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“ハイレゾには密閉型が有利”は本当か

クリプトン渡邉氏がスピーカー開発キャリアを総括。「密閉型」「2ウェイ」にこだわる理由とは?

聞き手・構成:編集部 小澤貴信

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2016年02月03日
クリプトンが考える“ハイレゾ”と“スピーカー”の関係

ーー クリプトンはハイレゾ配信サイト「HQM」を、他社に先駆けて展開しました。そしてその直後には、ハイレゾ対応を強く意識したフラグシップスピーカー「KX-1000P」を発売しました。現在ではハイレゾ対応を謳うスピーカーは多いですが、いち早くこの領域に踏み込んだクリプトンとして、ハイレゾとスピーカーの関わりをどう考えているか伺いたいと思います。

渡邉氏 ハイレゾ音源はご存じの通り、ハイビット・ハイサンプリングの音源です。サンプリング周波数をCDの44.1kHzから上げていくことのメリットはわかりやすいです。96kHzでは約50Hz、192kHzでは約100kHzまでが再生されますので、ハイレゾに対応するためには50kHz以上を再生できる必要があります。

しかし、ドームトゥイーターで50kHzが再生できるかというと、原理的にできません。なぜならドームトゥイーターに特有の形状効果のため、頂点部とエッジ部で逆位相成分が発生して、35kHzくらいで逆共振が起こるからです。±10dBという範囲ならば、クリプトンのドームトゥイーターもハイレゾ対応になることはなるのですが、そこは良心的にハイレゾマークは付けていません。

それまでドームトゥイーターにこだわっていましたが、50kHz以上を再生するためにKX-1000p以降のモデルではリングフラム・トゥイーターを搭載しました。

フラグシップスピーカー「KX-1000P」

ーー なぜリングフラム・トゥイーターならハイレゾ帯域を再生できるのでしょうか。

渡邉氏 リングフラム・トゥイーターは平面状の振動板で、しかも2点支持によって振動板を中央部と周辺部に分割した構成としています。振動板は再生周波数が上がってくると、その中央部しか駆動されないという性質を持っていますが、リングフラム・トゥイーターはその分割された構造のために、再生周波数が上がってくると、中央部のみが可動することができます。

また、リングフラム・トゥイーターは平面かつ面積も小さいので、前述のような位相干渉も起こりません。さらに中央に取り付けられた砲弾型イコライザーによって、中央部と周辺部の位相差をキャンセルすることができます。このような要素により、50kHzまでフラットに再生することができるのです。ドームトゥイーターのように、中央部とエッジ部で位相差が発生することもありません。

【図6】25mmドームトゥイーターと35mmリングトゥイーターの比較

ーー まさにハイレゾ音源の超高域を再生するには理想的なトゥイーターなのですね。

渡邉氏 ちなみにリングダイアフラム・トゥイーターはWestern Electricの「555」というスピーカーが搭載したバランス型振動板がベースで、決して新しい技術ではありません。KX-1000Pを開発していたのと同時期に、クリプトンはハイレゾ配信サイト「HQM」の準備も行っていました。このとき、従来のトゥイーターではハイレゾ音源の高域を再現できないことを認識し、発売を半年遅らせてまで開発したのがこのリングダイアフラム・トゥイーターなのです。

ハイレゾ音源のキモは量子化ビット数向上による分解能のアップ

ーー ハイレゾ再生においては、やはり高域まで再生できることが重要になるのですね。

渡邉氏 高域再生は確かに大事ではありますが、私はハイレゾ音源は量子化ビット数の方がより重要だと考えています。16bitのCDに対してハイレゾは24bitですが、8ビット増えるということは、分解能が256倍に上がるということです。分解能のアップは高域の伸び以上に重要で、その恩恵はむしろ中低域の再現に現れます。

CDのダイナミックレンジは実質60dBくらいですが、ハイレゾならばゆうに120dBを確保できます。そしてこの値は現代のスピーカーでも再現できない領域です。そして、デジタルにおいて波形の階段を細かくしていくことは、アナログに近づく唯一の方法となります。アナログに近づくという観点からすれば、ハイレゾの良さはむしろこの分解能の向上にあります。

そして低域の分解能が上がるということは、密閉型スピーカーが優位になるということなのです。ハイレゾ音源の登場が、この優位性に改めてスポットライトを当てたのです。f0以下がコントロールできないバスレフ型スピーカーでは、ハイレゾ音源の低域の分解能は再現できません。

低域や中域の微妙なニュアンスを聴き取れるのがハイレゾなのです。ハイレゾだと高域が伸びてホールトーンが表現できるとは言いますが、それ以上に、分解能がよりアナログに近づいていることの意義が大きいのです。

フラグシップスピーカー「KX-1000P」によって実現した進化

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