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携帯受信端末向け地上デジタル放送、2005年の開始に向け前進

2004/03/24
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左)本日の記者会見に列席した各氏 右)MPEG LAのチーフ・エグゼクティブ・オフィサー フタ氏
●NHKおよび在京民放テレビ局5社は、地上デジタルテレビ放送における携帯受信端末向けのサービスで使用する映像符号化技術に「AVC/H.264」を採用することを決め、必須特許を管理する団体であるMPEG LAとの基本合意に達したことを、本日行われた記者発表の場で明らかにした。

この決定により、今後放送事業局各社並びにMPEG LAでは、携帯端末向けサービスで利用するデータ放送などと併せ技術規格を策定しながら、携帯機器メーカーや通信事業者と連携を図り、2005年度中のサービス開始を実現すべく準備を進めていくという。

2003年12月にスタートした日本国内の地上デジタル放送サービスでは、すでにハイビジョン放送とともに携帯受信端末向け放送サービスを実施可能な仕組みとなっているが、現時点では携帯受信端末向けサービスで用いる映像符号化技術の特許問題のため実現の見通しがつかない状態だった。MPEG-4、MPEG-2をはじめとする各規格の特許を持つ団体であるMPEG LAと各放送事業者の間では、これまで特許使用料の交渉を積み重ねてきたが、このたび「AVC/H.264」の特許使用料として、放送局で使用するエンコーダー1台につき2,500米ドルを1回限り支払うというオプションの元で合意に達し、今回の採用が実現された。なお、この合意条件では「AVC/H.264」を無料地上テレビ放送、ケーブルや無料衛星放送に使用する範囲での契約となる。また開発途上国の放送事業者で「AVC/H.264」を採用する際には、それぞれの地域における様々な事情を考慮し、合意の際には特許使用料などについて「一層の考慮」がなされるものという条件が認められている。

「AVC/H.264」技術では、特に携帯受信端末向けサービスのように限られた容量で映像を放送する条件下において、従来通信などで採用されているMPEG-4に比べて高精細な映像を配信できるという。

本日の記者会見会場には、MPEG LAのバリン・スミオ・フタ氏のほか、日本放送協会から吉野武彦氏、榎並和雅氏、渡辺敏英氏、(株)東京放送から竹馬伸朗氏、前川英樹氏、日本テレビ放送網(株)から黒崎忠男氏、(株)テレビ朝日から斎田祐造氏、(株)フジテレビジョンから境政郎氏、関祥行氏、(株)テレビ東京から上田克己氏らが列席した。各氏からは、今回の歴史的な合意が実現できたことにより、今後のより高品位で便利な地上デジタルテレビ放送のサービス実現に加速が付くであろうと高い期待を顕わにしたコメントが寄せられた。

以下に本日の記者会見会場で行われた質疑応答の内容をご紹介する。

Q:放送事業者に対してはどの時点でライセンス料が課金されるのか。またエンコーダーの機械がこわれた際にはもう一回ライセンス料が請求されるのか
A:
<MPEG LAのコメント>機械が各放送局に設置され、利用が開始されたときに払ってもらうイメージだ。機械が壊れた時などは、使用開始からの期間を考慮した上で各放送事業者の方々と話し合いながら決めていきたい。

<放送事業者のコメント>
各放送局には通常、実際の放送にフル稼働する本機と予備機が設置されているものだ。我々はその各機器ごとに特許料は発生すと考えているし、支払うつもりだ。

Q:ライセンス料の総額について日本の放送事業社全体でどれくらいの額が発生するものと見込んでいるか
<民放事業者のコメント>
おおよそ「(日本国内の)民放局127社×機器台数×金額(2,500ドル)」の計算式で導き出される金額に匹敵するものになるだろう。今回合意したライセンス料の金額はローカル局でも負担可能と考えている。

<NHKのコメント>
NHKは地方局を含め100台近くの機器を使う。2,500万円〜3,000万円前後での金額を予想している。

Q:今回「AVC/H.264」技術のライセンス料支払いの手段として、番組を視聴するユーザーへの課金を見送った背景は
A:
<放送事業者のコメント>
ライセンス料の支払い方法については、視聴時間に応じて使用料を支払う方式はなじまないと考えた。我々放送事業者から、装置購入の一括払いとして対応していただきたいという要望に、無料放送での範囲において今回MPEG LAがこたえてくれたかたちだ。

Q:デジタルラジオの放送が昨今開始される中、「AVC/H.264」技術を簡易な動画放送サービスなどで用いたいという音声放送事業者からの要望にはどのようにこたえていく準備があるのか。また今回テレビの各事業者によって取り決められた枠組みについて、音声放送事業者がこの条件に同意できる場合には、簡単なサインなどの手続きを経て、ライセンスを取得した後に「AVC/H.264」によるサービスを開始することができるのか

A:
<MPEG LAのコメント>
今回発表したライセンスプログラムの趣旨は、今後できるだけ多くの事業者にライセンスを取得してもらい、ひろめてもらうことが目的だ。無料放送のカテゴリに当てはまるサービスをご検討されているなら、無論音声事業者の皆様もお客様として迎え入れることを積極的に検討したい。

<放送事業者のコメント>
各音声事業者の方々にも「AVC/H.264」技術の導入をご検討いただけるよう、2,500ドルという金額での合意を実現できたことは大きな意義があると考えている。今後さらに多様なデジタル放送のサービスを広げていくために、今回の私たちの合意が重要な意味をもっていると考えている。

Q:今回の合意がきっかけとなって、日本以外の地域でも「AVC/H.264」の導入が進んでいくと予想されているか
A:
<MPEG LAのコメント>
ヨーロッパの放送事業者ではすでに携帯端末向けのサービスが準備されつつある。ヨーロッパで「AVC/H.264」が導入される可能性は大いにあると思う。一方でアメリカでは「AVC/H.264」導入の目立った動きは今のところ見られない。私たちがライセンスを所有する、数ある映像符号化技術の中から、どの方式を選ぶのかはお客様が決めることだ。

<放送事業者のコメント>
ヨーロッパはドイツで「AVC/H.264」を採用したサービスを開始したいと言っているようだ。またヨーロッパ放送連合(EBU)も現在、MPEG LAと交渉を行っていると聞く。今回我々が取り決めたライセンス料の金額は、諸外国の放送事業者にも大きな影響を与えていくだろう。さらに今回の合意内容でも、発展途上国への配慮をしてくれるようにとの一文を盛り込んだ点は大きな意味があると実感している。

Q:今回は無料放送での合意とのことだが、NHKでは受信料と無料放送の解釈をどのように考えているか
A:
<NHKのコメント>
MPEG LAには私たちの放送を無料放送のカテゴリとして認知してもらい、今回の合意条件の枠組みの中に入れていただいた。


(Phile-web編集部)

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