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キヤノン・東芝、05年から“究極の薄型ディスプレイ”「SED」を生産開始

2004/09/14
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●キヤノン(株)と(株)東芝は、2004年10月より次世代の薄型ディスプレイ「SED」パネルの開発、生産、販売を目的とした合弁会社を設立することで合意した。

「SED」は、Surface-conduction Electron-emitter Displayの略で、表面伝導型電子放出素子ディスプレイの意味。キヤノンが86年から研究を開始し、99年からは東芝と共同で実用化に向けた開発を行ってきた。

SEDの基本原理

基本原理

表示原理はブラウン管と同様、電子を蛍光体に衝突させて発光する自発光型で、ブラウン管の電子銃に相当する電子放出部が画素の数だけ設けられている。高輝度、高精細、高速応答性、高コントラスト、高い色再現性など画質に優れ、さらに消費電力に優れるという特性を備えている。

生産を行う合弁会社の名称は「SED株式会社」で、2004年10月に設立予定。事業内容はSEDパネルの開発、生産、販売で、代表取締役社長には現キヤノン取締役 SED開発本部長の鵜澤俊一氏が就任する見込み。資本金は設立時10億5万円で、キヤノンが50.002%、東芝が49.998%を保有する。

SED(株)の会社概要

合弁会社設立に至った背景

2005年の8月より、キヤノンの平塚事業所で50インチ級パネルの生産を開始する。月産は3,000台。その後、2007年より東芝の拠点で本格量産を開始する。月産15,000台からスタートし、同年中には月産75,000台まで引き上げる。キヤノン平塚事業所へは200億円、東芝の生産拠点へは1,800億円の投資を行う。

SEDパネル生産のロードマップ

実際の製品は05年度中に販売を開始する。開発と製造は東芝が担当し、キヤノンはOEM供給を受ける。

本日東京都内で行われた発表会には、キヤノン(株)代表取締役社長の御手洗富士夫氏、(株)東芝 代表執行役社長の岡村正氏が出席した。

握手する御手洗社長(左)と岡村社長

御手洗氏は、「1986年からSEDの研究を開始したが、キヤノンは独自路線を追求しすぎて、過去に苦しい失敗をした経験がある。パートナーが必要だと考えていたところ、当時の東芝社長だった西室氏から直接電話を頂き、共同開発することになった。1999年の6月14日に共同記者会見を開いたが、それから5年が経ってしまった。私は社内ではせっかちで通っているが、実は非常に我慢強いところもある。『スジの良い技術ならどれだけでも待つ』と思いながら、気になるものだから、開発を行っている平塚事業所には良く足を運んだ」と開発を振り返った。

今回の新会社設立について御手洗氏は、「東芝さんという最強のパートナーを得て、種まきしていたSEDがようやく蕾になった。プラズマ、液晶などの市場価格と伍していける価格を実現するため、東芝さんに協力して頂き、量産技術の確立に力を入れてきたが、今回それに目途がたったことから、新会社を設立した」と説明した。

また同氏は、「同じく平塚で研究していたバブルジェットも、1977年に特許を取ってから製品化までに20年近い歳月が必要だった。私の経験では、ものになるまでに時間がかかった技術ほど画期的で、市場に受け入れられる」とした上で、「キヤノンは、静止画の入力と出力デバイスは持っている。動画に関しては、入力はDVカメラがあるが、出力機器がなかった。ユビキタス時代では、様々な機器の中核にディスプレイがあり、情報を得る窓になる。どうしてもディスプレイが必要だった」と開発の背景を説明した。

東芝の岡村社長は、「日本でも地上波デジタルが本格的にスタートし、米国ではHDTVが普及のスピードを速めている。中国でも2008年にデジタル放送が始まる予定で、世界中でハイビジョンが普及し始める」と前置きした上で、「今回、SEDという究極の薄型ディスプレイを手にしたことで、大幅な売上げ拡大をねらう」と宣言した。

また同氏は、「90年代の後半、次世代ディスプレイの本命を選び、それに対して積極投資を行う必要に迫られた。弊社では、PDPではなくSEDを選択した」と語り、さらに「32インチまでは液晶、それ以上はSEDでやっていく」と戦略を説明した。

