finalだからこそ辿り着いた“歪みなきサウンド”。新旗艦イヤホン「A10000」開発の道のりを細尾社長に訊く

メンテナンス性を高め永く使えるイヤホンに。MMCX端子もこだわり満載

もうひとつ、上質な外観もA10000の特徴だ。筐体デザインはA8000と大きな変化は無いものの、フェースプレート部分には高級時計などに見られるコート・ド・ジュネーブ仕上げが採用されている。

「イヤホンのように小さな筐体の製品は塗装ひとつで音が変化してしまう場合があるため、そういった要素を無くすためにも、できるだけ“削ったまま”に近い製造を心がけました。とはいえ、見た目の高級感や上質さを意識しているのは確かですし、実際の製造も日本製の高級腕時計の製造する工場にご協力をいただいてます。

いっぽうで、ドライバーの取付や筐体の組み上げには今回ネジを使用しました。これは、メインテナンス性を高めるためで、これによって、いままでの接着を用いた製品よりも長い間愛用し続けていただける製品となりました」（細尾社長）

整備や修理はメーカーが行うことになる（精密な構造を持つ製品のためユーザー自らの修理は非推奨）が、それでも長い期間にわたって愛機を使い続けられることは嬉しいかぎり。そういった気遣いにも感謝したい。

ちなみに、付属する着脱式ケーブルも新しいものに進化している。外皮には新たに発泡テフロンを採用し、透明感のある、スノーホワイト的な色合いに仕上がっている。もちろん音質が最優先なのだろうが、フラッグシップモデルに相応しい美しい仕上がりだ。また、イヤホンとの接続部のMMCX端子も新タイプに進化したようで、国内製造という新型はガッチリ組み合って着脱に苦労するほど。製品には同社の「MMCXアシスト」が付属するが、単体では歯がたたないため専用の強化パーツも用意されていたりする。

「リケーブルは推奨していません。あくまでも交換用として外せるように設計しました」（細尾社長）

圧倒的な歪みのなさ。他に記憶がないサウンドを聴かせてくれるイヤホン

さて、実際のサウンドはいかなるものか。イヤーチップはfinal純正のFUSION-G（フォーム×シリコン）とTYPE E（シリコン）の2タイプが付属するが、今回FUSION-Gを使って試聴した。

一聴して驚いたのが、圧倒的な歪みのなさが生み出す音のリアルさ、空間的な広がりのスムーズさだ。これまで聴いてきたどんなイヤホンとも違う、超弩級のピュアオーディオ・スピーカーシステムで聴いているかのよう。全ての音が自然で意図的な高域の尖りはなく、それでいて圧倒的なリアルさを持ち合わせている。

おかげで、女性ヴォーカルはそれぞれの声の特徴がしっかりと伝わってくる。サラ・オレインは抜けのよい伸びやかな高音を楽しませてくれるし、ダイアナ・クラールは落ち着いた深みのある独特の歌声を味合わさせてくれる。

とはいえ、A10000最大の特長といえるのが、低域のクリアさ、歪みのなさだろう。フルオーケストラを聴くと、ヴァイオリンや金管楽器の艶やかさに目が奪われるいっぽうで、コントラバスの音色の深みや、ホール自体に鳴り響く音まで届き、全体が統一感のある纏まりの良い音に感じられる。指揮者がどんな演奏にまとめようとしているのかまで伝わってくる。

いっぽう、低域のクリアさは現代音楽とも相性がよい。米津玄師「BOW AND ARROW」やCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」では迫力だけでなく、ディープでありながら心地よい深い低域を楽しませてくれる。最低域再生のチェックに使っている菅野よう子作曲のアニメ『地球少女アルジュナ』サントラ曲「覚醒」も、大型スピーカーで再生しているかのような、完璧な再生だった。

とはいえ、低音だけ突出しているわけではなく、全体的な纏まりのよさ、音色の自然さ、歪みのなさがA10000ならではの魅力だろう。米津玄師「Plazma」や幾田りら「百花繚乱」がこんなにもこんなにもノリよくクリア、それでいて耳障りなところが一切ないサウンドで堪能させてくれるイヤホンは他に記憶がない。音響に対して確固たる知見を持ち、常に新技術にチャレンジし続けるfinalだからこそ生み出すことができた、素晴らしい製品だと思う。

ちなみに、A10000には通常モデルに加えて、全世界300台限定の「A10000 Collector’s Edition」も用意されている。シルバーカラーの通常モデルに対して、コレクターズエディションはゴールドの筐体カラーを採用。さらに、桐箱やすずがみプレート、西陣織を使用した緩衝材なども付属しているという。それでいて価格差は3万円程度の税込428,000円というのだから、こちらもなかなかに魅力的だ。どちらを選ぶかは、サウンドを含めて実機を確認してみて欲しい。

今回のインタビューを担当された野村ケンジ先生ですが、ご自身のYouTubeチャンネル「ノムケンLabチャンネル」にA10000のファーストインプレッション動画をアップしています。A10000のことをよりよく知りたい方はこちらもぜひご覧ください！

（協力：final）