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公開日 2025/04/17 06:30
<連載>「オーディオを、遊ぼう!“ザ・良音計画”」第1回

組み立てる喜び、音が出る感動。真空管初心者にも安心、トライオードのアンプキットを作ってみた!

前田賢紀

手を動かす“オンリーワンの楽しみ”


ついに始まりました新企画「オーディオを、遊ぼう!“ザ・良音計画”」。楽しく、真面目に、そしてどっぷりとオーディオの楽しさに誘惑しちゃうぞ、というコンセプトで皆さんに提案をしていく連載のスタートだ。


衝撃の第1回、俎上にあげるはトライオードの真空管アンプキット「TRK-3488」。オーディオを存分に楽しむという点で、クラフトオーディオはうってつけの素材だ。



トライオードの真空管アンプキット「TRK-3488」(154,000円/税込)を作ってみた!


思えばオーディオ趣味とはそのサウンドやデザインに惚れ込んで完成品を入手することがほとんど。しかしこれと違う楽しさを提供してくれるのがクラフトオーディオだ。もちろん組む楽しさは半面として手間でもあるし、失敗するリスクだってある。


それでも今なおキットが販売されているのは、そこに“オンリーワン”な魅力があるからだ。手を動かそう、組んでみよう! 慎重に組み上げたクラフトオーディオが美音を奏でれば、大人だって胸キュンすること間違いなし。さあ、君の知らないオーディオの世界へ突入だ!


アレ、完成品買ったんだっけ?


箱を空けていよいよご対面。プラモデルのような状態を想像していた身からすると「完成品買ったんだっけ?」と勘違いしそうなほど、見た目はできあがっている。肝心要の真空管は4本とも挿してあるし、ボリュームも、セレクタも、電源ボタンも、スピーカーターミナルも全部装着されているからだ。



段ボールから早速開封!




ほとんど完成品のような状態で入っている…?


ひっくり返して裏ブタを開けると、そこに電子部品がざっくり入っている。なるほど、クラフトするのは電子基板の組み立てなのだ。先に記したボリュームなどははんだ箇所が細かく多いため、ここが完成済みなのはありがたい。入力4系統セレクターのはんだ付けだけでも大変ですよ、みなさん!



裏ふたを開けると、組み立てのためのパーツがぎっしり詰まっている




中に入っているパーツを確認。数は多いが、コンデンサー、抵抗、トランス、内部配線も色分けされて入っているのでわかりやすい!


はんだ付けがメインであるため、用意する道具は少なく、はんだとはんだコテ、ドライバーにニッパー、ラジオペンチにカッターくらいか。はんだ作業を効率化するため「はんだコテスタンド」があると、かなり便利だとお伝えしておこう。



真空管アンプ制作に必要な道具。ニッパー、カッター、ペンチ、ハンダごてセットは必須


電子部品のパックは明瞭で、説明書も判りやすい。さすがアンプキットから出発したトライオードらしい堅実な作りと言える。


基板がだんだんカラフルに!


電子部品が個包装されたパッケージを下から順番に切っては基板に差し込んで仮止め、と作業を進めていった。基板がカラフルに、フクザツになっていき、一歩一歩進んでいることを実感できるのが嬉しい。



取説を見ながら、基板に抵抗などをひとつひとつ取り付けていく。細かい作業が多いが、取説はわかりやすいので丁寧にやれば問題なし!


すべての部品を装着したら、さあ、はんだ付けだ。


ささっと、しかし慎重に作業を進める。基板がどんどんデコトラみたいになっていくぞ!



千石電商で買った「音響専用はんだ」を使用




はんだ付けの際には基板や配線を支えるスタンドがあると便利。「本来の役割は写真用品です(笑)」(前田さん)




はんだ付けが完了したら、余分な足の部分はニッパーでカット


だが、この調子の良さもサクっと足元をすくわれることに。


というのも、4個あるカップリングコンデンサーは基板に直接はんだ付けするのではなく、リード端子に絡ませるのだったのだ。ここをすっぱり読み飛ばしてしまい、あとからの修復作業で手間取るハメに。取説はしっかり読むことが、やはり肝要だ。大きく反省っ!



基板のはんだ付けまで完了した…と思いきや、実はいくつか間違いが。取説を読み直して再チャレンジ!


基板が完成したら本体に戻し、トランスや音声ライン、コネクタをつなげば作業は終了。開始から約4時間。個室があるなら日を分けて作業してもいいだろう。



本体の内部配線をこちらもハンダづけ。配線が色分けされているので間違えにくい


 



先ほど組み立てた基板を組み付ける


部品が細かいことと、取説がモノクロ印刷であることからベテランさんにはすこし目がツライかも。取説をトライオードのHPで公開してくれればカラーで見られるし拡大できるしで作業効率アップは間違いなし! トライオードさんよろしくお願いします。


 


真空管を挿す。電源を入れる。そして……


(たぶん)完成したTRK-3488に、出力管EL34と初段管12AX7を挿す。電源ボタンはOFF、ボリュームは0を確認して電源コードをつなぐ。そしていよいよ「ケーキに入刀です!」ならぬ「電源ボタンONです!」。



なんとか無事に完成!真空管は2種類で、左右の大ぶりな「EL34」と、中央の小さめな「12AX7」。それぞれ規定の位置に差し込んで電源オン。ドキドキの瞬間…


オレンジ色のパワーランプが灯る。20秒、1分。焦げたようなにおいも煙も出ていないようだ。ひとまず安心して、電源を落とす。ホッとした、というのが正直なところ。



真空管にほのかなあかりが灯るのが見える。焦げ臭い匂いや異音もなし。どうにか間違えずに配線完了!


