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【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち

第14回:森山威男さんが語る「ピットイン」との激動の時代<前編>

公開日 2010/08/31 09:21 インタビューと文・田中伊佐資
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山下トリオでは演奏で死ぬかもしれないと思っていた
当時の思い出は「ピットイン」。毎日が夢のようだった


安保闘争時代の大学祭へも呼ばれ
壮絶な雰囲気の中、殺気立って演奏


森山:その後に、ベースとドラム、どっちを優先するのかという話になりました。山下さんはドラムを取ると言ってくれた。よしわかった、だったら低い音は全部バスドラでやるからということでベースレス・トリオになりました。その代わり右足は踏みっぱなしでしたよ。山下さんが偉かったのは、こっちがガンガン叩いてお客さんからピアノが聞こえなくなると言われても「聞こえなくていい。生のその通りの音でいい」と調整しなかったことですね。


1977年3月に行われた新宿ピットインでの森山威男カルテットのライヴアルバム「FLUSH UP」(アナログレコード、テイチクGM-5008)

「FLUSH UP」のライナーノートの裏にある写真。左より板橋文夫(P)、高橋知己(Sax)、望月英明(B)、森山威男(Ds)。当時の若々しいメンバーの姿を見ることができる
佐藤:音の大きさではドラムが勝つに決まってますからね。そして山下洋輔トリオは「ピットイン」の毎週月曜のレギュラーになります。山下さん、森山さん、初代のサックスが中村誠一、そして72年に坂田明に替わる。この演奏を70年安保のヘルメットをかぶった学生たちが共鳴したわけです。暴れまくるフリージャズと体制をぶち壊せという思想が一致しました。

森山:そういう時代でした。学園祭によく呼ばれて演奏しました。

佐藤:どんな感じだったんですか。

森山:特攻隊みたいなもの(笑)。正直なことを言うと、今日の演奏で死ぬかもしれないといつも本気で思っていた。精根尽き果てて。いったいどれだけ汗をかくのかと思って演奏の前と後で体重を量ったことがあった。4kgも違った。膝から下の汗だけでクツの中がグジュグジュになった。終わってから鏡で顔を見るといつもゲッソリ。お客さんもテンションが高かったですね。「オマエ、なんで昨日は来てなかったんだ」とか叫んで、演奏中に小突き合っているんですよ。

佐藤:あの空気は壮絶でした。

森山:殺気立って演奏してました。シンバルは割れちゃうし、ペダルはポキッと折れるし。イスが壊れて、立って叩いていたこともあったな。

佐藤:森山さんは自前の楽器ですけど、山下さんは行く先々のピアノを使うから嫌われますよね。弦を切ったり。使わせてもらえなかったこともあったんじゃないですか。

森山:そうですね。でも「ピットイン」は口を挟んでくることはなかったですね。


1991年、移転前の新宿ピットインでステージに立つ森山威男さん

佐藤:芸術だと思ってましたからね。壊れたら直せばいいんですよ。

森山:あの頃の思い出は「ピットイン」しかないんですよ。もちろん、有名になるというのはこういうことかと思うぐらい、どこでもお客さんは来てくれました。でも「ピットイン」だけは独特の雰囲気を持っていました。毎日がまるで夢のようでしたね。


写真 田代法生

(後半に続く)

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森山威男さん Takeo Moriyama(ドラマー)


1945年山梨県勝沼市に生まれる。東京芸術大学打楽器科卒業。在学中より山下洋輔トリオに在籍、3度のヨーロッパツアーに参加。1975年、山下トリオを退団し、1977年に自らのバンドを結成、日本国内はもとよりドイツ・イタリア・ソ連(現ロシア)での演奏も行う。1984年にはニュルンベルク「East-West Jazz Festival」での演奏をenjaレコードから発売したが、1985年、病により演奏活動をほぼ停止し療養生活を送る。

1989年に演奏活動を再開し1994年、自らのグループでドイツ・イタリアツアーを敢行した。2002年には第27回 南里文雄賞、第35回 ジャズ・ディスク大賞日本ジャズ賞、第56回 文化芸術祭賞レコード部門優秀賞を受賞。2003年にGeorge Garzone、Abraham Burtonを迎えての公演を行い、『A LIVE SUPREME』を制作。2007年にはレギュラーメンバーにて、CD『Catch up!』とDVD『Live at ala』を発表した。また2001年からは在住する岐阜県可児市との共同企画で、『MORIYAMA JAZZ NIGHT』を可児市文化創造センターの大ホールにて毎年開催。毎回、新たな趣向にチャレンジして、地元の文化活動にも貢献している。

ホームページアドレス http://www.takeomoriyama.net/


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