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社会に貢献し、社員を幸せにしてさまざまなチャレンジを重ねる

セイコーエプソン新社長 小川恭範氏インタビュー。長期的に見ればこれもひとつの段階、今は上を向いていくべき時

公開日 2020/04/27 14:45 Senka21編集部 徳田ゆかり
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●社会課題に取り組み、社員を幸せにする会社となる

 ーー ご就任に際して、社内でどういったことを発信されましたか。

小川 3月の終わりにエプソン グループ全社の方針大会があって、その時に打ち出したメッセージがあります。まず、これまでの中期計画自体は変わりません。しかし、そもそも会社は何のためにあるのかということを強調しました。大きく打ち出しているのは、社会貢献。社会課題に対して、私たちは真摯に取り組んでいくということです。


私たちエプソンの掲げる価値創造のストーリーは、社会課題に真摯に向き合い、解決することで、社会課題として6つのテーマを掲げています。その解決のために私たちは、「省・小・精の技術」をベースに、持続可能な社会、循環型経済をけん引していく。その実現のために「インクジェット」「ビジュアル」「ウエアラブル」「ロボティクス」の4つのイノベーションを起こします、というのが全体像で、まずこれを理解して欲しいと話しました。


それから、社員を幸せにする会社になると言いました。社員の皆がどれだけ幸せを感じてもらえるかが会社の目的の1つだと。おそらくこれまで、エプソンの中において社員に対してのそういう発信はなかったと思います。そしてそのために、自由闊達で風通しのよいコミュニケーションが必要であると説明しました。

 ーー 社員を幸せにするというのは、具体的にはどういうことでしょうか。

小川 幸せには2種類あると話しました。五感に感じるもの、金銭的なものといった短期的な幸せと、持続可能な幸せ。ヘドニアとユーダイモニアという言葉に置き換えられます。持続可能な幸せ(ユーダイモニア)とは、仕事の満足感ややりがい、達成感、自己成長感を感じること。そして人に貢献し、社会に貢献すること。貢献している、役に立っていると感じられることが、持続可能なより深い幸福であると。

そういった、深くて持続可能な幸福を感じられるような仕事をしましょう、そういう職場、組織風土をつくることが大事です、と。そのために自由闊達な風通しのよいコミュニケーションをつくっていく。それができれば、より社会に対して貢献したい、もっといいものをつくりたい、という思いにつながると話しました。

 ーー 社員の皆さんはどう受け止めておられますか。

小川 わりと評判はよいのではないでしょうか。特に、持続可能な幸福を求める会社にしなければならないと思っている人は非常に多いと思います。ただそのためにどうしたらいいかわからないと悩んで、前に進めない人たちが相当いて、他の人たちから自由な意見が出てくるといいのにと思っています。でも実は、そういう人たちこそ、意見が出てこないようにしているということもあります。ただ総論として、賛成は多数だと思いますから、あとは具体的な手段です。

 ーー 御社は高い技術力をもち、特許もたくさん所有し、そういうものを強みとしてこれまで進んでこられたと思います。近年は社会貢献という発信が多くなったかと思いますが、どこかでフェーズが変わったということですか。

小川 フェーズが変わったというより、変えたい、変えなければいけないと思っています。私が若い頃の世の中は、お金を稼いでいいものを手に入れ、豊かな生活をする、というのが幸せの価値観だったと思います。けれども世の中は成熟して、物質的な満足よりも社会貢献といったことに対して人々はモチベーションを感じている。それは世代を問わず、満足感や幸福感をどこに求めるか、という変化だと思います。

ですから、従来の価値観から我々も変わらなくては、と実感しています。そうすることで社員のモチベーションもより高くなり、よりよいサービスを提供できる。そうしていきたいと思っています。

 ーー これまでほとんどの日本の企業は、豊かな生活を掲げ、そのために必要なものを作る、といったベクトルで成長してきたと思います。ただ世の中が成熟した今は、自分のためというより、他者のため、社会のためといった方向に価値観が変わり、御社はそうした方向で価値創造を広げるということですね。

小川 そうですね。我々の強みは「省・小・精の技術」であり、省エネルギーで省資源、小型軽量、高精度といった価値を我々の技術で生み出すことができます。そしてそれは社会のためになり、持続可能な社会のために貢献できると自負しています。

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