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Woooを創った男たち[2]「ALISパネルのこれまでとこれから」

2006/09/12
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日立「Wooo」を語る上で、ALISパネルはいわばその代名詞とも言える存在。ハイビジョン時代到来を視野に入れ開発されたその優位性で、常に他社をリードしてきた。数々の課題に立ち向かってきたこの十数年、そのすべてを目の当たりにするのが94年からPDP開発に携わる石垣正治氏。市場開拓のマインドはさらにみなぎり、次代の主役の座も視界に捉える。

(この記事は、弊社「Senka21」2006年9月号所収記事を転載したものです)

■大きさとコストの課題を解消したALIS方式

―― まず、経歴からお聞かせください。

石垣 日立に入社した後、家電研究所に配属されました。現在は、ユビキタスプラットフォーム開発研究所という名称ですが、最初は、テレビのSAWフィルターの開発を行い、その後、ビデオディスクの開発を担当しました。4年ほど海外に赴任した後、94年からPDPに携わり、かれこれ12年になります。

富士通日立プラズマディスプレイ(株)開発設計本部 開発統括部 統括部長 石垣正治氏

―― この12年間で、一気にPDPのマーケットが立ち上がり、日立のテレビ事業もWoooというブランドでガラリと変わりました。

石垣 12年前と言えば、富士通さんが21インチのPDPのモニターを初めて製品化された頃です。PDPには大きな投資が必要となりますから、採算に乗せるためにはテレビのマーケットとして成立させていかなければならない。その意気込みで各社、取り組んで来ましたが、そのスピードといい、市場の拡大といい、ここまで来るとは想像もつきませんでした。

―― 日立は独自のALIS方式を採用されています。この方式にこだわられた理由はどこにありますか。

石垣 テレビという商品の将来に視線を向けるとハイビジョンがあります。また、皆がそうなることを願っています。それに対し、プラズマがどう応えられるのか。当初のプラズマはVGAクラスの画でした。縦480本に横640本、ワイドになっても横852本です。それでも確かにキレイに映りますが、ハイビジョンと呼ぶには垂直方向の画素が足りません。その課題解消が大きなテーマでした。

しかし、480本から、いきなり1000本の世界へ飛ぶことは至難の技です。私どもでも議論を戦わせる中で、ちょうど、開発部隊から姿が見えてきたのがこの「ALIS方式」でした。99年には富士通日立プラズマディスプレイという合弁会社を設立。その技術を用いて、新しいプラズマの世界を開いていく挑戦がスタートしました。

ALIS方式とは、Alternate Lighting of Surfaces Method、すなわち、「面発光を交互にやっていますよ」という意味になります。開発部隊の話では、ライン数が半分しかないのに画素密度は物凄い。非常に不思議だというところから、「不思議の国のアリス」とかけているという話も聞きます(笑)。ハイビジョン放送は1080本がインターレースで送られてきますが、それを何も加工せずにそのまま出すことができる、ハイビジョン放送にもっとも相応しい方式と言うことができます。

解像度に対し、垂直の画素数が半分のライン数でできますから、パネルを作る側からしてもやさしい。駆動する側からは、回路が半分のスキャンで済みますから軽くできる。構造的には、少ない電極の本数で大変に明るくできるため、開口率が非常に高いのが特長です。

従来の技術では、高精細にすると輝度をとれませんでした。しかし、ALISならギュっと画素を詰めても、明るくできる。高精細かつ明るいというわけです。デビュー以来、輝度では業界トップを快走してきました。特に03年くらいまでは独走状態でしたね。昨年の製品からは42V型で1,400cd/m2を実現しています。

さらに、画素構造的に映像が非常に滑らかだという特長があり、「シルキータッチ」と表現する人もいます。RGBの再現範囲もかなり広く取ってあり、セット側でも色を自在に操り、再現することができます。液晶に対しては当初からダントツの色再現性を備えていたわけです。また、蛍光体の有効利用ができますので、パネルの寿命の面からも、当初から長寿命化を実現できました。

―― ALIS方式が開口率を高くできる要因はどこにあるのでしょうか。

石垣 前面板と背面板に電極が並んでいます。その数は他社と変わりありませんが、ALISではその隙間をすべて発光光源として使うことができます。発光しない領域がなく、常に有効に全部を使えるので必然的に開口率が高くなり、明るくなります。また、1080本のハイビジョンの垂直画素に対し、常にシングルスキャンで対応できるため、パネル全体のモジュールコストを下げることもできるわけです。

