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大画面を“持ち歩く”インパクト

エプソン開発者が語る − シースルーモバイルビューアー“MOVERIO”誕生秘話

公開日 2012/01/23 10:06 インタビュー/林正儀・海上忍
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「遠くを見るほど、画面が大きく見える」“MOVERIO”の映像

海上:「仮想画面サイズが20m先に320インチ」という、大画面を再現する仕組みを教えて下さい。

海上忍氏

馬場:私たちも最初は「遠くを見るほど、画面が大きく見える」という効果は商品性のアピールポイントになると考えていませんでしたが、開発試作品で実際に実感できるということで、これはシースルーの大きなメリットとして訴求したいと考えました。

津田:理論上の効果は認識していましたが、実際の映像は誰も体験したことがなかったので、開発者一同も、改めて理論通りに見えたことへの喜びと、設計に間違いが無かったことに安心しました。

馬場:クローズドのヘッドマウントディスプレイの場合、視界の中には映像しか見えておらず、視聴者はその映像に焦点を合わせようとします。シースルーのヘッドマウントディスプレイの場合は周囲の景色が見えていますので、「遠くを見よう」とする人間の目の働きによって、映像が大きく見えるようになります。

人間の視覚効果を利用して、仮想視聴距離20mで320型までの大画面再生を実現した

人間の目の視界は左右45度に広がっていると言われています。一方、“MOVERIO”の場合は左右23度のエリアに映像が映っていて、その角度は何メートル先に焦点を合わせても変わりません。この原理によって、例えば1m先を見た時と、10m先を見た時では、同じ視野角内に倍率が大きくなった映像が見られることになります。これが「遠くを見るほど、画面が大きく見える」ことの仕組みです。

:なるほど、こうしたところにもシースルーの魅力があるんですね。ディスプレイの部分に映像が映し出される仕組みはどのようになっていますか。

MOVERIOを体験する林氏

津田:本体の側面にある“つる”の部分には、0.52型「QHD(960×540画素)」サイズの“ULTIMICRON”ディスプレイ(関連ページ)が搭載されています。こちらに極小のプロジェクターが設置されているイメージなのですが、まずは私たちが「鏡筒」と呼んでいる投写レンズによってパネルからの映像を拡大します。背面から来た光を、今度は「光路」と呼んでいる「コ」の字型の路を辿らせながら、ヘッドマウントディスプレイのディスプレイ部分に設けた透明材料の屈折率を応用して、複数回屈折させた後にユーザーの目の前に導きます。

シェードを取り外したところ

ディスプレイ部中央に設けられたハーフミラー部分に光を導いて映像を映し出す

最終段にはハーフミラーが設けられており、映像はこちらに映し出されます。このハーフミラーは外光を70%、反射光を30%視聴者の目の方に導く仕様になっており、複数回屈折させて導いた光のうち、30%の反射光をユーザーは視聴するかたちになります。

本体側面のULTIMICRONパネルから投写された映像光を、反射させてディスプレイ部中央のハーフミラーに導く

海上:ディスプレイ部分をこれ以上薄型化することは難しいのでしょうか。

津田:いいえ、光の導き方で薄型化することも可能ですが、表示画面サイズ、鏡筒部サイズ、全体の重量とパーツ強度のバランスを検証した結果、現状の厚みにしました。材料は軽量化するために、9.5mmの樹脂素材を使っています。こちらの成形技術はさらに良くすることができると思います。

ディスプレイ部分のパネルの厚みは強度の関係からも9.5mmに最適化された

馬場:反対にディスプレイ部分をより厚くすれば、画面サイズを大きくすることもできますが、今度はその分だけ質量が上がってしまいます。私たちは“MOVERIO”を持ち運んで楽しめる軽さにしたかったので、9.5mm厚の仕様が今のベストポイントであると考えています。

:左右の映像信号の同期はどこでコントロールしていますか。

津田:別筐体のコントローラーにMOVERIO専用の表示制御エンジンを搭載しています。こちらで左右のディスプレイ部に映す映像を分配して送り出したり、3D再生時にはサイドバイサイドで信号を分けて表示したりという処理を行っています。

:“ULTIMICRON”のパネルは、元はどのような用途で開発されたものですか。

馬場:こちらのデバイスはフロントプロジェクター用に開発した液晶パネルの技術がベースになっています。エプソンでは2年ほど前に、一眼レフのデジタルカメラの電子ビューファインダー用に単板でフルカラー表示ができる“ULTIMICRON”パネルを開発しましたが、本機にはそのパネルが活用されています。

「ULTIMICRON」シリーズのディスプレイ

津田:液晶の表示原理は、一般的な表示ディスプレイのものと同じで、パネルをバックライトで照らして、カラーフィルターを通して映像を映し出すというものです。

:光源はLEDですか。

津田:そうです。明るさはバックライト表面輝度8万カンデラ程度と、少ないLEDで高輝度を確保しています。

:私は十分にコントラスト感の高い映像と感じました。明るい空をバックに映像を見たら、シースルーなので映像が薄まってしまうかと思いましたが、とても視認性が良いと思います。

津田:0.52型のパネルに輝度ムラ無く光を回すため、バックライトは専用設計になっています。外光に負けないだけの光を透過させる必要もありますので、このあたりの投写の仕組みについては一般的な電子ビューファインダー用のデバイスと構造を変えています。

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