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【開発者インタビュー】ソニーBDレコーダー最新モデル“Xシリーズ”の「高音質のヒミツ」にケースイが迫る

2008/09/17
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ソニーのBDレコーダーのラインアップが一新した。詳細は既報を参照していただくとして、今回はシリーズで注目すべきはフラッグシップモデル「Xシリーズ」の高音質技術の裏側に迫ってみたいと思う。


今回お話を伺ったオーディオ・ビデオ事業本部ビデオ事業部門システム設計部の桑原邦和氏
従来のXシリーズに比べて画質と音声回路を一新。ホームシアターでの利用を一番に考えたモデルになっている。ではその進化点はどこにあるのか、今回は本機の開発者にインタビューをおこなった。まずはオーディオ部分を担当したオーディオ・ビデオ事業本部 ビデオ事業部門 システム設計部の桑原邦和氏にお話を伺った。

今回取り上げるのは「BDZ-X100」と「BDZ-X95」の2機種。一部の機能は他の「Tシリーズ」、「Lシリーズ」にも搭載されているものなので、それぞれの内容についてはこちらの表を参考にしていただき、購入のガイドにして欲しい。


今回はBDZ-X95とTA-DA5300ESで視聴を行った
前述のようにXシリーズには数々の独自な回路やパーツが使われている。一般的にAV機器は基板やパーツ点数が多くなるほど、原価が上がるので、生産コストを抑えるために集積化が進む。普及パソコンのマザーボードのように、サウンドもグラフィックスもすべて1枚の基板に詰め込むというのが最近の流れだ。しかしソニーはこのXシリーズであえて部品点数を増やしている。ノイズ対策が必要だったアナログ時代に比べ、現在のデジタル時代にそこまでの設計が必要だったのだろうか?

━━新しいBDZ-Xシリーズは徹底した高音質設計がとられています。HDオーディオ時代にここまで手の込んだ設計が必要だったのでしょうか。

桑原氏:HDオーディオのデコードにはBDZ-X90の世代から対応しています。BDZ-X90の開発時にはAVアンプ「TA-DA5300ES」の設計陣と打ち合わせをしながら、当時としてはベストな状態でのHDオーディオの再生を実現しました。しかしその後もHDオーディオについて深く知るほどに、さらに高音質に出来る可能性があることがわかりました。とくにジッターの軽減は課題でした。


Xシリーズ専用の高画質・高音質基板を搭載
Xシリーズはホームシアターでの利用を考えた製品ですから、HDオーディオを最高のサウンドを楽しんでいただけるように開発しなければなりません。HDオーディオの音質を追求するほどに、ジッターの影響が気になるようになります。そのために今回はオーディオに関わる部分を根本的に見直し、独自のパーツや専用設計の基板などを搭載しています。見てのとおりシャーシから他のモデルとは違う構造になっています。もちろんフラッグシップモデルですから、ソニーの高級オーディオ“ES”シリーズのノウハウを注ぎ込んでいます。

※注:ジッター…デジタルオーディオでは、すべてのデータが「0」と「1」で記録されている。データの欠落があった場合は誤り訂正によって補正されるのだが、デジタルデータの記録や伝送によって発生する“デジタルデータの時間間隔のゆらぎ(=ジッター)”によって、音楽の波形に乱れが生じ、音質を劣化させる。

━━ではシャーシ部の違いを教えてください。

桑原氏:本体の剛性を上げるためにXシリーズ専用のシャーシを使っています。天板は厚さ4ミリのアルミの押し出し材です。これまでBDZシリーズの最高級モデルにはアルミ製の天板が使われていましたが、今回のモデルが最厚になります。ちなみに世界初のBDプレーヤーBDZ-S77の天板は3ミリでしたが、それよりも厚いですね。それだけでなく天板とサイドパネルは異なる素材を使い、二重構造にしました。異なる金属を貼り合わせることで、振動が軽減するからです。フロントには2ミリのアクリル板を配置し、リアパネルの素材の厚みもアップしました。シャーシ下部には前モデルでも採用した偏心インシュレーターを配置しています。これにより振動によるノイズ発生を抑えられます。

シリーズ最厚4oのアルミ天板!

アルミ天板の下にさらにパネルが


ビスの材質、配置にまでこだわって設計している

サイドパネルも二重構造になっている

リアパネルの厚さを増やして、剛性をアップさせた

━━ジッターはどのようにして低減されるのでしょうか。

桑原氏:新しいBDZシリーズには「HDMI出力 ジッター低減システム」として、複数の対策を施しました。X/L/Tのすべてのモデルで「HDMIトランスミッター」の設定値を見直し、時間方向の乱れを減らしました。これにより音の分解能と情報量が豊かになり、結果として声のディティール表現が改善されています。その他はXシリーズのみの改善点になります。

オーディオ回路にはローカルレギュレーターと大容量コンデンサーを搭載することで、信号の振幅方向の乱れを低減しました。振幅方向とは信号の幅(横方向)に対する乱れです。これを低減することで空間情報とスピーカー間のつながりが改善されたので、5.1chなどのサラウンド再生での広がりが増しました。最後に電源ラインとHDMI出力端子周りの回路を改善しています。電源ラインとHDMI出力端子に「HDMIノイズフィルター」を搭載することで、ケーブルを伝わってレコーダー本体に入ってくるノイズをカットしています。伝送時にノイズが入ってくると、SN感や高さ方向の音質が劣化しますが、HDMIフィルターにより、これらは改善されています。プロジェクターに接続する場合、数メートルのHDMIケーブルを接続することになります。ケーブルが長いほど、外部からのノイズを拾ってしまい、音声に悪影響が出ますので、プロジェクターを使う人には効果を実感していただけるはずです。ちなみにHDMI端子は2系統備えてあり、音質がよいのは「HDMI2」の方です。日ごろ使うテレビ向けにはHDMI1からの出力を使い、ホームシアターとして使うならHDMI2とAVアンプを接続して使って欲しいと考えています。

