【Shokz本社ツアーレポート#1】骨伝導/オープンイヤーを牽引するShokzのオリジン。共同創業者が語るブランドヒストリー
2026/06/30
中国・深圳にて開催された、Shokz(ショックス)のメディアツアー。創業者によるブランドヒストリーに続き、本稿ではShokz製品の研究開発および生産を行っている3つの拠点についてレポートする。
今回、Shokzが公開した拠点は3か所。製品の研究開発やテストを行う「Shokzラボ」、パーツを組み上げ製品を完成させる「組立ライン」、Shokz独自のシリコン素材を使用したパーツを製造する「シリコン工場」だ。それぞれ深圳の中心部から車で数十分ほど離れた場所にあり、広々とした敷地を構えている。
当然、企業秘密にあたる部分は非公開となっているのだが、Shokz製品がどのように生まれ、市場に送り出されるのか、その過程の多くを知ることができた。
最初に案内された「Shokzラボ」は、製品が設計どおりに製造されているかの検査や、耐久性/信頼性を部品単位でテストしている拠点だ。いくつものテーマごとに部屋を分け、人の手とマシンの両方で品質チェックに取り組んでいる。部屋ごとに様子をお見せしていこう。
2部屋ある「機械室」は、イヤホン本体を床に落としたり、ねじったり引っ張ったりなど、日常生活で想定される物理的な負荷に耐えられるかを調査している。
第1機械室で行っているのは、骨伝導イヤホンのネックバンドやイヤーカフ型イヤホンのブリッジを曲げたり伸ばしたり、床への落下を模した衝撃を加えたりといったテスト。イヤーフックの端にだけ力を加えるなど、ふだん遭遇しそうなシチュエーションも考慮されている。
また、イヤホンが設計通りの音を鳴らせているかどうか、スタッフの耳で主観的に判断するための無響ブースや、完全ワイヤレスイヤホンをケースから取り出した後、自動的にペアリングを開始するかを繰り返しテストする専用設備も設置している。
ケースから取り出した完全ワイヤレスイヤホンがなかなかスマホと接続されなかったりすると、ストレスがたまり、製品への満足度が落ちてしまうもの。試験内容を説明されてから「なるほど」と感心した。
もう一方の第2機械室では、ケースの開閉や、USBケーブルの抜き差し、チタン製ワイヤーの曲げ伸ばし、イヤーフック/ネックバンドに対する様々な角度のねじれなど、何百回、何千回と繰り返し加わる負荷について試験が行われていた。
こちらでも、実際に日常で使うユーザーの目線で考えられたテスト内容が用意されている。例えば、物理ボタンを押し込んだときの「カチッ」という小気味よいクリック感の有無を調べたり、カバンやポケットに入れたまま押しつぶされる場面をシミュレートした試験などだ。いずれも日頃の「使い心地」に直結する、実践的な内容に感じられた。
「電気室」は、おもに電気的な部位に関わる耐久性を調べる部署。例えばドライバーの音圧/周波数バランスを測定するオーソドックスな検査は、こちらで行われている。
「表面処理室」では、パーツ表面や素材そのものの傷つきにくさを調査。国際規格と同じ手順で、試験用鉛筆で引っかいたり、アルコールで拭き上げるといったテストを実施する。
似た名前の「前処理室」は、薬品との相性を調べる部署。化粧品や日焼け止め、石鹸のサンプル、汗に近い成分の溶液などを塗りつけ、変色や物性の変化を起こさないか確認する。化粧品の色が移ってしまったり、その後もなかなか落ちなかったりといった話も聞く。そういった女性の悩みを未然に防いでくれる部署と言えるかもしれない。
「環境室」では、さまざま湿度や温度、太陽光のあたる環境を作り出すマシンで耐候性をテストする。「温度変化室」では、例えば氷点下の屋外から暖房の効いた屋内に入るような、急激な温度変化に対する調査を実施している。
「噴霧室」「水浴室」では、ともに防水性を調査。噴霧室では雨や汗を模したしぶきを浴びせ、水浴室では水深70mの環境まで再現できるマシンを使って水没試験を行う。
「測定室」は、各パーツが設計通りの寸法で作られているかを測っている。この部署も2部屋に分かれていて、第1測定室では顕微鏡などを用いてパーツの幅、厚みといった加工精度を細かく見る。別棟の第2測定室には大型のマシンが設置されており、曲面や立体的な精密さを調べることが可能となっていた。
