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【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち

第15回:森山威男さんが語る「ピットイン」との激動の時代<後編>

インタビューと文・田中伊佐資

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2011年02月15日

お客さんを裏切っても原点に立ち返ろうと
再びフリーに戻ってみようかと考えている


エルヴィン・ジョーンズが演ってきた
正月興行を任され、特別な思いを理解


佐藤:ところで「ピットイン」の1月2日からのお正月興行を森山さんにお願いして、はや3年が過ぎました。このライヴは年間を通じて店のシンボルと位置づけていまして、28年間にも渡ってエルヴィン・ジョーンズが続けてきました。彼が2004年に亡くなって、3年間はメモリアルとしてゆかりのミュージシャンに出演してもらいましたが、さてこれからどうしようかとなったとき、これはもう森山さん以外の人選は考えられませんでしたね。エルヴィンのスピリットを持ち、エルヴィンの匂いがするといえば森山さんしかいないんですよ。森山さんはエルヴィンに対してどんなことを抱いていますか。

森山:もちろん大好きなドラマーです。音楽は音符じゃない、うまくやることでもない、ハートなんだということを演奏を通じて訴えていますよね。間違えてもいい。そこにドラマがある。私の言うところの物語です。

佐藤:それは2人のドラムソロを聴けばわかりますね。とにかく魂が入っている。これは技術論では語れない。

森山:例えば「ズドーンと叩いてみろ」と言われたらどう叩くかということなんです。それは楽譜に書いていません。「ズ」はどこで「ド」はどうするか。それが果たして「ズドーン」と聴こえるのか。

佐藤:だから必ずスイートスポットに来る。力任せではない。だけど音が大きい。

森山:しかし大きくても、うるさくて邪魔となると具合が悪い。エルヴィンはそういうことがまったくないですね。

佐藤:そこはエルヴィンと森山さんが重なり合う部分でもありますね。


最近のピットインのステージ。セッションで演奏をする森山威男さん。技術だけでは出すことのできない「ズドーン」というドラミングが観客を魅了する
森山:まだたった3年しかやっていませんが、エルヴィンが毎年「ピットイン」でやっていた特別な思いがちょっとわかった気がしています。まだ来年を頼まれてもいないのに、1月2日は何曜日かな、なんて手帳を見たりしてます(笑)。

佐藤:いや、お正月はできる限りずっとお願いします。最後に来年でもさらにずっと先でも構いませんが、将来的に何かやってみたいことはありますか。


複雑な曲でも演奏できる時代にこそ
譜面にない音が出せる者が生き残る


森山:つい最近、急になんですが、もう一度フリーに戻ってもいいかなと思い始めましたね。ずっとスタンダード路線だったわけですが、お客さんを裏切っても原点に立ち返ろうかなとね。すべてではないですが、ひとつ理由があります。いま小学校の課外授業として、子供たちに生演奏を聴かせているんですね。なにも決めないでやる音楽もあるんだよとフリーをやると、これが圧倒的に受けるんです。テンポのあるものは自分のなかでは音楽をやっているという意識がありますが、フリーが始まれば真っ白になって没頭します。それが子供たちにも分かるみたいなんですね。どうなるか分からない世界をおもしろがってくれているみたいです。

佐藤:いいですね。ぜひ「ピットイン」でもやってください。

森山:プレイヤーがどんどんうまくなって、複雑な曲でも難なく演奏できる時代になればなるほど、譜面では記せないまさに「ズドーン」を出せる者が生き残ると思っています。それをやるには、音楽的な取り決めを脇にどかして、もう一度思い切ってやってみようかなという気持ちが募っているところです。

2010年4月22日に新宿ピットインで行われた「辛島文雄 meets 森山威男!!」ステージの模様(Photo by 土居政則)



この日のパフォーマンスはライヴレコーディングされており、「E.J. Blues 辛島文雄 meets 森山威男 Tribute to Elvin Jones」というタイトルでリリースされている
写真 田代法生

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森山威男さん Takeo Moriyama(ドラマー)


1945年山梨県勝沼市に生まれる。東京芸術大学打楽器科卒業。在学中より山下洋輔トリオに在籍、3度のヨーロッパツアーに参加。1975年、山下トリオを退団し、1977年に自らのバンドを結成、日本国内はもとよりドイツ・イタリア・ソ連(現ロシア)での演奏も行う。1984年にはニュルンベルク「East-West Jazz Festival」での演奏をenjaレコードから発売したが、1985年、病により演奏活動をほぼ停止し療養生活を送る。

1989年に演奏活動を再開し1994年、自らのグループでドイツ・イタリアツアーを敢行した。2002年には第27回 南里文雄賞、第35回 ジャズ・ディスク大賞日本ジャズ賞、第56回 文化芸術祭賞レコード部門優秀賞を受賞。2003年にGeorge Garzone、Abraham Burtonを迎えての公演を行い、『A LIVE SUPREME』を制作。2007年にはレギュラーメンバーにて、CD『Catch up!』とDVD『Live at ala』を発表した。また2001年からは在住する岐阜県可児市との共同企画で、『MORIYAMA JAZZ NIGHT』を可児市文化創造センターの大ホールにて毎年開催。毎回、新たな趣向にチャレンジして、地元の文化活動にも貢献している。

ホームページアドレス http://www.takeomoriyama.net/


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