―― 新しい方式ですから、いろいろご苦労もあったと思います。

石垣 もちろん、それまでの倍の画素をつくっていくわけですから、容易なことではありません。パネルづくりのむずかしさもありますし、画づくりも他社と違うことをどんどんやっていかなければならない。ただ、その頃は相手もほとんどなく、世界で唯一なのだからしんどいのも当たり前だという気概もありました。

―― そうした中で、42V型以上が当然というところに32V型が投入され、マーケットも大変驚かされました。

石垣 テレビですから、数量をかせがなければなりません。そのためには価格が重要な要素であり、50万円を切るというのはひとつのターゲットでした。そのためにも32V型は、値段からも、日本の家のサイズからも魅力的でした。

プラズマはサイズを小さくするとどんどん精細度が下がり、作ることも困難だし、一定以上の性能を維持することも大変になります。しかし、ALISはその点でも優位性がありました。もっとも、われわれパネルを作る側からすれば、正直、「32V型のパネルも作るのか」という気持ちもありました(笑)。しかし、このサイズがあったからこそ、PDPの市場がグンと伸びていったのだと思います。

―― プラズマテレビ市場をリードしていく上で、当時、一番の課題は何だったのですか。

石垣 数をつくれないことですね。商品投入に合わせて新しい工場も作りましたから、製品も新しい、工場も新しいということになってしまった。さらに、従来は42V型のパネルを1枚のマザーガラスから1つ取っていましたが、それを、1枚から2つ取る2枚取り、いわゆる多面取りの技術を導入しました。当時としては最先端を走っていましたので、新工場を立ち上げ、製品としても性能をきちんと出すために、明日納品する分の在庫があるかどうかというのが実情でした。

■フルHDパネル実現はコスト対比が最大課題

―― プラズマ市場をリードしていく中で、1080ALISパネルが投入され、市場からも注目を集めています。

石垣 垂直方向には早くから対応していましたので、1080にするかしないかは本当に決断だけでした。一番の課題は、水平画素をどう増やしていくかです。ご存じの通り、プラズマの場合はセルが小さくなると効率が落ち、輝度が落ちるという問題があります。そこを、同程度の輝度を出しながら、画素数を倍にしていかなければなりません。

まず、放電空間が凄く小さくなります。そこに効率よく発光させるために、細いリブを立てていかなければなりません。細くなり、数も倍になる上に、もちろん欠陥率も下げていかなければならない。さらに、そこへキレイに蛍光体を入れていくわけですが、そのためには、裏側の基板をどれだけ正確につくれるかが問われることになります。

―― 0.16mmのピッチですものね。

石垣 これくらい細くすると、画素はほとんど気にならなくなります。これまでは、RGBの中で青の輝度が相対的に低いために、パッと見たときに、人間の目には光っていないように見えることがありました。しかし、そういう感じもなくなります。

また、最近「多ビット化」という言葉をよく耳にされると思いますが、この点でも当社は常に先行しています。

1000本もの信号を受け、それを質を落とすことなくモジュールで処理するために、われわれは14ビット、9000シリーズでは16ビットでパネルを制御しています。コントラストを上げたり、ノイズを落としたりというときに、やはり作業空間が広くないとうまくできません。非常に高度な画質改善を実現しています。

しかも、パネルにとどまらず、送られてきた放送を、テレビセットで受け、信号をモジュールでもらって映し出す。その最初から最後の部分までがフルHDに対応した高画質技術で一本筋が通っていないとキレイな画になりません。チューナーから出てくる信号がいかにきちんとしているか、それに対しわれわれがどれだけきちんと対応できるか。その両方がないといけない。今回、フルHDの信号は、最初から最後まで手を入れ、大変キレイにしています。

―― 技術的に最先端を追求されてきましたが、当然、注目度の高いフルHDパネルに対する期待も高いと思います。

石垣 技術面はもちろんですが、やはり、コストをどう合わせられるかが今後の大きな課題になると思います。フルHDにしたときに、どのくらいのコストアップ、商品価値が付けられるのか。それに技術陣がどこまで応えられるかです。画素が倍になるわけですから、当然、パネルの歩留まりも落ち、回路数も倍になる。それに対し、売価をいくらに設定できるのか。液晶との対比ももちろんあります。そういうところも見ながら、できるだけ早い時期に実現していきたいと思います。

