだが、ダイナミックドライバーはアンプ側でバランス接続で駆動される。ダイナミックドライバーは2基による対抗配置が採用されている。

イヤホンをクリップ形式にしたのは、いわゆるShureがけだとケーブルが重いと引っ張られて位置がずれやすいので、その解決としてケーブルを下出しに設計して、その上をクリップで固定することで確実な装着ができるようにしたとのことだ。

ブリスオーディオの本領とも言えるイヤホンケーブルは、専用に設計された純銀導体採用16芯(片側8芯)ケーブルで、オリジナルの7ピン端子によって接続される。線材は「SHIROGANE」と同じ高純度純銀線材で少し細いものを採用しているとのこと。

クロスオーバーはアンプ側に組み込むアクティブ方式



専用ポータブルアンプ部分の大きな特徴は、左右で合計10chのアクティブクロスオーバー回路が搭載されていることだ。そのためイヤホン内部には従来のパッシブクロスオーバー回路はない。またアンプ出力はそれぞれのチャンネルに対応し、ダイナミックドライバーはバランス駆動なので全部で12chの出力系統がある。

アクティブクロスオーバーを内蔵する専用アンプ部。4.4mmと3.5mmのアナログ入力を搭載。出力は専用ケーブルとなる

従来のクロスオーバーはアンプからの信号をイヤホン側で抵抗などを組み合わせ、帯域別に最適な信号をドライバーに送るもので、パッシブクロスオーバーとも呼ばれる。アクティブクロスオーバーとは入力信号をアンプに入る前に周波数ごとに分割し、それぞれの周波数帯域を専用アンプユニットに送ったのちに別個の信号線で各ドライバーに送るものだ。

このようなアクティブクロスオーバー回路とマルチアンプを採用する利点はいくつかある。例えば1つのアンプで複数のドライバーを駆動すると、ドライバーを増やすほどインピーダンスが低くなり、アンプに対して負荷が高く歪みやすくなる。それを避けるとともに、周波数分割とマルチアンプ駆動により各ドライバに最適な帯域と電力が供給できる。結果としてドライバの性能を最大限に引き出せ、高解像度で歪みの少ない高音質が実現できる。

これはブリスオーディオによると、スピーカーの世界のマルチアンプ駆動とチャンネルディバイダーをポータブルヘッドホンアンプに応用したとのことだ。さらにパッシブクロスオーバー回路による損失がなく、かつドライバー間の干渉が少ないという利点もある。

会場に展示されていた開発用ボード。このサイズの基板がすべてポタアンサイズの筐体に詰め込まれている

一方で12chも出力系統があると、アナログボリュームではチャンネルのマッチングが取りにくくなり、いわゆるギャングエラーのような左右のミスマッチが発生しやすくなる。そこでFUGAKUではチャンネルマッチングしやすい電子ボリュームを搭載してギャングエラーのようなミスマッチを減らしている。電子ボリュームは高精度な「MUSES 72323」が搭載されている。

そして一体型システムとしてもメリットがある。それはアンプとドライバをカスタマイズして最適なマッチングが可能な点だ。このためにトリミング回路という部分を設けてイヤホンの個体ごとの特性のばらつきをアンプで吸収できるようにしたということだ。加えて12chにそったリレーなしでイヤホンを保護する新しい回路を採用、リレーを廃したので音質も向上したという。

筐体はフォージドカーボンとアルミリウムの組み合わせによる筐体で、4層基板(電源)と8層基板(アンプ)の2階構造となっている。フォージドカーボンはコストはかかるが美しく軽量で強靭な炭素繊維素材の一種で高級自動車などに使用されている。電池は約6時間の連続動作が可能とのこと。

AKのDAPと組み合わせて試聴。歯切れ良くパンチあるサウンド



「FUGAKU」は一体型の製品だが、DACは含まれていないのでユーザーはアナログ出力の可能なDAPなどを用意する必要がある。入力は4.4mmと3.5mmが可能だが、4.4mmの場合にはグランド接続が肝要なのでメーカーの対応表を確認すると良い。試聴においては対応表に載っているAstell&Kern「A&ultima SP3000」を使用した。

Astell&KernのDAPと組み合わせ。ブリスオーディオのバランスケーブルで接続する

接続ケーブルはブリスオーディオのケーブルを使用。このケーブルもSHIROGANEの線材を用いたもので高品質なケーブルだ。SP3000においてはラインアウトモードでバランス2Vの設定が推奨されている。

思ったよりも小型のボディは質感高く、ポータブルでの運用も実際に無理ではなさそうだ。イヤーピースはAZLA 「SednaEarfit XELASTEC II」が用いられている。

「FUGAKU」の音でまず感じるのはとても力強いということだ。イヤホンというよりもヘッドホンのような音圧があり、ぐいぐいと押し出して来るようなサウンドだ。パンチがあって歯切れ良く、かなりの迫力を感じる。楽器音の再現は細かな解像力が高いのはもちろんだが、豊かで厚みがある質感の高い音で上質なホームオーディオのようだ。このことからソースのSP3000の高品質な音が澱みなく伝わっていると言うことも言えるだろう。これもケーブルメーカーたるブリスオーディオの目指すところの一つかもしれない。

コスト度外視の製品とはよく言うが、ポータブルオーディオでここまで徹底的に考えうる限りの質と物量を投入した製品は珍しい。「FUGAKU」は高みを目指した開発者たちの情熱が感じられる製品と言えるだろう。

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