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<山本敦のAV進化論 第179回>

VECLOS新スピーカーの特徴を際立たせたDiracのオーディオ技術 ー 今後の展望を聞く

公開日 2019/08/14 07:00 山本 敦
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Diracはオーディオ信号処理技術のエキスパート

Dirac Researchは今から約18年前に、スウェーデンの名門ウプサラ大学で電気信号処理を研究していた博士号を取得したばかりの若い教授たちが起業したスタートアップだ。現在はスマートオーディオの技術と製品を手がける多くの名門ブランドが集まるデンマークのコペンハーゲンにも拠点を広げて成長を続けている。

Diracの取り組みは多岐にわたり、VECLOSへの搭載もその一環となる

同社には4つの異なる事業の柱がある。そのうちのひとつが、SPW-500WPなどワイヤレススピーカーが含まれるハイパフォーマンスオーディオであり、他にはスマートフォンにタブレット、PCなどのモバイル、オートモーティブ、ゲーミングにより構成されている。

スマートフォンやタブレットなど、筐体が小さなデバイスで高品位なサウンドを再現するための音場補正技術は、元よりDirac Researchが得意とする領域だ。近年ではさらにモバイル端末向けSoCの処理性能が向上してきたことから、「Dirac Researchがモバイル端末のユーザーに理想的なエンターテインメント環境を届けられる技術が成熟期を迎えつつある」とRudolphi氏が話している。

同社がモバイル端末向けに開発した「Dirac Power Sound」は、スマホやタブレットが内蔵する小型スピーカーユニットから歪みのないパワフルな音を引き出すための音声信号処理技術だ。低域補正技術の「Dirac Bass」を採用する端末メーカーも増えているという。

Dirac Researchは今年の春に「Dirac Distortion Control」というモバイル端末向けの新技術をMWC 19 Barcelonaを舞台に発表した。Rudolphi氏がその技術の特徴を次のように説いている。

「例えばモバイル端末でクラシックピアノやボーカルを聴くと音の歪みが気になることがあります。Dirac Distortion Controlは小さな筐体の端末に発生しがちな筐体の不要共振を抑えて、クリアなサウンドを再生するための技術です」(Rudolphi氏)

ホームオーディオとモバイル、それぞれの領域で培ってきたノウハウを掛け合わせながら次々とウィットに富み、かつ実践的なテクノロジーを生み出せるところがDirac Researchの大きな強みであると言えそうだ。

アンプとスピーカー、Diracの技術を丁寧に合わせこんだ

SPW-500WPに内蔵されているアンプの設計は山下氏をはじめとするパイオニアのエンジニアが担当している。「私自身がバッテリーで駆動する製品を初めて設計する機会になったので、最初に基本の動作条件を整えてから、バッテリーを効率よく動かすための回路設計のブラッシュアップに注力してきました」と、山下氏は開発初期の取り組みを振り返っている。

Dirac Researchの機能は専用のハードウェアモジュールによって供給されるため、山下氏はSPW-500WPのために新しく開発したオーディオ回路にこれを丁寧に組み込むことにした。なお内部ではBluetoothモジュールで受けたデジタル音楽信号をI2S出力により取りだして、デジタル入力のアンプICにそのまま直接送り込むシステム構成にしている。これによりノイズを抑えたクリアなサウンドが実現できるという。

Diracの技術の搭載により、パソコンの画面などが前にあっても問題なく試聴が可能

全体のサウンドを整えて行く段階で難しかったことについて、山下氏は次のように話している。

「スピーカーは小さいながらもストロークを稼いで、深みのある低音が出せるユニットを使っています。さらにマグネット部分のストロークが長いロングボイスコイルを組み合わせました。さらに筐体内部に搭載するバッテリーパックのサイズを調整して、スピーカーユニットが最大幅のストロークを確保できるように設計しています。スピーカーユニットもこれに伴って2〜3回以上は仕様を変更してきました。ふたつのユニットが対向配置になっていると高域の特性はどうしても下がるものですが、Dirac HD Soundを搭載したことでフラットなバランスに整えることが容易にできたと思います」(山下氏)

元のスピーカーユニットの品質にこだわり、筐体との調節を綿密に行った上でDirac Researchの技術を効果的に組み合わせたというわけだ。この日のインタビューの機会に完成したSPW-500WPのサウンドを、iPadをスピーカーの前に配置した状態であらためてRudolphi氏に聴いてもらった。Rudolphi氏も「驚くほどに広がりが豊かで、センター位置の音像が際立つ立体感に圧倒された。VECLOSのスピーカーの差別化に当社の技術が貢献できたことを嬉しく思う」とコメントを寄せた。

オーディオやゲーミングの分野に広がりが期待されるDiracの技術

今回のインタビューではRudolphi氏に、Dirac Researchの今後の新しい技術開発の展望について聞くこともできた。「今回VECLOSに形にしていただいたことを追い風にして、ワイヤレススピーカーやスマートスピーカーの音質向上を図ることができる技術として、これからも多くのブランドに採用を呼びかけていきたいと考えています」。

現在同社ではホームオーディオ向けに、スピーカーで再生しているオーディオコンテンツに合わせて音の聴こえ方を自動的補正する技術や、ヘッドホン再生時にミキシングエンジニアの作業環境の音場を忠実に再現するエミュレーション技術の開発を進めているという。また世界的に今後大きな成長が見込まれるゲーミングのデバイスやコンテンツによるオーディオ体験を最大化する技術についても、同社の得意分野として伸ばしていきたいとRudolphi氏は意気込みを語ってくれた。

まだSPW-500WPが発売されたばかりだが、今後もVECLOSとパイオニア、Dirac Researchのコラボレーションがさらに深みを増して、新たな製品にも展開されていくことを期待したいと思う。

(山本 敦)

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