新音楽エンターテインメント技術

<IFA>正式発表は間近かも?ソニー「360 Reality Audio」を体験してきた

山本 敦
2019年09月07日
IFA2019に出展するソニーが、新しい音楽エンターテインメントの技術「360 Reality Audio」について、商用化に向けてブラッシュアップしたデモンストレーションを紹介していた。その内容を体験してきたので、ここにレポートしたいと思う。


今年のCESで初公開された360 Reality Audioは、オブジェクトベースで作られたサラウンド音源を、スマホなどのモバイル機器やスピーカーで豊かな没入感とともに楽しめる新しいサウンドエンターテインメントだ。技術の詳細についてはCES2019のレポートを参照してほしい。

CES時点のレポートでは、360 Reality Audioがスタート当初はスマホやタブレットなど、モバイル機器でストリーミング再生を楽しむ技術になるかもしれないと伝えた。IFAの時点でもまだ商用サービスの開始時期について明言はされなかったが、今回会場で筆者が体験できたデモはユーザーインターフェース、音源ともにかなり完成度が高かった。これは近いうちに360 Reality Audioの産声を聞くことができるのではないだろうか。

IFA会場では、360 Reality Audioのプロジェクトを担当するソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ(株)の岡崎真治氏にデモ体験の船頭を買って出ていただいた。また360 Reality Audioの音源を制作、または配信プラットフォームを提供するパートナーとの戦略的なアライアンス展開の現状については、同社のビジネスプロデューサーである川口元気氏に話を聞いている。

360 Reality Audioを担当するソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ(株)の岡崎真治氏(写真左)、川口元気氏(写真右)にインタビューした

今回の筆者の体験をシンプルにまとめると、「スマホで楽しむパターンの360 Reality Audioをベストコンディションで聴く」ことができたのだ。

ベストコンディションとは、360 Reality Audioは様々なスマホと一般的なヘッドホン・イヤホンの組み合わせで楽しめるサービスになる予定だが、さらに「ソニーのヘッドホン・イヤホン」を使った場合はさらに臨場感あふれる立体音響が体験できるのだ。

その流れをソニーの岡崎氏にあらためて解説していただいた。その前に大まかな流れを言ってしまうと、スマホで撮影したユーザーの耳画像をクラウドに送り、画像とヘッドホン・イヤホンの情報からユーザーの聴感特性を解析して、パーソナライズされたパラメータをスマホ側に戻すと360 Reality Audioの体験ステージが一段と高まるというものだ。

IFA会場に展示された360 Reality Audioのデモ機。Sony Headphones Connectアプリによる耳画像の撮影から体験できる

「ユーザーの耳画像を撮影する機能は、アップデートによりSony Headphones Connectアプリに追加を予定しています。スマホのインカメラを使ってご自身の耳の形状を撮影していただくと、アプリからクラウドサーバーに画像データが送られます。同時に使われているソニーのヘッドホン・イヤホンの情報も登録していただきます。するとしばらく経った後に、外耳の形状に影響を受ける音の反射を考慮に入れた、複数のスピーカーから鳴っている音をシミュレートした聴感特性のパラメータが導き出されます」(岡崎氏)

スマホを手に持って、インカメラで左右の耳画像を順番にセルフィで撮影するイメージだ

実際にはこのパラメータをDeezerやTIDALなど音楽配信プラットフォームが提供するモバイルアプリに読み込むことによって、それぞれのサービスから配信される予定の360 Reality Audioのコンテンツを再生したときにベストコンディションのサウンドに包まれるような体験が得られるというわけだ。

聴感特性のパラメータは一度アプリに読み込まれると、ユーザーが再度Headphones Connectアプリから “やり直し” をしない限りアプリの側に保存される。もしも例えば2台以上のスマホを所有していて、それぞれで同じ1台のソニーのヘッドホンを共有しながら360 Reality Audioのコンテンツを楽しみたい場合は、少し面倒になるが各スマホで耳画像データによる解析を行う必要がある。

デモンストレーションではアプリを使って左右交互に耳の写真を撮った。クラウドにデータを送って、膨大な耳データの中からユーザーのプロファイルに合うパターンをマッチングさせるために約30秒間のプロセッシングが必要だったが、長く退屈な感じはしなかった。

クラウドにデータを上げて、ユーザーの耳に近いプロファイルを取得するまでに30秒間程度かかる。通信環境によってかかる時間は変わる

今回パラメータは、IFAでのデモンストレーション用として特別に制作されたアプリに保存した。最初に360 Reality Audioと2chステレオ音源を同じ元ソースで比較できる音源を聴いてみると、音が頭の後ろ側を移動する際のリアルな定位感、広々とした音場のスケール感に思わず驚きの声をあげそうになった。

デモ用の楽曲は26作品も用意されていた。岡崎氏は「制作用アプリケーションソフトの<アーキテクト>を使うと360 Reality Audioの新規音源がミックスダウンできるだけでなく、既存の音源からも作り出すことができる」という。実際に今回のデモには既存の音源をベースに制作した360 Reality Audioの体験用トラックを多数聴くことができた。

デモに最適な26の作品が用意された

360 Reality Audioの音源に配置できるオブジェクト数は最大24個から、以下16個、10個となり、音源の製作者やプラットフォームを提供する事業者がこれを選択できるようになっている。転送ビットレートは最大約1.5Mbpsから最も軽い約640kbpsまで分かれている。

最大約1.5Mbpsと言えばロスレス音源のデータ量に匹敵する。今回視聴した最高品質の音源もやはり明らかに情報量が豊かだった。これほどまでに生々しいオブジェクトベースのサラウンド体験がスマホで手軽に味わえるのであれば、これはハイレゾとはまたひと味違う新しい「上質なモバイル音楽体験」になるだろう。

360 Reality Audioのローンチが今から待ち遠しい限りだ。川口氏によると、現在音楽コンテンツはソニー・ミュージックエンタテインメントやワーナーミュージック、ライブ・ネーション・エンタテインメントをパートナーとして着実に足場を固めている状況であるという。音楽配信のプラットフォームについてはCES2019で発表されたDeezer、TIDAL、Qobuz、nugs.netがパートナーとして名乗りを上げている。日本の音楽配信サービスが加わる可能性を川口氏に訊ねてみたが、現時点では「色々なパートナーにアプローチをしているところ」という段階で、まだ具体的な名前を聞くことはできなかった。

プロファイルを360 Reality Audioのコンテンツを提供するプラットフォームサービスのアプリに登録すると、立体感あふれるサウンドをソニーのヘッドホン・イヤホンで楽しめるようになる。岡崎氏は「ソニーの製品であれば普及価格帯からご利用いただけるようにしたい」と話している

会場ではWH-1000XM3でコンテンツを試聴した

360 Reality Audioのエンターテインメントが楽しめる音源はオープンで汎用性の高い「MPEG-H 3D Audio」というエンコード方式によりつくられる。同じMPEG-H 3D Audioのデコードに対応する機器であれば、「360 Reality Audioのため」につくられた製品でなくても、例えばゼンハイザーのサウンドバー「AMBEO Soundbar」でも聞くことができる。CESでソニーが発表した360 Reality Audioに対応する一体型スピーカーも開発は進んでいるようだ。

今回筆者がIFAで体験したデモが国内でも披露される機会はいつになるのだろうか。できればそれが「360 Reality Audioの正式ローンチ」と一緒に、今から遠くないタイミングで訪れてほしいと思う。デモの完成度がとても高かったことから、その日はもう案外間近に迫っているのかもしれないと感じた次第だ。

関連記事