東芝は、量産技術に加え、画作りのノウハウなども提供したようで、岡村氏は今回東芝が提供した技術について「蛍光材料、真空度を高める技術、微細加工技術、シミュレーション技術など」と説明。「弊社では“映像の東芝”を認知させようという計画を進めており、SEDは弊社の映像技術と電子デバイス技術のシナジー効果を発揮できるテクノロジーだ」と語った。

合弁会社の概要とSED技術については、鵜澤氏が説明を行った。合弁会社のミッションとして同氏は「量産技術を実証し、SEDを早期に商品化し、世に送り出すこと」「PDPやLCDを凌駕する、豊かな映像表現力と低消費電力特性を実現した革新的な新世代ディスプレイでFPD市場におけるポジショニングを確立すること」の2点を挙げた。また、同氏はSEDの市場シェアについて「2010年時点でトップシェアをねらう」と語った。

合弁会社のミッション

SED(株)社長に就任予定の鵜澤氏

鵜澤氏は、SEDの特徴を「高画質、低消費電力」とし、画質については「10KVという高い電圧で電子を放出するので、非常に高輝度にできる。色表示については、CRTと同系列の蛍光体を使用するのでCRTと同等。応答速度も速く、キレの良い画を実現する」と述べた。また、消費電力については「ニュースなどの明るい映像ではPDPの約1/3、LCDの約2/3。映画などではそれぞれの1/2程度になる」と語った。

SEDとPDP、LCDの特性比較

SEDとPDP、LCDの消費電力比較

会場には、36インチの試作機が展示され、実際の映像を見ることができた。これについては別項で詳しくお伝えする。

以下、本発表会で行われた質疑応答の模様をすべてご紹介する。

量産技術に目途がついたので合弁会社を設立されたとのことだが、もう少し具体的に教えて欲しい
安定的に、かつLCDやPDPと伍していける低コストで生産が行える目途がついたということだ。製造装置の改良などを行った。

実際の製品はいつ頃、いくらくらいで販売されるか?
価格については、市場情勢によって変わるのでお答えしづらい。05年に生産を開始し、07年に量産を本格的にはじめる。

パネルは外販も行うのか?
キヤノン、東芝それぞれのブランドでテレビを販売するが、外販も行いたいと考えている。ただし供給は内部優先なので、当分外販する余裕はないのではないか。

0本格量産を東芝拠点で行うということだが、具体的にはどこか?海外生産もあるのか?
拠点は未定だ。海外生産はまったく考えていない。

パネルは両社が半分ずつ分け合うのか?
そうしたいと考えている。

本格量産を2007年に開始するとのことだが、いま現在も薄型テレビ市場は非常に盛り上がっている。スロースタートではないか?
全く気にしていない。うちはもともとスロースターター。自信を持っているし、十分やれると考えている(御手洗)。 04年度の薄型テレビ市場は150万台程度だが、2010年度にはその4〜5倍になっているはず。本格普及は06年度以降と考えているので心配はしていない(岡村)。

メインは50インチ級か? そのほかの30、40、60インチなどは?
まずは50インチ級を考えている。ほかのサイズについても当然生産を行う予定だ。

コストダウンやインフラ作りを考えると、他社にライセンス供与して、SEDのファミリー作りを考えた方が良いかと思うが?
良いパートナーが見つかれば協力していきたいと考えている。

2,000億円を投資するとのことだが、単年度黒字になるのはいつ頃か?
売上げは07年度に300億円、10年度に2,000億円を計画している。2010年の前に黒字を出し、累積損失も一掃したい。

製品の売り方は通常のテレビと同じようにやるのか?ソニー、松下などと競合するのか?
特別な売り方をするつもりはない。ソニー、松下に限らず、色々なコンペティターと競合することになるだろう。

2010年時点での生産数量とシェアは?
年間300万台、シェアとして20〜30%を獲得したい。

パテントの持ち方はどうなっているのか?
親会社が持っているもの、SED(株)が持っているものなど様々だ。

(Phile-web編集部・風間)

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