最後に案内された地下の「振動室」は、高さ1.8mから落としたのと同じ衝撃を加える器具が備え付けられている。器具のおもりが床に叩きつけられるたびに響く “ドスン!” という衝突音はかなりのもの。イヤホンを落とした時、実際にはこんな衝撃が加わっているのか…と考えると、より丁重に扱おうと思えたほどだった。
2か所めに案内された拠点が、Shokz製品の組み立てを請け負う立訊精密(Luxshare)の工場だ。残念ながら精密機器の持ち込みや写真撮影は完全NGだったのだが、「OpenFit」など完全ワイヤレスイヤホン用充電ケースと、イヤーカフ型イヤホン本体という2つの製造ラインを見学させてもらった。
充電ケースの製造ラインは、工程の半分がマシン、もう半分が人力という構成。プラスチック製の土台やフタ、センサー、バッテリーといった部品のおおまかな組み付けをマシンが行ったのち、細かなネジ止め/はんだ付けなどを人の手で実施、そして次の工程のマシンへ……というように、機械が分担するパートと人間のそれとが交互に配置されていた。
目視による確認も兼ねているのだろうか。完全なオートメーションではなく、要所要所で必ず人が関わる体制となっているのは少し意外だった。
もう一方の、イヤホン本体の製造ラインは、細かく複雑な工程が連続するためなのか、なんとほぼ人力で運営されていた。100名近くのスタッフがずらりと並び、部品の組み付けから動作チェックまで淀みなくこなしていく様は実に壮観だった。
3か所めの拠点が、シリコン素材からパーツを成形する「シリコン工場」。Shokzでは2010年ごろから、理想的な耐久性と柔らかさを兼ね備えたシリコン素材を手に入れるため自社開発に取り組んでおり、いまではシリコン専業メーカーから購入するより自社生産の比率のほうが大きいという。
工場を運営するのは、Shokzの子会社「正向精密」。“正向(ジェンシャン)” という中国語は英語でいう “Direction(方向性)” にあたり、つまり「Shokzの開発理論に正しく従う」というほどの意味合いなのだとか。
ここではシリコン製パーツの土台となる樹脂素材、その金型から製造している。訪問してまず通されたのは、金型を製造する「CNC」と「EDM」の部屋。前者はポータブルオーディオ製品ではすっかりお馴染みのCNC加工を行うエリアで、コンピューター制御の専用マシン(マシニングセンター)によって金属塊を精密に削り出す。
後者は日本語で「放電加工」と呼ばれる、金属加工を行うエリア。金属素材と電極のあいだにスパークを起こし、その高熱を利用して素材を削り取る。切削が困難な硬い金属の加工や、複雑な形状を切り出すための加工方法だ。
製造した金型を用いて、シリコンパーツの土台となる樹脂パーツが作られる。これにチタンワイヤーを取り付け、液状のシリコンをまとわせることで、イヤーフックやイヤーカフのブリッジパーツが完成するのだ。
ちなみにシリコンの色味調整もこの場で行っているが、それには数時間かかるとのこと。液状シリコンを固めるだけなら数十秒もあればよいそうで、Shokzのシリコンパーツは下準備と仕上げにこそ、念入りな手間がかかっていると言ってよいだろう。
正向精密の工場内で印象的だったのは、業務に携わるスタッフの服装がみなカジュアルだった点だ。これは研究設備や組立ラインほどの機密性が必要ないことも一因だが、なにより作業環境が常に高温多湿であることが大きな理由だという。
確かに工場内に見学に入ると、そこは7月〜8月ごろの日本を先取りしたかのような蒸し暑さ。深圳は沖縄よりも南に位置するだけあり、5月半ばの時点でそもそも気温と湿度が高いのだが、工場内は輪をかけて過ごし辛い。Tシャツ/Gパンのような軽装でもなければ参ってしまうだろう。
もうひとつ印象深かったのは、工場内の多くのエリアで聴覚保護のため耳栓が義務付けられていたのだが、少なくない社員が耳栓の上から骨伝導イヤホンを併用していたことだ。ブランドの特長である骨伝導技術を自社の現場で活用する、まさにShokzの拠点らしい光景のように感じられた。