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「歴史に残る作品だから後悔はしないように」

「君の名は。」ブルーレイはこうして作られた ー “映画の感動を封じ込める” 徹底したこだわりとは?

公開日 2017/07/20 09:08 構成:編集部 押野 由宇
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−−そうして4Kアップコンバートしたものを、次はHDR化していくわけですね。HDR化する際のイメージは、どのように固まっていったのでしょうか?

今塚:映画館で観終わった時に、「HDRはこうしよう」と自分のなかでの考えは決まっていましたね。絶対にいけるという感触がありました。作品によってはHDR化が難しいものもあるのですが、『君の名は。』は光の演出がHDR向きだったので、これはすごく作りがいがあるなと。あとは新海監督がOKを出してくれるかどうかだな、というところまで考えました。

カラリストとしてHDR化に携わった今塚氏は、劇場で作品を観た時点でイメージができていたという

−−HDR化にあたって目指したところは?

今塚:元データはSDRのレンジで作られているものなので、HDR化しようとすると、100%以上に輝度を上げなくてはいけない。しかし必要の無い部分まで明るくしてしまうと違和感のある映像になって、作品に込められた意図を損ねてしまいます。そういったことが無いように何度もテストを繰り返しました。

−−SDRが100nitまでだったのに対し、HDRでは一般的に1,000nit(HDR10の場合)まで輝度を上げられるわけですが、SDRからHDRに変換する際は、具体的にどのような作業になるのでしょうか?

今塚:数字を頼りにするのではなく、見た目で決めていくんです。このくらいが自然な光り方だろうとか、アナログな感覚ですね。光というのは、直射光や反射光、フレアなど色々な種類があるんです。それをリアルに出したいというのがあって、このシーンはこうやってHDR化すればより奥行き感が出るな、ということをカットごとに全部考えて調整します。必要の無いところまで明るくしてしまうと彩度の見え方まで変わってしまうので、HDRでも光の表現以外はSDRと同じように見えるように、1カットずつ慎重に作業を進めていきました。

細かな光と動きがあるシーンでは、1コマ1コマずつ作業を進めていったという (C)2016「君の名は。」製作委員会

−−新海監督は色の出方へのこだわりも強いと思いますが、HDR化における色域の拡大という点ではいかがでしょうか?

今塚:実際の色域は変わっていません。UHD BDではBT.2020という、より広い色域が使われますが、『君の名は。』においてはBT.709のオリジナルに入っていない色をつくり出すことはしていません。BT.2020だとキレイに見えるのではと勘違いされる方が多いですが、もともとBT.709の色域しかないものを強引に広げてしまっては、おかしな色になってしまうだけです。今回はあくまでBT.709の色域をBT.2020の器に移し替えただけです。輝度を上げた分、見た目の印象が変わるということはありますが、色調自体は変わっていません。

−−暗いシーンでも、SDRとHDRでは違いはありますか?

今塚:光源の処理以外は変わりませんね。実写のHDR化では階調を良くするために暗部の輝度を調整することがあったりしますが、アニメのHDR化においては、それをやると色味がガラリと変わって異質なものになってしまうんです。

−−輝度の値はどのくらいですか?

今塚:まず新海監督にHDR化したらこういうふうになります、というものをお見せするためのテスト映像を作りました。その時はピーク輝度が100nit(HDR効果なし)、200nit(HDR効果弱)、300nit(HDR効果中)、600nits(HDR効果強)と4つのパターンを用意し、どれが一番心地よく見えるかというのを検証してもらいました。その結果300nitくらいが見やすいということになり、300nitを基準値としてHDRグレーディングを進めていきました。

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