━━アナログ部分での高音質設計についてはいかがですか。

桑原氏:アナログ回路にも手を入れています。アナログ回路には、信号に含まれたジッターをDACの直前でカットする「ジッタエリミネーション回路」を搭載しました。信号系コンデンサとオペアンプのグレードも高めています。今回のアナログ回路には金メッキリードを使った音質SILMICコンデンサと、低ひずみ・低ノイズのオペアンプ「OPA2132」を採用しました。細かな改善点ですが、DACの駆動電源に余裕を持たせるためにコンデンサーの容量をアップして動作を安定させています。基板自体にもメスを入れています。ESシリーズで効果のあった「音質はんだ」を使って、パーツ類を実装しています。環境対策として鉛の入ったはんだが使えなくなりました。実は音質は有鉛はんだの方がよいのです。音質はんだは、無鉛ながら有鉛はんだに匹敵する高音質を実現しています。これはESシリーズで培ったノウハウです。この回路はパターンを手書きすることで専用ソフトで作成した基板よりも信号の流れがスムーズになり、音質をよくしています。

専用のアナログ回路を搭載する



また桑原氏によれば、通常は専用ソフトで描かれる基板のパターンについて、今回のモデルではアナログ回路の基板を、パターン職人が手書きしているという。このような開発者たちの高音質を実現するためのヒューマンなこだわりが活かされているのも、Xシリーズならではの魅力だと言えるだろう。

さらに電源部は基板の素材から見直したという。従来は安価な紙基板だったが、新しいXシリーズでは強度とノイズ軽減効果のあるガラスエポキシに素材を変更。電源基板のパターンは、銅箔の厚みを2倍にして電気抵抗を減らしている。さらに基板自体にレジスト処理を行なうことにより、ノイズの原因となる不要な静電容量が発生しづらくなっている。


基板の素材から見直したという電源部。左が新しいXシリーズの基板

ドライブ部に銅板を貼ることで振動による画質・音質の劣化を軽減。パネル内の至る所に銅板が貼ってあるのは圧巻だ。奥にはヒートシンクが見えるが、本体内の風の流れを利用して“静かに冷やす”設計になっている

HDD用の固定金具にも銅板が貼られている
微に入り細にわたり高音質への努力を積み重ねたBDZXシリーズ。実際にAVアンプの「TA-DA5300ES」に「BDZ-X95」と、旧モデルの「BDZ-X90」を接続してBDソフトをいくつか視聴したが、明らかに「BDZ-X95」の方が音質は格段によかった。こんなことを言ってはなんだが、筆者はメーカーでの視聴をあまり信用しないようにしている。メーカーでの視聴環境は、一般ユーザーのリスニングルームに比べれば環境が整いすぎている。各機材はそれぞれ完璧にチューンされているだろうし、設計したエンジニアに直接開発の苦労を聞かされたあとなら、プラセボ効果のように、普通の音もよく聴こえそうだ。

余談だが筆者が関わっている食関係の雑誌で、こんな実験をしたことがあったそうだ。舌に自信のあるモニター5人を集め、茹でたてのアスパラを2階に分けて出して食べてもらい、美味しいと感じた方を選ぶというテストだ。最初に「スーパーで買ってきたアスパラ」を食べさせ、次に「美味しいと言われる産地のアスパラ」を食べてもらった。結果は全員が後者を美味しいと言い、「香りがよかった」、「甘かった」などというコメントが寄せられた。しかし、このテストで使ったのはどちらも同じアスパラで、実は「スーパーで買ってきた美味しいと言われる産地のアスパラ」だったのだ。種明かしをしたあと、参加者はバツの悪そうな顔をしていたという。きっと、美味しいと言われる産地の名前が、本来の味を気分的に引き立てたのだろう。

メーカーの視聴室にはそんな雰囲気が漂っているような気にさせられるのだが、その分を割り引いても、BDZ-X95のサウンドは素晴らしかった。とくにサラウンドでは、空間表現が優れており、水平方向の広がりだけでなく、高さも感じられたのには驚いた。台詞や効果音の輪郭がシャープなので、音に立体感も感じられ、英語の台詞なのに単語が頭に入ってくる。映像だけでなく音にもこだわるホームシアターユーザーには、ぜひ視聴していただきたい仕上がりだと感じた。

ソニーでは今、レコーダーの開発を担当するビデオ事業部とオーディオ事業部が一本化されている。今回発売されるBDZ-X95、BDZ-X100は、事業部が合流した以前に開発されていただろうから、直接影響はないかもしれないが、今回、音響部分の開発チームは、同社のAVアンプの開発者と何度も意見交換をしながら高音質にこだわったという。その中でも印象に残ったのが“手書きパターン”の話だ。無機質に感じるデジタルの世界も、結局は職人技に頼って仕上げられていることを知り、技術者たちのぬくもりを感じることができた。今後も音に磨きをかけていたレコーダーという視点が活かされつづけて行くことを、楽しみにしたい。

筆者プロフィール
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら

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