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<山本敦のAV進化論 第198回>

ソニーがついに本気を出す!? 立体音響技術「360 Reality Audio」の最新情報を聞いた

2021/01/26 山本 敦
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筆者もiPhoneにArtist Connectionアプリを入れて、手元にあるヘッドホンでコンテンツを試聴した。空間の広がりがとても自然に再現される。楽器やコーラスの音源が近付いては離れるオブジェクト音源の移動感も生々しい。ソニーが推奨するヘッドホンとモバイルアプリ「Sony I Headphones Connect」を使うと、ユーザーが撮影した耳の画像を元に個人最適化したパラメータが作られる。外耳の形状により影響を受ける音の反射を考慮に入れて、複数のスピーカーから鳴っている音を仮想化。一段とリアルな没入感を引き出す。

「Artist Connection」の360 RAコンテンツは一般的なスマホとステレオヘッドホンを使ってイマーシブオーディオの醍醐味を体験できる

岡崎氏によると、現在国内と欧米の音楽配信サービスが提供する360 RA対応の音楽コンテンツは4,000曲以上に増えたそうだ。昨年末にはTIDALが360 RA対応のクリスマスソングを集めたプレイリストを公開して話題を呼んだ。今後はビデオ付きの360 RA対応コンテンツもユーザーの目を引く的になるのだろうか。

サウンドエンジニア向け制作ツール「360 Reality Audio Creative Suite」をリリース

CES 2021では360 RA対応楽曲の新しい汎用コンテンツプロダクションツールである「360 Reality Audio Creative Suite」が発表された。Digital Audio Workstation(DAW)のプラグインとして提供されるソフトウェアをソニーと共同で開発した米Virtual Sonicsが、その子会社であるAudio Futuresを通して4月(*)からダウンロード販売を開始する予定だ。(*記事初出時、1月末と表記しておりましたが、2021年2月4日の改訂リリースに合わせ訂正いたしました)

360 Reality Audioコンテンツの制作ツール「Audio Creative Suite」がリリースされる。サウンドエンジニアが馴染みやすいインターフェースを実現した

ソニーが360 RAの立ち上げ時から紹介してきた純正ソフトウェアの「アーキテクト」は、技術の研究開発を主な目的とした社内向けのプロダクションツールだ。「360 Reality Audio Creative Suiteには、音楽ソフトウェア開発のスペシャリストであるVirtual Sonics社の協力を得て、実際の楽曲制作環境に近いツールに仕上げた」と岡崎氏が特徴を説明する。

360 Reality Audio Creative Suiteはプロのエンジニアも多く音楽制作に利用するアビッド・テクノロジーの「Pro Tools」など、DAWソフトウェアに機能を追加するプラグインとして提供される。ツールの開発に携わった花田氏に使い方をデモンストレーションしていただいたが、「エンジニアの方々が日ごろ使い慣れているDAWのミキサーウィンドウを踏襲した」というユーザーインターフェースの操作性はとてもシンプルで直感的に扱えそうだ。クリエイターが創作活動に集中してもらえるように、とにかく取り回しはシンプルにしたと花田氏が語る。

CES 2019で公開されたアーキテクトはソニーの社内開発・研究用のソフトウェアだった

「360 Reality Audio Creative Suite」はDAWアプリケーションと互換性のあるプラグインとして供給される

GUIはリスニングポイントの360度を取り囲む立体空間のシミュレーターを見ながら音源のオブジェクトを配置できるように設計されている。ドラムスの低音など固定位置で鳴らしたい音源を任意の場所に配置したり、音源をダイナミックに動かしたい場合はタイムラインを選択して、Azimuth(水平方向の角度)やElevation(上下移動)のパラメータを入力していく。パラメータ設定はマウスを使ってゲージを動かしたり、数値を入力してプレビューを聴きながら詰めていく。

花田氏はサラウンド再生ができるスピーカー環境がなくても、モバイルノートPCとヘッドホン・イヤホンの組み合わせでバーチャライズされたプレビューが確認できる環境を実現することにもこだわったと振り返る。エンジニアやアーティストはPCにファイルを入れて、移動しながら360 RAの楽曲作成を進められる。

クリエイターから360 Reality Audioコンテンツを公募するコンテストを実施

既にステレオでマスタリングが完了している音源の場合、楽曲を構成するトラック単位のパラデータを別途揃える下準備が必要になるが、あらかじめパラデータやステムデータが用意されていれば、そこからCreative Suiteを使って360 RA対応の音源をミックスダウンして容易に作り出せる。汎用性の高い制作ツールができたことで、360 RAのコンテンツ制作に乗り出すクリエイターが増えそうだ。

ソニーでは今年は全面オンライン開催となった世界最大級の楽器の見本市「The NAMM Show 2021」の開催に合わせて、プロのサウンドエンジニアに広くCreative Suiteを紹介し、360 RA対応の楽曲を制作してもらうコンテスト「クリエイター・プログラム」を開催した。応募作品の中から完成度の高いものはTIDALやAmazon Musicなどパートナーの配信サービスで公開することも検討されている。

Music.comでは「360 Reality Audio Creative Suite」を使って制作された良質な作品を募集するクリエイター・プログラムが実施される

360 RA対応コンテンツを制作できるスタジオの拡大、環境の整備や協業も含めた活動を今後さらに加速させる。今年のCESを契機に立ち上げたArtist Connectionアプリも、今後360 RA対応のコンテンツを扱うプラットフォームとして展開する計画があると岡崎氏が話している。ザラ・ラーソンの楽曲『Talk About Love』の動画付き360 RAのコンテンツは今後1年間はアプリで視聴できる。今後も360 RAに継続して注目が集まるように、スマホとスタンダードなステレオヘッドホンによる組み合わせだけで360 RAの効果を体験できる作品は、サンプル音源を含めて積極的にArtist Connectionに追加していくことが大事だと思う。

360 Reality Audio対応コンテンツが製作できるスタジオは日本はソニーミュージックの乃木坂スタジオとソニーPCLクリエイションセンターに展開。米国、英国、ドイツにも制作環境が整いつつある

ソニーから360 RA対応のスピーカーが2モデル登場

コンテンツや音楽配信サービスのほかに、スピーカーなど対応するハードウェアが今後もっと増えないことには360 RAの認知拡大は望み薄だろう。ソニーではスピーカーやサウンドバーを手がけるオーディオ機器メーカーのほか、スマホにタブレット、車載オーディオのメーカーにも360 RAのライセンスを提供してエコシステムの拡大を図る。

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