パネル作りのむずかしさや、効率をどのようにかせぐのかといった課題はありますが、それは、技術的には想定内のむずかしさです。むしろ、生産技術や設備も量産に対応できるものにすること。現在、製品として供給していくための体制作りに時間をかけているところです。

■人に優しいPDP、中心サイズは42V型


富士通日立プラズマディスプレイ(FHP)の宮崎工場「三番館」が06年10月から立ち上がる。生産能力も順次増強し、07年夏には全体で月産30万台を目指す
―― その点を含めて、宮崎の三番館の動向が注目を集めています。

石垣 三番館には新しい技術も導入されますし、サイズ展開も多様になり、もっと大きなフルHDパネルの生産ももちろん検討しています。

―― 二番館と三番館の最大の違いはどこになりますか。

石垣 ひとつは、パネルコストを含めた投資効率の改善です。マザーガラスのサイズを大きくして、その分、多面取りにより効率を上げていきます。個々のプロセスも、常に改良を行っています。もうひとつは環境対応です。水を再生して使うとか、電力効率を上げるとか、われわれが使っている材料に対する環境対応と、工場の排出するものに対する環境対応、それぞれに改善を行っていきます。

―― 三番館の生産規模はどのくらいになりますか。

石垣 今年の10月立ち上げ予定で、月産10万台でスタートします。現在の二番館を合わせて、倍の月産20万台の生産規模となります。

―― 御社はプラズマと液晶の両方を商品としてラインナップされていますが、プラズマの液晶に対する優位性についてはどのように見ていますか。

石垣 「人にやさしいPDP」というキャッチフレーズで、現在、PR活動を行っています。PDPは、画づくりにおいてブラウン管と同じ制御を行っています。ピークは500cd/m2で、人間の目で見ている総光量はあまり変わりません。ところが液晶は常に発光していますから、総光量がものすごく強くなり、長く見ていると疲れます。PDPは目にやさしい、人にやさしいテレビなんです。

応答性も、液晶はかなり改善されましたが、理想的な状態ではありません。特に画面が大きくなると、動く速度も大きく早くなりますから、違和感が出てくる。さきほど多ビット化の話をしましたが、液晶は10ビットです。プラズマはここでも常に2ビット分くらいの優位性を持っています。それはすなわち、階調の出し方に基本的なレベルが違いがあるということで、映像の奥行きや立体感で明らかに差が出てきます。

―― 「画面サイズ」も注目されますが、PDPでの今後の画面サイズの展開についてお聞かせください。


2007年に量産開始が予定されている42V型フルHDプラズマディスプレイパネルモジュール
石垣 放送がどんどんキレイになりますが、その差は大きなサイズほどよくわかります。われわれが42V型をメインに据えているのも、そうした点も含め、現在のマーケットの中心サイズであり、将来も中心になると考えているからです。50V型以上もどんどん増えてくると思いますが、42V型を押しのけてということではありません。ですから、フルHDも、42V型からアピールしていくのが一番いいのではないかという考えが背景にあります。

大きさに関しては、順次、工場ができる最大サイズまで大きくしていこうと思います。今度の三番館では85V型までできますから、それくらいまでは計画に乗せていきます。ただ、業務用は別にして、家庭用では60V型くらいが上限ではないでしょうか。それを超えるとかなり大きく、重くなります。60V型以上は米国のプロジェクションテレビ市場でも、数がぐっと減りますからね。

―― これから先、プラズマテレビの将来に対し、どのような希望、夢をお持ちですか。

石垣 値段がどんどん下がっていますから、これまでの作り方のままでは追従できない。最終的には、壁に掛かるくらい軽くて割れないものを作りたいですね。理想としてはガラス板ではなく、プラスチック板です。そのためには、耐熱性も高くしなければなりませんし、一番の課題は気密性です。水を通してはいけないし、ガスは抜けてもいけない。そういう絵は描いてみますが、なかなか直接手を出すフェーズまでは到達できませんね。

―― 実現はいつくらいでしょうか。

石垣 私が担当している間にはぜひ、実現させたいですね(笑)。

Profile
いしがき・まさじ●1951年1月7日生まれ。石川県出身。1975年4月(株)日立製作所家電研究所入社。弾性表面波(SAW)フィルターの開発、ビデオディスクの開発を担当。1989年11月から約4年間欧州勤務の後、1994年からPDPの開発に従事し、1999年7月より富士通日立プラズマディスプレイ(株)所属、現在に至る。趣味はオーディオ、軽飛行機操縦など。

バックナンバー
[1]「製品開発は無から有を生み出す夢の集団」

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