続いて本番の音出しといこう。「PHILEWEB」ご自慢の新設試聴室「WHITE ROOM」(クラプトンか!?)へ移動する。



B&Wのスピーカー「607 S3」を組み合わせて早速試聴を開始!


トライオードの真空管バッファ搭載CDプレーヤー「TRV-CD6SE」を音源に、B&W「607 S3」をスピーカーに接続を行う。動悸が高まる。ワクワクというより、ハラハラしている自分がいる。救心を飲まなくては(笑)


持参したCD盤はハイレゾでもないのだけど、聴き込んだ作品揃いだから違いには気づきやすいはず。



前田さんのフェイバリットCD、80年〜90年代ロック&ポップスを中心に試聴開始!


プレーヤーとアンプの電源を入れて少し待つ。ディスクを入れてPLAYボタンを押す。ボリュームを時計回りに……「音、出たよ!」「いいじゃん!」と盛り上がる取材班。涙が出そうだ!


シン・聴き直し!30年聴いてきたアルバムから新たな発見


ここでオーディオの定番ソフトをかければ理解も進もうというものだが、聴いたのは80〜90年代のポップスばかり。TMネットワーク、グラスバレー、PSY'S、土屋昌巳、佐久間正英、安部恭弘、ノイマンの「我が祖国」に唯一の洋盤がユーライアヒープの2ndだというのだから、これはもう分かってくださいという方が無理筋である。


しかしサウンドの傾向はお伝えできる。たとえばTMネットワークならブリブリのデジタルビートが太いだけでなく輪郭が明瞭で、変な表現ながら“デジタルビートの生っぽさ”を感じた。グラスバレーは知る人ぞ知るニューウェーブバンド。このバンドは“俺が主役だ”と言わんばかりのドラムと、“ギターそこのけ!”というシンセサイザー、アンニュイなヴォーカルの激突が特長だが、その各々が上側に、ベースとギターが音楽のボトムを支えるそんな構図が見えてきた。


もう30年も聴いているのに、今さらの気づきなんておかしいようだが、本当だ。こりゃ手持ちの音楽、シン・聴き直し! 寝不足確定というわけです(笑)


意外な魅力! NFBスイッチの効果


TRK-3488はその型番が示すように、EL34とKT88の2種類の出力管を差し替えて音調の違いを愉しめる特長をもつが、それに加えて、NFB=ネガティブフィードバックのON/OFFスイッチも積んでいる。



NFBのオンオフで音質調整ができるのもポイント


その理由をトライオードの山崎社長に尋ねると、「このNFBスイッチというのは静特性の改善のために付けています。ONにすると周波数特性が改善され若干レンジ感が広く感じます。OFFの場合の方が本来の真空管の音色を楽しむのに適しています。ですので聞くスピーカーによってON/OFFを聞き比べて自分の好みのサウンドを選べば良いと思います」とのこと。OFFにすると確かにややナロウに聞こえる。なるほど、裸の真空管サウンドがこれか。興味深い聴き比べができる魔法の杖なのだな、NFBスイッチってやつは!


さらに自宅では最近話題のサブスクサービス「Qobuz」(コバズ)でいろいろ聴いた、そして楽しんだ。概して言えるのは、真空管アンプで連想されるレトロな音では決してないということ。昨今ポタアンの世界でもミニチュア真空管の採用がホットだが、もしかしたら「ハイレゾ+真空管=美音」なんて公式が成り立っているのかも知れない。



自宅に持ち帰って、Qobuzのハイレゾストリーミングも試聴!


ほんのり灯るフィラメントを見たさに、部屋の照明を落としている自分に笑ってしまう。そうだ、真空管アンプはその独自性ある造形美から、インテリアとしても立派に機能する。これはオーディオラックに隠したくない。見せたい! しかし子供たちにイジられないよう注意を払わなければ、自分が泣くことになるぞ。



真空管アンプはリビングに置いても雰囲気GOOD。ただし、真空管は非常に熱くなるので、子どもの手の届かないところに置くようにしたい


クラフトオーディオはオーディオ趣味道の入口であると同時に奥の院でもある。ここで立ち止まってひたすら聴きまくるのもいいし、パーツ交換などを通じて、どんどん深みにはまることもできるからだ。


「今は何でも簡単に手に入る時代ですが、自分の手で組み立ててもらってそのプロセスを味わっていただきたい、感動してもらいたいと思い販売を続けています」と山崎社長は語る。そうだ。わざわざオーディオをクラフトするって、そういうことなのだ!


もういちどオーディオを新体験してみないか? オーディオは君がドアを叩くのを待っているぞ。


次回もお楽しみに!

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