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「歴史に残る作品だから後悔はしないように」

「君の名は。」ブルーレイはこうして作られた ー “映画の感動を封じ込める” 徹底したこだわりとは?

2017/07/20 構成:編集部 押野 由宇
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圧縮コーデックごとに異なる特性とエンコードのポイント


−−そうやってできた4K/HDRのデータを、次の工程では圧縮、いわゆるエンコードするわけですね。UHD BDにエンコードする際にはどういった苦労がありましたか?

泉水:UHD BDではHEVCというコーデックが使われていますが、BDで用いられるMPEG-4 AVCでやっていたことがそのまま通用するわけではありません。今回、UHD BDのビットレートは平均が60Mbpsで、ピークは95Mbpsまでいっています。一般的にHEVCは圧縮効率がMPEG-4 AVCの2倍とも言われ、それだけ聞くと非常に恵まれているように思われるかもしれませんが、実際はそんなに簡単な話ではありません。単純に数字だけでも4Kは2Kの4倍で、HDR化によってデータ量はさらに増えて5倍ほどの情報量になっています。結局、HEVCを使ってもUHD BDの規格ではビットレート的に厳しいのです。

UHD BDのエンコードを担当した泉水氏は、HEVCの限界に挑んだと言う

−−UHD BDと聞くとデータ容量に余裕がありそうと思う方も多いでしょうが、突き詰めていくとそうではないということですね。

泉水:HEVCは圧縮アルゴリズムが進化していて、ブロックノイズやモスキートノイズは出にくいのですが、ビットレートが足りないとグレインなどの微細な情報がスッパリと消えてしまいます。人間の眼の特性に照らし合わせると一概に圧縮効率が良いとも言えないんですよ。HEVCだからキレイ、とはならないんですね。限られたビットレートのなかでどうやって4K/HDR化されたマスターとニアイコールなものが作れるかというところで非常に苦労しました。細かいテクスチャーをいかに忠実に再現するか、それが最も時間をかけてチャレンジした部分です。Sirius Pixels社のエンコーダー開発者と何度もやり取りをして、ようやく追い求めた画質に漕ぎ着けることができました。

ディテールが削られると、どんなシーンなのかも分かりにくくなってしまう (C)2016「君の名は。」製作委員会

−−4Kアップコンバートのところでも、フィルタリングの影響で粒子感が無くなってしまうというお話がありましたが、UHD BDのエンコードでもそういったことが発生するのですね。

秋山:HEVCのノウハウは業界的にもまだそれほどありません。パラメーターも数十以上のパターンを試して、とにかく試行錯誤の連続でしたね。微粒子が無くなって、粗いテクスチャーだけが残ると、下手すると2Kよりも解像度が落ちたように見えるんですよ。私もいろいろアドバイスはしましたが、これだけの結果を出すのは凄く大変だったと思います。

今塚:フィルムのグレインもそうですが、ゼロにしてしまうと制作者の意図と異なってきますので、そこのさじ加減は難しいですね。『君の名は。』は、デジタルアニメのフラットな画に様々なテクスチャーが乗っているので、余計に残すのが難しかったと思います。

部屋に舞う埃のような細かい表現までも入念にエンコードされている (C)2016「君の名は。」製作委員会

秋山:まだ4K/HDR環境を整えていない方もコレクターズ・エディションを購入されるだろうと思いましたので、仮に2020年に8Kテレビで初めてこのUHD BDを観たとしても、第一線の高画質であり続けられるようなクオリティを目指しました。そのためには従来の技術、手法だけを使うのではなく、新しいことにチャレンジしていくことが必須だったのです。

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