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大画面を“持ち歩く”インパクト

エプソン開発者が語る − シースルーモバイルビューアー“MOVERIO”誕生秘話

公開日 2012/01/23 10:06 インタビュー/林正儀・海上忍
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“MOVERIO”は今までになかった「Android端末」でもある

海上:Android端末を組み合わせるという発想は、どのようにして生まれたのでしょうか。

馬場:開発当初はAndroidというアイデアはなかったのですが、商品の仕様について検討を重ねていくうちに、「いつでも、どこでも大画面」という“MOVERIO”の基本コンセプトを実現するためには、WiFiやWebブラウザを搭載する必要があるということになって、そのために最も効率良く開発ができて、なおかつその先の広がりをも考えると、選択肢はAndroidしかないだろうということになりました。

Android OSを搭載したコントローラー部

津田:現在では世の中に、様々なタイプのオーディオ・ビジュアル機器が存在しているのに、「大画面を携帯できる商品」というものは存在していませんでした。エプソンとしてはそこに市場性を捉えて、汎用性の高いAndroid OSを上手く使いながら新たに生まれる価値を導き出したいと考えました。

海上:エプソンがAndroid端末を商品化したのは本機が初めてですね。

MOVERIOを体験する海上氏

馬場:そうです。そういう意味では、社内にAndroidデバイスに関する開発資産がまったく無かったので、ゼロからのスタートには色々な苦労がありました。でも、おかげさまで勉強できたことも非常に多かったと思います。


MOVERIOのメニュー画面
津田:Androidでなければ、“MOVERIO”はコンセプトの想起から完成まで1年半という期間に商品化できなかったかもしれません。汎用的な部分はAndroidの力を借りながら、エプソンのオリジナルになる付加価値を付けていくことに、エンジニアの力を集中させることができました。

海上:例えばコントローラーの側で、DTCP-IP対応のDLNAクライアントを搭載して、レコーダーに録りためたテレビ番組を“MOVERIO”で楽しむといった使い方ができれば良いのではと思いました。

津田:“MOVERIO”ではWiFi機能を搭載していますので、あとはアプリを提供するかどうかの問題になると思います。ただ、エプソンとしては“MOVERIO”を「大画面を携帯できる商品」として位置づけていますので、家庭の内と外の楽しみ方をごちゃ混ぜにして提案してしまうと、本機のメッセージが曖昧になってしまうと考えました。ですので、スタートはとにかく「外」で楽しむ大画面商品として、WiFiやテザリングの機能などもお使いいただきながら、“MOVERIO”で今までにない楽しみ方を発見してもらえればと思っています。

でも当然ながら“MOVERIO”をお求めいただいたお客様からは、「家の中」での使い勝手に関するご感想やご要望もいただいていますので、本機のコンセプトを損なうことなく、家庭内でのエンターテインメント性を高めることについても、今後さらに検討を重ねていきたいと思います。

microSDカードに動画や写真、音楽ファイルを入れて再生することもできる

本機付属のアダプター


海上:コントローラーにはトラックパッドだけでなく、十字方向キーも設けた理由は何ですか。

津田:そこは私たちも悩みました。Androidのインターフェースは、画面に表示されるアイコンにタッチして操作することを前提につくられています。一方で“MOVERIO”の場合は映像がディスプレイの中に浮かんでいて、直接触れることができません。操作は全てコントローラー経由なので、一般的なタッチパネルと同じように、フリック操作などの動き方をさせようとすると無理が生じてきます。そこで、現時点でベストの手段として、トラックパッドでマウスのような操作感を実現して、フリックに近い縦横の素速い動きは十字キーを使うという、二段構えのインターフェースを採用しました。

コントローラー上部にはシングルタッチ対応のトラックパッドを配置

十時キーの他、3D/2Dの表示切り替えや明るさ調整のメニューボタンを配置している

海上:ヘッドセットとコントローラーの間がケーブル接続なのは、やはりコスト的な難しさがあったのでしょうか。

津田:いいえ、まずは単純にヘッドセット側へバッテリーや様々なシステムを搭載することは、重量やサイズの関係で出来ません。よって制御信号や電源をコントローラーから供給しなければならなかったためです。一見すると単なるケーブルに見えるかもしれませんが、実はこの専用ケーブルには32本の信号線が入っています。QHD画素/60fpsの映像信号、左右2枚分をリアルタイムでこのケーブルから送っていますので、そのデータ量は1Gbpsにもなります。かつ1.2mの長さを伝送ロスなく送らなければならないので、実はこのケーブルではかなり苦労しながら、これらの条件をクリアしています。これを無線でやろうとすると、今の無線技術では電源供給の部分でパワーを使いすぎてしまうため、実現が難しくなります。

また、ケーブルの太さについても、試作段階では32本の信号線を入れるために、太さが今の1.5倍ぐらいになってしまいました。そこで、パートナーのケーブルメーカーに協力をいただいて、現在のしなやかで柔らかいケーブルにすることができました。

柔軟性の高いケーブルを採用した

ケーブルは専用の端子につなぐ

:ケーブルの長さはどのように決定されましたか。

津田:ちょうど男性が直立姿勢で、ズボンのポケットにコントローラーを入れながら、ヘッドセットが装着できるぐらいの長さにしています。はじめは胸ポケットに入れて使うことも想定したのですが、コントローラーの重さを考えると、やはりズボンのポケットに入れて使う方が自然だろうということになりました。女性のユーザーの場合は、コントローラーを鞄に入れて使っていただくことも考えられますので、その点も意識して長さを決めました。

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